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第77話 ラブコメ主人公も青春している①

 夏祭りから数日後。

 姫奈と彩香が喫茶店で会って話しているのと同時刻。


 蓮が珍しく部活が休みだというので、涼太は今日住宅街の東を抜ける大通りを横断したところにある蓮の自宅のマンションにやってきていた――――


「涼太ぁ、腹減った~」

「知らんがな。自分の家なんだから好きに食べれば良いだろ」


 蓮の自室の床に並んで座り、一時間半ほどFPSゲームを遊んだ辺りで、蓮が身体から力が抜けたようにへにゃりとして寄り掛かってきた。


 好きな人に――念願叶って恋人になった姫奈にされるならまだしも、男にくっつかれたところで鬱陶しさこそ感じれど、嬉しくもなんともない。


 ただ、仲の良い幼馴染で親友。

 これが互いのいつも通りの距離感なので、涼太は特に拒むことはしない。


「それが、母さん仕事なんだよね~」

「いや、自分で作れよ」

「涼太が作った方が美味しいだろぉ?」


 頼むよ~、と蓮が涼太の側頭部に自身の頭頂部をグリグリと押し当ててくる。


 涼太は眉を寄せて「うぅん」と唸った。


 特別凝ったものを作るということでなければ、日頃から料理している涼太からすれば大した手間ではない。


 何より、お腹が空いている友人を見捨てるというのは、ほんの僅かにではあるが良心が傷んだ。


「わかったわかった、わかりましたよ~」

「おっ、さっすが~。やっぱり持つべきは、面倒臭がりで面倒見の良い親友だよなぁ」


 よくわからないことを言っている蓮の頭を押し退けた涼太が立ち上がる。


 蓮の家の間取りはわかっているので、部屋を出て迷わずキッチンへ向かった。


 あとを追うように蓮もリビングに出てくる。


「食材好きに使って良いのか?」

「いいよ~」


 リビングソファーに寝転がる蓮から帰ってくる答えに、涼太は「手伝う気すらないのかよ」と半目を向けてから、冷蔵庫の扉を開けた。


「ん~」


 見た感じ大体の食材は揃っている。

 頭の中でいくつかピックアップしてみても、この料理もあの料理も作れるなとなる。


(んまぁ、選択肢が多いとそれはそれで悩むんだが……)


 涼太は苦笑しながらも、夏という季節を考えて手早く食材を取り出した。


 トマト、アボカド、生ハム、バジルソース。


「冷製パスタとかで良いか?」

「涼太……」

「ん?」

「最高」


 ソファーに横たわっているのっで蓮の姿は隠れているが、背もたれの上からサムズアップしているのだけが見え、涼太は「そりゃどうも」と再度表情を緩めた。


 深い鍋では時間が掛る。

 フライパンに水を張って沸かしている間に、トマトとアボカドをそれぞれダイスカットにしていく。


 その途中で、手持ち無沙汰になった口を開いた。


「そういやさ、蓮はどうだったんだよ。夏祭り、彩香のお姉さんと行ったんだろ?」


 それは夏休みに入る前に聞かされていたことだ。


 涼太が姫奈と夏祭りに行くように、蓮は優香と一緒に行く約束をしていたらしい。


 ここ数日は姫奈との関係性が大きく進展したこともあって、蓮のことまで意識を向けられていなかったが、折角こうして久し振りに一緒にいられる時間。


 この機会に聞いておくのが良いだろう――と思って、涼太は質問を飛ばしてみた。


 すると、蓮は「えぇっとなぁ~」としばらく説明の仕方を考えるように唸っていた。


 涼太がトマトとアボカドをダイスカットし終えた辺りで、ようやく回答が得られる。


「結論から言うと、俺から告白した」

「おぉ~!」

「んで、関係性はこれまで通り」

「おぉ……?」


 カットした野菜――正確にはアボカドは果実だが――を、まな板の隅に寄せてから、涼太はキッチンカウンター越しに蓮の方を見た。


 いつの間にかきちんとソファーの背もたれに背を預けて座り直していた。


「ど、どゆこと……?」


 果たしてどこまで踏み込んで良いものか。

 涼太は慎重になりながら尋ねた。


 理屈的なところで言えば、イケメンで運動神経抜群で勉強もそこそこ出来る上に性格も良い蓮のスペックからしてフラれるということは考えづらい。


 そういう点を抜きにしても、蓮も自分のペースで着実に優香との関係性を深めていっていたはずだ。


 それに、『関係性はこれまで通り』という言い回しからして、フラれたというのとは少しニュアンスが違う気がする。


 少なくとも涼太と姫奈と蓮は、告白が失敗したあとにこれまで通りの関係性だなどと簡単に言えないことは、誰よりもよく知っている。


 だからこそ、涼太は蓮と優香がどうなったのかがわからず、頭上にいくつも疑問符を浮かべてしまった。


 そんな涼太の、気になるけどどこまで聞いて良いのか……という思い遣りから来る遠慮を感じ取ったのだろう。


 蓮はしんみりしそうになっていた空気は不要だと言わんばかりに、明るく笑って言った。


「ははっ、良いよ全部話すよ」


 蓮は語った。

 涼太が冷製パスタを作る時間一杯を使って、自分が綴ったラブコメディーを読み始めた――――

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