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【2話】規格外の魔力


 転生二日目。


『どうぞお楽しみください』という声を最後に、機械音声はいっさい聞こえてこない。

 

 昨日のあれはいったいなんだろう? もしかして夢だったの?

 ……なんて思うけど、それはないんだよね。

 

 裏ルートに関する質問を頭に浮かべれば、テレレレン♪というふざけた効果音がすぐに返ってくるからだ。

 いっさい質問には答えないくせして、効果音だけはちゃんと流れてくる。かなりムカつく。

 

 というか本当に、悪役令嬢無双ルートってなんなんだろう……。

 

 そんなことを思いながら机に座っている私の5メートルほど前方では、壇上に立っている三十代の男性が挨拶を行っていた。

 挨拶というのは入学の挨拶で、三十代の男性は魔法学園の講師。そして私が今いるこの場所は、魔法学園の一年生の教室だ。

 

 教室には私の他にも、十数人ほどの生徒がいる。

 彼らは全員が、貴族家に生まれた子どもだ。

 

 ここティクシリオン王国では、魔力を持つ15歳から18歳までの貴族は魔法学園に通うことが義務付けられている。

 学年は一年生から三年生までの三つ。一学年につき一クラスずつあり、それぞれ教室が独立している。

 

 そんなわけで15歳であるカトレアに転生した私も、今日から王都にあるこのリエルト魔法学園の一年生となった。

 まさかもう一度学生をやるはめになるとは思わなかったが、成り行き上しょうがない。

 

「挨拶はここまで。それでは次に移ります。みなさんには今から、この水晶に手を触れてもらいます」


 講師が教卓の上に、水晶玉を置いた。

 それは『魔力水晶』と呼ばれるものだ。


 魔力水晶は触れた人間の魔力の強さ――魔力強度を数値化する。

 その数字は、水晶に表示されるのだ。

 

 一般的な魔力強度の平均値は『10』前後。

 高位の貴族であるほど、強い魔力を持つと言われている。

 

「アビン・ダスティン伯爵令息」

「はい」

 

 講師に名前を呼ばれた男子生徒が前に出て、水晶に手を触れる。

 表示された数字は平均値である『10』だった。

 

 その後も名前を呼ばれた生徒がひとりずつ、魔力水晶に手を触れていく。

 水晶に表れる数字はどれも平均値である『10』前後だった。


「では次、シンシア・セルスタル男爵令嬢」

「はい」

 

 名前を呼ばれて立ち上がった女子生徒が、前に出ていく。

 肩の上で切られている金色の髪に、緑色の瞳をしている美少女だ。

 

 そんな彼女に、私は熱い視線を送っていた。

 

 ()シンシア! あぁ……尊すぎる!


 シンシア・セルスタルは、乙女ゲーム『ラブ・ファンタジア』のヒロイン。

 そして、私の最推しキャラだ。

 

 シンシアは貧乏な男爵家の生まれであるが、非常に高い魔力を持っている。

 高位の貴族ほど高い魔力を持つと言われているこの世界で、彼女は例外中の例外だったのだ。

 

 ゲーム内ではそれをよく思わない学生たちに目を付けられ、嫌がらせを受けてしまう。

 でも彼女は、そこでへこたれない。

 折れないハートで立ち向かっていく。

 

 そんなシンシアの強さと健気さが、私は大好きだった。

 ゲーム中、何度涙を流したことかわからない。全部でティッシュ八箱分くらい使った気がする。

 

 そんな大好きなキャラクターと、こうして今私は一緒の空間にいる。

 これが喜ばずにはいられるか!

 

 うっとりしていたら、急に教室内がざわめいた。

 学生たちの視線は、魔力水晶に向けられている。

 

 シンシアが手を触れている魔力水晶には、『100』という数字が表示されていた。

 

「素晴らしい! 三桁の数字なんて滅多にでるものではありませんよ!」

 

 大興奮で賛辞を送る講師に、シンシアは恥ずかしそうに頭を下げた。

 逃げるようにして、小走りで席に戻っていった。

 

 うーん、かわいい!

 そういう謙虚で恥ずかしがり屋なところも、とってもキュートだ。

 

「それでは最後。カトレア・ラジェンドラ公爵令嬢」

「……」

「カトレア・ラジェンドラ公爵令嬢!」

「……あ、はい!」


 あ、そうか。

 今の私はカトレア・ラジェンドラなんだっけ。

 

 転生してからまだ二日。

 カトレアとしての実感がまだ薄い。

 

 名前を呼ばれても、すぐには反応できなかった。

 

 前に出てきた私は、水晶の前に立つ。

 

 うわぁ……マジで悪役令嬢じゃん。

 

 水晶に映る自分の姿にドン引き。

 

 背中まで伸びた金色の髪に、吊り上がった真紅の瞳をしている。

 顔立ちは悪くなくどちらかと美形だが、ものすごくキツイ印象を与える。

 

 悪役令嬢にふさわしい、典型的な悪役顔だった。

 

 少しげんなりしながら水晶に触れる。

 

 へ? なにこれ?

 

 表示されたのはなんと、『0』という数字。

 しかも、ひとつではない。

 

『0000000……』といういっぱいの『0』が、びっしりと並んでいる。

 

 私の魔力強度って『0』なの!? 原作と違うじゃん!

 

 ゲーム内でのカトレアの魔力強度は、そこそこ高かった。

 確か『30』くらいだったはず。

 

 それなのに『0』……ゼロ! ゼロ!

 これはいったいどういうことだ!

 

 なにが悪役令嬢無双ルートよ! 魔力0でどうやって無双しろっていうのよ!

 

 魔力強度が『0』ということは、魔力がないということ。

 つまり、魔法がまったく使えない。

 

 無双どころか、これではなにもできない。

 

 ちょっと聞いてるの!?


 テレレレン♪

 

 機械音声に当たり散らすも、返ってきたのは効果音だけ。

 そうなるのはわかっていたが、実際にやられると煽られているとしか思えない。

 

 自称温厚な性格の私ではあるが、これにはカチン。

 目の前の水晶を床に叩き落としてぶち割ってしまいたい衝動に駆られてしまう。

 

「これは……!」


 本気で水晶を投げようとしたところで、講師から驚愕の声が上がった。

 

「これは『0』ではありません。桁が足りないのです……!」


 ……え、マジで?

 

 水晶に並んでいる『0』は十個以上。

 私の魔力強度は、一億、十億――それよりも、もっと大きな数値ということになる。

 

 つまり、カンストしていた。

 

「あんな数値みたことないわ……!」「今までの世界最高って確か『1,500』だよな……。なんだよあの数字は!」「すげぇ……すごすぎる!」

 

 クラスメイトたちがいっせいにざわつく。

 講師と同様に、大きく驚愕していた。

 

 そして当人である私も、驚愕していた。

 

 ゲームでのカトレアの魔力強度は、ヒロインであるシンシアに遠く及ばない。

 だからこそカトレアはシンシアを妬んで、いじめてしまう。

 

 それなのに私の魔力強度は、シンシアよりもずっと大きい。

 

 いったいどういうことなの……?

 

 テレレレン♪

 

 裏ルートに入ったからこうなったの?

 

 テレレレン♪

 

 機械音声に問いかけるも、返ってくるのはムカつく効果音だけだった。

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