【10話】心境の変化 ※アルゼ視点
放課後の生徒会室には今、アルゼ、ルーファス、セシルがいる。
一年の女子二人は、まだ来ていない。
ここにいるのは、男子メンバー三人だけだ。
アルゼは自分の席で、黙々と仕事をこなしている。
しかし、他の二人は違った。
「カトレアのおかげで、すぐ仕事が片付くよね。彼女が生徒会に入ってくれて助かったよ」
「同意ですね。彼女はとんでもない逸材です。……それはそれとして、セシル。あなたはカトレアを頼りすぎです」
ルーファスとセシルは、カトレアについて話している。
それを聞いていたアルゼは、イライラしていた。
アルゼは最初、急に人が変わったようなカトレアにひたすら驚いていただけだった。
しかし毎日生徒会で彼女を見ているうちに、感情が変化していった。
カトレアは優しい性格をしていて、誰にでも平等に手を差し伸べている。
そんな彼女は、人々の上に立つにふさわしい資質を持っている。将来はきっと、良き王妃になるだろう。
今では、そんなことを思っていた。
カトレアのことは、ずっと婚約破棄したいと思っていた。
それが叶ったときは本当に嬉しかった。
しかし今のアルゼは、カトレアを妻にもらいたいと思っている。
要するに、好きになっていたのだ。
好きな女の話を他の男がしている。
それを聞いて、不快にならないはずがなかった。
「ルーファスって本当にカトレアが好きだよね」
セシルがニヤニヤした。
いつもみたく、ルーファスをからかい始めた。
「な……! そ、そういうあなたこそどうなのですか!」
「僕? そりゃ僕だって好きだよ。かわいいし、それにとっても優しいからね! ……あー、告白しちゃおうかな」
「それは許されませんよ!」
「え、なんでさ?」
「それは……と、とにかく! ダメなものはダメです!」
「えー、理由を聞きたいな。そうしないと告白しちゃう――」
バン!
セシルの言葉を遮ったのは、大きな音。
アルゼは拳を硬く握ると、それで机をおもいっきりぶっ叩いた。
二人の会話を、これ以上聞いていられなかった。
「貴様らいい加減にしろ。カトレアは俺の婚約者だぞ……!」
二人を交互に睨みつける。
しかし二人は、まったく怯まなかった。
「婚約者? 違うでしょ。『元』を付け忘れてるよ?」
「そうですね。もう終わった関係を引き出してカトレアを私物化するのはやめていただきたい。みっともないですよ」
「……ッ!」
アルゼは唇を噛んだ。
つい我慢できずに衝動的に動いてしまったが、二人の言う通りだった。
カトレアとの婚約は既に終わっている。
口を出す権利はない。
「でもさ、アルゼがここまで真剣になるなんて初めてのことじゃない? なんか生き生きしているよ」
「確かにそうですね。必死なあなたを見るのは初めてです」
「……」
アルゼはものごとに対する関心が薄い。
言われてみれば、一つのことにこんなにも執着したことはなかった。
(……悪くないな)
執着したのは初めてだが、悪くない気分だ。
気持ちいいとさえ感じる。
「ですがアルゼ。あなたにカトレアは渡しませんよ」
「俺だってそうだ。貴様に譲る気はない」
「じゃあ僕も!」
宣戦布告をする三人の顔は、どこか爽やかで清々しい。
そんな空間へ、カトレアとシンシアが入ってきた。
「あれ? みなさん楽しそうな顔をしてますけど、どうしたんですか?」
カトレアの問いに、三人は誰も言葉を返さなかった。