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俺の初恋幼馴染は“負けヒロイン”で終われないっ‼~「今フリーなんですけど?」と言ってくる幼馴染を、今度は俺の手で幸せな《勝ちヒロイン》にしてみせます~  作者: 水瓶シロン
第五章~“勝ちヒロイン”デビュー編~

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第78話 ラブコメ主人公も青春している②

 時を少し遡り、夏祭りの日。

 しかし、涼太や姫奈が向かった河川敷の会場とは別所。


 電車で数駅移動し、郊外の比較的長閑な地区。

 周囲にまだ青い稲が揺れる田んぼが広がる場所にある小さな神社。


 やや盛り上がりには欠けるものの、神社を囲うように提灯の明かりが灯され、いくつかの屋台が出店されている。


 客足はまばらで、年齢層は近くに住んでいるであろう小中学生が大半。


 所々にお年寄りの姿も見られるが、屋台を巡って夏祭りを楽しむというよりは、地域の子供達を温かく見守っている雰囲気だった。


「清水涼太と音瀬姫奈、だったか? 幼馴染がいる夏祭り会場ではなくて、本当に良かったのか?」


 カランコロン、と下駄の底を鳴らす浴衣姿の優香が、同じく浴衣に身を包んで隣を並んで歩いている蓮に確認する。


 蓮は軽く笑って返した。


「もちろんですよ。あっちはあっちで楽しんでるでしょうし、二人とはいつでも遊べますから」

「そうか……だか、こっちが楽しくなるとは限らないよ。見ての通り灯りも、出店も、客も少ない静かな会場だからな」


 蓮から一度視線を外した優香は、会場全体を俯瞰する。


 一部子供達がはしゃいで賑やかにしている以外は、特にざわざわとした喧騒はない。


 周囲に広がる田んぼ、もしくはそこに水を入れるための用水路に生息しているカエルの声が耳に届くくらいには落ち着いている。


 しかし、蓮は会場の活気など気にしていない。


 確かにイベント事を楽しむときに、場所は重要な役割を持つが、それと同じくらい一緒にその時間を過ごす人の存在も大切だ。


 むしろ、今日の蓮の目的は、その後者の方にあるといっても過言ではなかった。


 多少の気恥ずかしさから、蓮は曖昧に笑って緩んだ頬を人差し指で掻きながら言う。


「楽しいですよ、俺は。橘先輩がいるので……」

「そ、そうか? なら、良かった……」


 感情の起伏が比較的小さな優香だが、蓮の気恥ずかしさが伝播したのか、微かな動揺を見せた。


 蓮と優香が初めて出会ったのは、幼馴染三人の関係がぎくしゃくしている真っ只中の頃。


 それから、仲直りの助言をもらったり、プライベートで絵を描きに行くのに公園まで同行したり……以降も放課後部活の合間に顔を合わせていた。


 その度に、互いが互いに感じ合う。


 あぁ、自分たちはお互いのことをただの先輩後輩としては見ていないんだな――と。


 最初は気のせいだと思っていた。

 姿を見付ける度、目を合わせる度、妙に胸の奥が落ち着かない。


 しかし、何度も言葉を交わす度に、互いの距離が近付く度に、それは気のせいではないのだとわからされた。


 この気持ちは…………

 この気持ちに名前があるとするならば、それは――――



「好きです、先輩」

「……っ!?」


 ――恋、なのだと。



 しばらくのんびりとした夏祭り会場を見て回ったあと、神社の小さな境内の片隅で、蓮は優香に想いを告げた。


 ただでさえ静かな環境の中で、二人の世界が停滞したようになる。


 こういうとき、体感時間としては実際に経過している時間の倍では済まない。


 普段表情の変化の少ない優香からは想像できないほど、その赤みがかった茶色い瞳が大きく見開かれており、向かい合う蓮の姿を反射させていた。


「す、好き……というのは、つまり……私に対して恋愛感情を抱いている、という意味で合っている、だろうか……?」

「あはは……流石にこの雰囲気でそれ以外の意味だったら、質悪すぎじゃないですか俺」


 蓮が微苦笑を湛えたのを見て、優香は「それはそうだ」と驚きを隠せないままに納得した。


 視線を右往左往させ、肩口辺りで切り揃えられた黒髪を手櫛で掬う優香に、蓮は不慣れながらも素直な願いを口にした。


「だから、えっと……付き合って欲しいです」


 よっぽどバスケの試合の方がマシだった。


 これまでに経験したことのない緊張感が押し寄せ、今にも足がガクガクと震え始めそうなのを、何とか必死に堪えながら優香を真っ直ぐ見詰める。


 優香は仄かに顔を赤らめながらしばらく言葉を詰まらせてしまっていたが、長く蓮を待たせるのも忍びなくなったのだろう。


 自分より背の高い蓮の顔にチラリと上目を向けて言った。


「わ、私も……君のことは、好ましく思っているよ」

「っ、ホントですか!? じゃあ――」

「――だが、すまない」


 互いに同じ気持ちだと確認が取れた、嬉しい返事。


 しかし、一瞬にして膨れ上がった期待は目前で一時停止させられた。


「付き合う……つまり、恋人関係になるというのは、難しい……」


 申し訳なさそうに、優香の瞳が伏せられる。

 持ち上がり気味だった蓮の両肩も、ゆっくりと下ろされる。


「私は高校三年生――受験生だ。志望している大学の偏差値からして、この時期から恋愛にまで目を向けるのは、難しいと思っている……」

「じゃ、じゃあ、先輩の受験が終わってからでも俺は――」


 蓮がそう食い下がると、優香は少し困ったような――それでいて優しい微笑みを向けた。


「その次は君が受験生だろう?」

「そ、それはそう、ですけど……」


 表情に影を差して歯噛みする蓮。

 諦め切れなそうにグッ、と固く握られた拳に、優香の手が添えられる。


「先輩……?」

「勘違いしないでくれ。私が君のことを好ましく思っているのは真実で、ありがたいことに君も私のことを好いてくれている。だから、私は別に君の告白を断っているワケではないのだよ?」


 優香は言う。


 受験期の今は無理なのだと。

 蓮が受験生になる来年も同様だと。


 確かに恋愛は人生に彩りを添える尊いもの。

 しかし、人生における最優先事項ではない。


 特に今後の進路の分岐点ともなり得る、高校三年生という短い期間の中で、無理にすることではない。


 だから、もし――――


「――私も君も、時間と心に余裕が出来たときに、まだ互いのことを愛おしく思えていたなら、そのときにもう一度この話をしても遅くはないだろう?」


 簡潔な言葉の中に、必要なすべての意味がまとめられていた。


 互いにいわゆる『キープ』はしない。

 相手の好意を自分に向けさせておく保証はつけず、もし心変わりしてもそれは仕方のないこと。


 そのことについて咎めることも、申し訳なく思う必要もない。


 だが、早くておよそ一年後。

 蓮が自分の進路を確定させて落ち着いたときに、二人ともにまだ恋心があり続けているなら、そのとき初めて恋人になれば良い。


 人生の分岐点。

 進路の不確定性。

 そんな中、事を急いて余裕のないまま付き合って、関係性や大切な恋心に不和を生じさせるより、よっぽどいい。


 それを聞いた蓮は、安心したような笑みを浮かべた。


「そう、ですね。一年やそこらで変わってしまうような気持じゃないですし」


 そんな蓮の答えに、優香は呆れ半分照れ半分といった具合に小首を傾げて口許を緩めた。


「まったく、君というやつは……引く手数多だろうに、面倒な恋をしたな」


 引く手が何人だろうと関係ない。

 単純な恋であろうが複雑な恋であろうが、気にしない。


 蓮の青春は今、目の前にいる一人の先輩を中心に広がっているのだから――――

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