【18話】サークル
「私ついに、『高貴なる魂』に声をかけられちゃった!」
朝のホームルームが終わったあとの、一年の教室。
少し離れたところではしゃぐ女子生徒の声が、私の耳に入ってきた。
リエルト魔法学園の学生たちの間では今、あるものが話題になっていた。
それは女子生徒が口にした、『高貴なる魂』というものだ。
近頃は、その言葉を聞かない日はない。
高貴なる魂は、リエルト魔法学園の講師――ロスルが運営しているサークルだ。
別棟の一室を使って特別な講義を行い、サークル生の魔力を高めることを目的としているらしい。
高貴なる魂は、原作ゲームにはいっさい出てこない。
ついでに言うと、ロスルという講師も出てこない。
裏ルートだけの、オリジナル要素だ。
「みてみて!」
女子生徒が首にかている銀色のネックレスを、自慢するかのように見せびらかす。
サークルに入ると、その証として銀色のネックレスを貰えるらしい。
なんでも付けるだけで、魔力を増幅してくれるとかなんとか。
ちなみに、希望すれば誰でも入れるという訳ではない。
高貴なる魂に入れるのは、ロスルに声をかけられた生徒のみ。
声をかけられるのは、魔力強度の高い者だけだ。
高い魔力強度をもつ私も声をかけられたが、一秒もせずに断った。
私の魔力はカンストしている。これ以上魔力を高めることになんて、興味がなかった。
シンシアも勧誘されたらしいが、「カトレア様が入らないならお断りします」と断ったとか。
私とシンシア以外で魔力強度が高い生徒いえば、まっさきに上がるのは生徒会の男子メンバーの三人だろう。
もちろん彼らも声をかけられているはずだが、入ったという話は聞いていない。
彼らは十分強い。
私と同じように、これ以上強くなることに興味はないから入らなかったのだろう……と思っていたのだが。
その日の放課後。
私がいつものように生徒会室で仕事をしていると、ルーファスが帰り支度をし始めた。
放課後になってから、まだ三十分ほどしか経っていない。帰るにはだいぶ早いはずだ。
というか、ルーファスがこんなに早く帰るなんて初めてじゃない?
ルーファスはいつも、誰よりも遅くまで残って仕事をしている。
珍しいこともあるものだ。
なんだか気になってしまった私は、声をかける。
「今日はお早いお帰りなのですね」
「予定がありましてね」
そのとき、ルーファスの首元に銀色のものがチラリと見えた。
高貴なる魂に入った人だけが貰える、銀色のネックレスだ。
「高貴なる魂に入られたのですね?」
「はい。先日ロスル先生に声をかけていてだき、入会いたしました。これからロスル先生の特別講義があるのです」
「……少し意外です。ルーファス様は十分お強いので、そういったものには興味ないかと思っていました」
「…………こんなものでは足りないのですよ」
ルーファスが悔しそうな顔を見せる。
でもそれは一瞬。すぐに元に戻った。
「それでは失礼いたしますね」
口元に微笑みを浮かべてから、部屋を出ていった。
今のなんだったんだろう。ちょっと気になるなぁ。
一瞬だけ見せた意味深な表情が、私は少し引っかかっていた。