【1話】婚約破棄と裏ルート突入
「アルゼ・ティクシリオン! あなたとの婚約、ただ今を持って解消させていただくわ!」
転生して一秒後。
胸を張った私は高らかに、この国の第一王子に婚約破棄を宣言した。
転生……そう、転生だ!
普通の社会人だった私は、剣と魔法の世界を舞台にした乙女ゲーム『ラブ・ファンタジア』に登場するキャラクター――カトレア・ラジェンドラ公爵令嬢に異世界転生してしまったのだ!
でも、どうしてここが乙女ゲームの世界だとわかったかって?
ふっふっふ……それは前世の私が『ラブ・ファンタジア』をやり込んでいたからだよ!
アルゼ・ティクシリオンもカトレア・ラジェンドラも、ゲームに出てくるキャラクターの一人。
だからすぐに、ここが『ラブ・ファンタジア』の世界だとわかった。
それを理解したのが転生してから、0.5秒後。
さらにその0.5秒後、私は婚約破棄を宣言した。
でも別に、ノリでやった訳ではない。
婚約破棄したことには、ちゃんとした理由がある。
アルゼがゲームの攻略対象の一人であり、そして私の転生先であるカトレアが悪役令嬢だからだ。
アルゼルートでのカトレアの末路はとにかく、『悲惨』の一言に尽きる。
このルートでのカトレアの役割は、ヒロインとアルゼの恋路をしつこく邪魔すること。
しかしそれは、ことごとく失敗。
最終的にはアルゼに断罪されて、死刑台送りにされてしまうのだ。
もちろん私は、そんな最期を迎えるなんて絶対にごめんだ。
……というわけで転生して一秒で、アルゼと距離を置くことを決めた。
こうすれば断罪されることもなく、死刑台送りになることもないはず。
めでたしめでたしハッピーエンド!
……というのが、理由の一つ。
実は、もう一つある。
傲慢で高飛車でワガママなカトレアのことを、アルゼはめちゃくちゃ嫌っている。
頭の中で常に、婚約破棄したいと考えているレベルでだ。
しかしそんなことをしたら、アルゼに執着しているカトレアが怒り散らして面倒なことになる。
そう考えているアルゼは、嫌々ながらも婚約を続けているのだ。
性悪女に執着されているアルゼの、なんとかわいそうなことか。
だからこっちから、婚約破棄を切り出してあげた。
これでアルゼは、性悪女から解放。
そして私も、断罪されることがなくなる。
これで誰もが幸せになれる。
つまりこの婚約破棄は、ウィンウィンってこと! オーイエー!
「婚約破棄だと……なにを考えている?」
アルゼの疑問の声が、王宮の庭園に広がった。
漆黒の髪をかけあげたアルゼは、サファイアのような青色の瞳をキリっと吊り上げた。
美しい顔立ちには、怪訝の色が浮かんでいる。
疑うのも当然よね。
カトレアはこれまでずっと、アルゼに執着していたんだから。
そんな女にいきなり、バイバイさよなら~ 、と言われても信じられないのだろう。
なにか裏がある、と思っているはずだ。
事情を話せたら楽なのだが、「ここは乙女ゲームの世界で、私はあなたに断罪されたくないから婚約破棄をしたんだよ☆」なんて言っても信じてもらえるはずがない。
もし私がアルゼだったら、そんなことを言う人間には病院を紹介する。
「特別な理由はないわ。あなたのことが嫌いになっただけよ」
顎をしゃくり上げた私は、悪役令嬢っぽいお嬢様言葉で答える。
ちなみに、意図的にこんな喋り方をしているのではない。
言葉を口に出すと、勝手にお嬢様言葉に変換されてしまうのだ。
これまでのカトレアの記憶は頭にしっかりと残っているので、その影響かもしれない。
違和感しかないけど、そのうち慣れるはず。
「それではごきげんよう」
アルゼに背を向けた私は、ルンルンと立ち去っていく。
庭園から出てきた私は、ラジェンドラ公爵邸へと帰る馬車に乗った。
そのとき。
テレレレン♪
どこかで聞いたことがあるような、古臭い効果音が頭に流れてきた。
『あなたは条件を満たしました。これより裏ルート:悪役令嬢無双ルートに入ります』
古臭い効果音の次は、機械音声が流れてきた。
なにを言っているのかさっぱりだ。
「条件ってなんのこと? 転生して一秒で第一王子を振ったから? そもそも、悪役令嬢無双ルートってなによ? そんなルート、ゲームになかったじゃない?」
胸に浮かんだ疑問を立て続けに口にするも、
『どうぞお楽しみください』
機械音声は完全に無視してきた。
「ちょっと! 質問に答えなさいよ!!」
バカにしているかのような対応に、私はイラっ。
怒りをぶつける。
しかし返ってきたのは、
テレレレン♪
ふざけた効果音だけだった。
読んでいただきありがとうございます!
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