【11話】転校生?
午前八時。
リエルト魔法学園一年の教室で、朝のホームルームが始まる。
教室内の生徒たちは、ざわついている。
担任講師の隣に、小柄な美少女が立っているからだ。
背中まで伸びた青色の髪に、綺麗な水色の瞳をしている。
あどけなさの残る顔立ちは、なんともかわいらしい。大人しそうで、どこか儚げな雰囲気をしている。
誰だろう? 転校生?
彼女はゲーム未登場のキャラクターだ。
だからいっさいの情報がない。
裏ルート限定の、転校生キャラだったりして?
テレレレン♪
質問を浮かべるといつものように古臭い効果音だけが返ってきたが、もう気にしない。
転生から二か月ほど経った今では、もうすっかり慣れていた。
まぁ、出自なんてどうでもいいけどね!
儚げな雰囲気の美少女がクラスメイトになるのは、私としては大歓迎。
細かいことは気にしない。
「彼女はティア・レプリオン子爵令嬢です。体調の都合でこれまで休まれていましたが、本日から登校するようになりました。クラスメイトとして、温かく迎えてあげてください」
あー、そういえば空席がひとつあったっけ。
教室の隅に、入学からずっと誰にも使われていない席があった。
完全に存在を忘れていたが、ティアのものだったのだろう。
「それでは挨拶をしてください」
「……よ、よろしくお願いします」
挨拶の声は、風が吹けば消えてしまうほどに小さい。
貼り付けているかのようなような表情は、それはもう強張っていた。
めっちゃ緊張してる……人見知りなのかな?
でも、そういうところもかわいいよね!
そういう属性は大好物。
教壇の上でガチガチになっている美少女を、私はうっとり見ていた。
朝のホームルームの後、一年の生徒たちは大広場に出てきた。
これから実技講習が行われる。
「ティアさんはどこかのペアに声をかけて、入れてもらってください」
「……はい」
講師の声に小さく返事をしたティアであったが、顔をキョロキョロさせるばかり。
どこのペアに声をかけていいのかわからない様子で、困っていた。
そんな彼女のところへ、私は向かっていく。
困っている美少女がいる。
それならやることは、ひとつしかない。
「よかったら私たちと組まない?」
あ、シンシアに許可を取ってなかったっけ……。
と、今更になって気が付く。
でも私の後ろでは、
「なんとお優しい……!」
シンシアがものすごく関心していた。
これなら問題なさそうだ。
よかったよかった!
「あの……えっと、ありがとうございます」
「いいのよ。気にしないで」
ニコリと笑うと、ティアは安堵したような表情を見せた。
******
昼休憩の鐘が鳴ったと同時、シンシアが私のとこへやってきた。
「カトレア様、お昼を食べに行きましょう!」
シンシアとは庭園のベンチで、毎日一緒にお昼を食べている。
昼休憩になると、彼女はいつもこうしてウキウキで私に声をかけてくれるのだ。
ちなみに声をかけられた私も、もちろんウキウキである。
推しと食事をするこの時間が、いつも幸せだ。
そうして席を立ち上がったとき。
ちょうど、ティアが目に入った。
困り顔でキョロキョロしている。
お昼をどこで食べていいかわからなくて、迷っているのかな?
「ちょっと待ってて」
シンシアにそう言ってから、ティアのところへ向かう。
「一緒にお昼を食べましょう」
「でも、私……」
「遠慮することはないわよ。さ」
ティアに手を差し伸べる。
彼女は迷いながらも、私の手を取ってくれた。