【14話】どうしてこうなった……
リエルト魔法学園の敷地内で一番大きな建物――大演習場。
そこのステージの上では、私とセシルが向き合っていた。
ステージをぐるっと囲むように設けられている二階の観客席には、多くの学園生たち。
ステージの二人に視線を向けて、大盛り上がりしている。
これからここで、私対セシルの模擬戦が始まろうとしていた。
はぁ……どうしてこんなことになったんだろ?
先日のこと。
私は、シンシアとセシルと一緒に、生徒会室で仕事をしていた。
そうしたらセシルがいきなり、あきたー、とか言い出した。
持っていたペンをほっぽり投げる。
おい、先輩。
一年生二人が真面目に仕事をしているというのに、そういうことを言い出すのはどうなんですか?
と言いたかったけど、相手は先輩。
我慢我慢。
「ねぇ、二人とも知ってる? 最近みんなの間で、僕とカトレアどっちが強いのかって噂になってるんだよね」
セシルの言葉に、私とシンシアは小さく頷いた。
その噂は耳にしたことがある。
学園最強といわれているセシルと、魔力強度のケタが限界突破したカトレア。
二人が戦ったらどっちが勝つのか、学生たちは気になっているみたいだ。
「実際さ、どっちが強いんだろうね?」
セシルがじーっと見てくる。
興味津々の瞳には、戦ってみたい! 、という気持ちが強く出ている。
え、普通に嫌だけど……。
やる気満々のセシルには悪いが、私はそんなことしたくない。
人を傷つけるのも自分が傷つくのも嫌だ。
勝負なんてごめんだ。
「セシル様に決まっていますよ」
「そうなの? ……でも確かに、桁がオーバーするなんて聞いたことがないもんね」
「そうですそうです! その通りです!」
テキトーに言ったたら、なんか納得してくれた。
よくわからないけど、これで戦わずに済んだ。
ナイス私の話術!
しかしこの場において納得していない者が、ただ一人いた。
「セシル様。それはつまり、カトレア様が嘘をついているとおっしゃりたいのですか?」
その人物の名は、シンシア・セルスタル。
両目をすがめて、セシルへ敵意を剝き出しにしている。
え、なに言ってんの?
せっかく戦わなくていい流れだったのに、急に雲行きが怪しくなる。
「カトレア様は嘘をついていません!」
「でも、僕は実際に見ていないしなー」
「でしたら証明してさしあげましょう」
「……それはつまり、僕と戦うってことでいいのかな?」
「はい! 私のカトレア様は誰にも負けません! そのことを思い知らせてあげます!」
うぉい!
マジでなに言ってんだ!
「いいね……久しぶりに楽しめそうなイベントだ」
セシルは楽しそうに笑った。
決闘を受ける気でいる。
いや、そこは断ってよ!
このままでは意味不明なノリで決闘が決まってしまう。
まずい……どうにかして断らないと!
「あの、決闘するなんて私は一言も――」
「頑張ってくださいカトレア様! 私、勝利を信じてますから!」
シンシアが曇りのない瞳を向けてきた。
うわああああ! それはズルだ!
推しにそんな風に見つめられてしまえば、もう無理。
断るという選択肢は、その瞬間に消えてしまった。