【19話】足りないもの ※ルーファス視点
生徒会室を出たルーファスは、別棟へ向かっていく。
その表情は険しかった。
眉間にしわを寄せながら、ルーファスはメガネの位置を調整した。
(私には力が必要なんです……!)
先日行われた、カトレアとセシルの模擬戦。
正直なところルーファスは、セシルが勝つと思っていた。
学園最強と呼ばれている彼の実力は確かだ。
模擬戦をしているところを何度か見たことがあるが、どれも完全なる勝利を収めていた。
そんな彼が負けるというビジョンが、どうにも思い浮かばなかった。
しかし蓋を開けてみれば、結果はまったく違ったものになった。
カトレアは学園最強と呼ばれているセシルを、圧倒していた。
そのとき、ルーファスは気づいた。
カトレアがとんでもなく強力な力を持っているということに。
認めたくないが、セシルはルーファスよりも上の実力を持っている。
カトレアは、そんなセシルを赤子扱いした。
それはつまりルーファスとカトレアには、比べ物にならないくらいの大きな実力差があるということだ。
ルーファスは将来、カトレアを守れるような男になりたいと思っている。
でも、今のままでは無理だ。
(足りない……圧倒的に力が足りない!)
さらなる力を求めるべく、ルーファスは高貴なる魂へ入会した。
すべては、カトレアにふさわしい男になるためだ。
「私は必ず強い男になる……!」
奥歯を噛んだルーファス。
首に付けている銀色のネックレスを、固く握りしめた。
別棟にやってきたルーファスは、最上階の一室に入る。
ここが高貴なる魂の活動場所だ。
部屋の中には、十人ほどの生徒がいた。
首元には銀色のネックレスをつけている。
彼らはロスルに声をかけられた、高貴なる魂の会員。
ルーファスと同じく、力を求めている者たちだ。
メガネをかけた四十代の男性が、部屋に入ってきた。
彼がロスル。
リエルト魔法学園の講師であり、高貴なる魂の運営者だ。
「お集まりいただきありがとうございます。さて、本日の講義は実技です」
部屋に集まった生徒たちを見て、ロスルは歪んだ笑みを浮かべた。
「生徒会を襲撃しに行ってください」
部屋の中がいっせいにざわついた。
困惑の声でいっぱいになる。
(生徒会の襲撃? どういうことですか……!)
ロスルの言っていることは意味不明。
他の生徒達と同様、ルーファスも困惑していた。
「こんなことをいきなり言われたら、驚いて当然ですよね。ですが安心してください。……すぐに疑問に思わなくなりますから」
ルーファスの付けていた銀色のネックレスが、突然黒い光を放ち始めた。
それはルーファスだけではない。
他の生徒たちも全員がそうなっている。
「……なんですか、これは」
グラリと視界が歪む。
ネックレスから放たれる黒い光に呑まれて、意識がもっていかれそうになる。
バタン、バタン。
一人、また一人と、意識を失った生徒たちは床に倒れていく。
「……ここ、までですか」
最後に残ったルーファスも、意識を失ってしまった。