【25話】ダンスパーティー
ダンスパーティー当日。
テーブルに座っている私は、皿に盛った大量の料理をバクバクと頬張っていた。
食事はビュッフェ形式で食べ放題。しかも、どれもこれもおいしい。
だったらもう、食べるしかなかった。
でも私の一番のお気に入りは、食べ物ではない。
飲み物だ。
ゴクッゴクッ……! ぷっはー!!
グラスに入った赤ワイン――のようなぶどうジュースを、一気に飲み干す。
「う~ん!!」
このぶとうジュースが、最強においしい。
おいしすぎて、軽くもう十杯は飲んでいる。
パーティーに来てよかった!
まだ一度も踊っていないというのに、私はすっかり堪能していた。
そこへ、ティアがやってきた。
「一緒に踊ってください!」
「もちろん」
私的にはずっと飲み食いしていたいのだが、約束を反故にするわけにはいかない。
立ち上がった私は、ティアと踊り始める。
めちゃくちゃ上手という訳ではないが、私はそれなりに踊れていた。
転生前のカトレアは、令嬢教育を受けていた。
その影響もあってか、ダンスなんてこれっぽっちも踊れなかった前世の私でもそこそこのものになっている。
対して、ティアの動きはぎこちない。
あんまりダンスが得意じゃないのかも。
という訳で、私がリードしていく。
「ごめんなさいカトレア様。実は私、ダンスをしたことがなくて……」
「いいのよ」
ぜんぜん迷惑ではない……というより、むしろラッキー。
動きがぎこちないティアは、とてもかわいらしい。
それをこんなにも間近で見られることの、なんと幸せなことだろう。
「カトレア様のおかげで、私はひとりぼっちじゃなくなりました。あのとき声をかけてくださって、本当にありがとうございます! これからもよろしくお願いします!」
「えぇ、こちらこそ」
私から手を離したティアは、笑顔で一礼。
私の前から去っていく。
そうすると入れ替わるようにして、セシルがやってきた。
私に向けて手を伸ばす。
「次は僕と踊ってくれるよね?」
そういえば、そんな約束してたっけな……。
生徒会の男子メンバー三人とも踊る約束をしていたことを、ここで思い出す。
飲み食いに夢中ですっかり忘れていた。
「も、もちろんですよ!」
セシルの手を取り、踊り始める。
セシルはダンスがとてつもなくうまかった。
プロ顔負けの動きだ。
そこそこ踊れるレベルの私とは、比べ物にならなかった。
完全にリードされる形になる。
「ダンスは僕の勝ちだね」
セシルが得意気に笑った。
ものすごく嬉しそうだ。
こういうのって勝ち負けじゃないと思うんだけど……。
楽しそうだからいいか。
「他の人に勝っても嬉しくないけど、カトレアに勝つと嬉しいなぁ!」
……え、私、嫌われてるの!?
大嫌いなカトレアをボロクソに打ち負かすのが楽しい。
セシルはそう言いたいのだろう。
「やっぱり君は特別だよ!」
ウィンクをしたセシルが、体を離す。
そして片膝をついて、私の手の甲に口付けをした。
「わぁ!?」
驚いている私にいたずらな笑みを浮かべて、セシルは去っていった。
……って、驚くことじゃないか。
いきなりそんなことされてちょっとびっくりしたけど、この世界では挨拶のようなものだろう。
驚くほどのことでもない。
そんなことよりも、だ!
セシルに嫌われていたことの方が、よっぽど重要。
関係は持ちたくないが、嫌われているのは悲しい。普通にショックだった。
もっと話をして、関係を改善しなくちゃ!
意気込んでいると、ルーファスがやってきた。
「またもやセシルに先を越されてしまいましたか。……このままではカトレアを取られてしまう」
やってくるなりそんなことを呟いた。
表情はものすごく悔しそうだ。
「取られるとは、いったいなんのことですか?」
「……いえ、なんでもありません。踊りましょう」
ルーファスと手を取り合い、踊っていく。
「あなたが生徒会に入ってくると聞いたとき、私は心底嫌がっていました。ワガママで傲慢と聞いたので、関りたくなかったのです。ですが、実際のあなたは大違い。とても優しく心遣いができる、本当に素晴らしい女性です。私はそんなあなたを尊敬していますし、誰よりも近くにいたいと思っています」
ルーファスが気持ちをこめて言ってくる。
しかしカトレアは、まったく話を聞いていなかった。
ルーファスがさっき言った『取られてしまう』について、ずっと考えていた。
そして、答えにたどり着く。
命だ!
どちらが先に私の命を取るのか――ルーファスとセシルはそんな勝負をしているに違いない!
つまりそれは、ルーファスにもめちゃくちゃ嫌われていることになる。
私にだけは優しくしてくれるから嫌われてないと思ったけど、それは勘違いだった。
セシルだけでなく、ルーファスとも仲良くしないと……!
「これからも私と仲良くしてくれるでしょうか?」
「もちろんですよ!」
首がもげるんじゃないかというくらいの勢いで、私はぶんぶんと頷く。
だって命がかかっているんだから!