【15話】セシルと模擬戦
それが今回の経緯。
シンシアの暴走によって、セシルと模擬戦をすることになってしまった。
「シンシア。準備できた?」
向かい合っているセシルの声に、私はめんどくさそうに頷く。
本当にめんどくさい。
始まる前に降参したいくらいだ。
でも、それはできないよね……。
シンシアを悲しませたくもないもん。
ここで負けたら、私の勝利を信じて疑わずにいてくれるシンシアを裏切ることになる。
それは絶対にできない。
そうなればもう、勝つ以外に道はない。
「それじゃあ勝負開始だ。まずはカトレアから攻撃してきていいよ。僕は先輩だから、ハンデをあげるよ」
「ありがとうございます。それでは、お言葉に甘えさせていただきますね」
私は右腕を突き出した。
魔法を発動するには、腕を突き出して習得している魔法の名前を口にする必要がある。
えっと私が習得している魔法にはどんなものが――え!?
私が取得している魔法は、ざっと1,000種類以上。
初級魔法からあまりの高威力に使用を禁じられている禁呪まで、大量の魔法を習得していた。
一人の人間が使える魔法は、どんなに多くても50種類が上限と言われている。
それなのに、私は1,000。上限の20倍もある。
うわぁ……なにこのヤバそうな魔法は……。
禁呪には【世界終焉】とか【万物消滅】とか、明らかにヤバそうな名前の魔法がゴロゴロあった。
なんと恐ろしい。
でもゲームでのカトレアって、禁呪なんて使えないはずだよね?
これも裏ルートに入った影響なの?
テレレレン♪
……たぶん正解のようだ。
意思疎通はバッチリ取れている。
禁呪を使えば勝てるだろうけど、そんなことしたらセシルを殺しちゃうよね……。
しょぼいのにしとかないと。
そんな訳で私は初級魔法――【ファイアボール】を選択。
初級魔法ならきっと、威力はしょぼいはず。セシルを殺すようなことにはならないだろう
「【ファイアボール】」
名前を口に出して、魔法を発動する。
瞬間、私の手のひらから巨大な火の玉が放たれた。
うそっ! こんなデカいの!?
初級魔法だからしょぼいものを想像していたのに、かなりデカくて凶悪。
完全に想定外だった。
「なんて大きさの魔法だ……! 【クリスタルシールド】」
余裕のなくなった表情をしたセシルの前方に、分厚い水晶の壁が出現する。
巨大な火の玉は、水晶の壁と接触。
水晶の壁が砕け散るとともに、白煙が舞う。
やりすぎちゃったわよね。大丈夫かな……。
ケガしていないといいけど。
白煙が晴れる。
私の前方では、セシルが仰向けになって倒れていた。
「大丈夫ですか!」
やっぱりやり過ぎてしまった。
私は慌てて駆け寄る。
でも、セシルは意識があった。
口元は笑っている。
無事でよかった……。
心の底から安心する。
「君の実力は嘘じゃない。本物だ。僕の負けだよ。完敗さ」
セシルはゆっくりそう言ってから、体を起こした。
「こんなに悔やしいのは初めてだな。でもなんだろ……悪い気はしないや」
セシルがニコッと笑う。
太陽のように晴れやかな、気持ちのいい笑顔だ。
「ねぇカトレア。僕とまた勝負してくれる?」
「わかりました」
勝負なんてもうやりたくない。
でもそんな気持ちのいい顔で言われてしまったら、どうにも断れなかった。