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【13話】思いもしなかった日々 ※シンシア視点


 シンシア・セルスタルは、セルスタル男爵邸の私室でうっとりとした表情を浮かべていた。

 

「今日も素敵な一日だったわ」


 シンシアは充実した学園生活を送っている。

 友達になってくれたカトレアや、最近一緒に昼食を食べるようになったティアと過ごす毎日は本当に楽しい。

 

 こんな日々が過ごせるなんて、思いもしなかった。

 



 貧乏な男爵家に生まれたシンシアは、周囲とは比較にならないほどの強い魔力を持っていた。

 高位の貴族ほど強力な魔力を持つと言われているこの国では、それは非常に珍しいこと。例外中の例外だった。

 

 そんなシンシアのことを、家族は誇りに思いたくさんほめてくれてた。

 でも、みんながみんなそうではない。

 

「バケモノめ!」「低位貴族の癖に調子に乗るな!」「汚らわしい……! 近寄らないでくれる?」


 周囲の貴族たちは大いなる力を持つ彼女を妬み、罵声を浴びせてきた。

 

 そんなシンシアには、親しい友人などできなかった。

 まったく友達がいない毎日は、寂しくて悲しかった。

 

 

 十五歳を迎えたとき。

 魔法学園に通うことになった。

 

 シンシアはそれが、憂鬱で仕方なかった。

 

 学園に通えば、周囲の貴族たちに罵倒され嫌がらせをされる。

 それが目に見えているから、行きたくなかった。

 

 でも、そうは言い出せなかった。

 

「お前なら学園でナンバーワンになれるぞ! 頑張れシンシア!」「あなたは私の自慢の娘よ!」

 

 笑顔で応援してくれる両親の期待を、シンシアは裏切ることができなかった。

 だから本心を押し殺して、学園に通うことにした。

 

 そんな気持ちで通った、初日の昼休憩。

 思っていた通りのことが起こる。

 

「ちょっと魔力が強いからって、調子に乗らないでくださるかしら?」「貧乏男爵家の出の癖に……生意気なのよね!」「少しはご自分の立場をわきまえたらいかが?」

 

 シンシアはクラスメイトの女子生徒たちに絡まれてしまった。

 

 しかもそこに、性悪で有名なあのカトレア・ラジェンドラ公爵令嬢まで来てしまった。

 

 彼女のことだ。

 入試の成績で自分より上を行ったシンシアのことを、絶対に許してはいない。

 

 ここへ来たのは、その恨みをぶつけるためだろう。

 

(やっぱり思った通り……ここでも私はいじめられるんだ。学園なんて来るんじゃなかった……!)

 

 カトレアの背中にいるシンシアは、泣きそうになってしまう。

 

 でも、

 

「やめなさい! シンシアをいじめる人間は誰であろうと許さないわ!」


 カトレアはシンシアを助けてくれた。

 

 てっきりいじめてくるとばかり思っていたのに、それはまったく違った。

 いじめっ子たちを追い払ってくれた。

 

(嘘……どうして?)


 目の前で起こったことが信じられない。

 性悪で有名なあのカトレアが助けてくれるなんて、思ってもいなかったからだ。

 

(でもとりあえず、助けてもらったお礼を言わなきゃ)

 

 状況は不明だが、助けてもらったことには変わりない。

 シンシアは少し緊張しながら、お礼の言葉を口にした。

 

「あの……助けていただいて、ありがとうございました」

「気にしないで。困っている人がいたら助けるのは当然のことよ」


 静かに微笑んだカトレアは、迷うことなくそう言った。

 その笑顔にもその言葉にも、いっさいの裏表はない。

 あるのは、大木の幹のように立派な信念だけだ。

 

 利益なんて考えることなく、カトレアは人助けをした。

 

「……素敵」

 

 他者のために一生懸命になれる彼女のことを、心からそう思った。

 このときシンシアの胸は、大いに高鳴っていた。

 

 そう、一目惚れしてしまったのだ。

 

 

 それから、毎日が輝いた。


 全部カトレアのおかげだ。

 何度ありがとうを言っても足りない。

 

 あんなにも行きたくなかった学園に、今では通うのが楽しみで仕方ない。

 幸せに溢れている。

 

 しかしそんなシンシアにも、大きな悩みがあった。

 

 最近友達になったティア、生徒会の男子生徒三人――彼らはみな、カトレアに惚れている。

 カトレアの優しさに触れ、虜になっている。

 

 シンシアは、優しいカトレアのことが大好きだ。

 誰にでも優しくする彼女は、誰よりも素敵でかっこいい。

 

 これからもその姿を、一番近くで見ていたい。

 

 でもこれ以上は、他の人に優しくしないでほしいという気持ちもある。

 その優しさを自分だけに向けてほしいと思ってしまう。

 

「他の人にあげたくない」

 

 矛盾しているのはわかっている。

 でもこれが、シンシアの本心だった。

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