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第07話 想いの行く末②

「……流石、涼太だ。よくわかったね」


 蓮は素直に涼太の勘の良さに感服する微笑みを見せた。

 しかし、反対に涼太は苦い顔を浮かべる。


「何が流石だよ。もっと早く気付くべきだった。気付いてたら……こんな結果になるなら、最初からヒメに協力なんてしなかった」


 涼太は後悔していた。

 最初から勝ち目のない勝負を、姫奈にさせてしまったことを。


 そう。蓮はすべて気付いていたのだ。


 昔から姫奈が自分に対して幼馴染以上の感情を抱いていたことも、それを歳を重ねるごとに徐々に膨らませていたことも、涼太の手を借りて異性として認識させるようアプローチを掛けてきていたことも――何もかも。


「今思えば、そりゃ蓮が気付かないわけないよな。お前は昔っから周りのことをよく見てる。特に、俺やヒメのことはいつも気に掛けてくれてた。そんなお前が、ヒメの想いに気付かないわけ、ない……」


 でもな、と涼太がギュッと拳を固く握った。


「だからこそ何でだよ。何でこうなるまで放っておいた!?」


 どうしても許せない一点に、涼太は声を大きくした。


「お前がヒメのことどう思うも自由だし、振るも振らないも勝手にしろ。でもな、ヒメは俺達の大切な幼馴染のはずだ! それを……それなのに、好きの感情を散々膨らませた挙句にこの仕打ちか!?」


 どれだけ姫奈が想っても、頑張っても、届かない。

 蓮は、今まで姫奈がやってきたことがすべて空回りだったという非情な現実を突き付けたのだ。


「別に、ヒメが密かに抱えてた感情引っ張り出して『俺のことは諦めろ』なんて事前に断っとけなんて話じゃないが、それでもこうなる前に相談して欲しかったぞ……」


 涼太と蓮は幼馴染で、親友だ。

 遠慮なく、何でも話し合える関係性のはずだ。


 もし蓮が涼太にこのことを相談してくれていれば、涼太は姫奈が傷付く前に動くことが出来た。


「涼太……俺は、どうしたらよかったのかな?」


 ポツリ、と蓮が自嘲気味な笑みを浮かべて呟く。


「俺はさ、これまで通りが良かったんだよ。幼馴染三人で仲良く、からかったり冗談言ったりして笑ってさ……いつも通り涼太にだけヒメちゃんの当たりが強かったり、涼太はそんなヒメちゃんに馬鹿言ったり……そんで、俺はそれを見て腹抱えて……」


 それを聞いて、涼太はなぜ蓮が姫奈の想いを見て見ぬフリしてきたのかがわかった。


 要するに、仲良し三人の幼馴染の関係を崩したくなかったのだ。


 物心ついたときからそうしてきたように、三人の間で隠し事はなく、遠慮を知らず本音で語り合って、心の底から笑い合う。


 でも、それは――――


「アホか。無理に決まってんだろ、そんなの」

「涼太……」


 涼太は呆れたように半目を向けて、ズバッと言い放った。


「俺もヒメも蓮も、いつまでも子供じゃない。馬鹿みたいに全部曝け出して遊んでたのが、遠慮を知って、建前を学んで、いくら気心知れた中でも言えない悩みが出来て……それが成長するってことだろ」


 ごく自然で、当たり前のこと。

 誰もが通る道。


「だから、これまで通りの関係性を維持することなんか出来やしない。そんなものはあり得ない。小学生から中学生になって、高校生になって……その度に、少しずつ変わってくもんだろ」


 しかし、それは関係性の剥離ではない。

 あくまで変化。

 その繋がりは、本質は変わらない。


「ったく……その止められない変化を無理矢理抑え込もうとするからこうなるんだ。別に、ちょっと関わり方が変わったくらいで、俺達三人が親友じゃなくなるとでも思ったか?」

「あはは……」


 まさしく図星を突かれた笑みを、蓮が浮かべた。


「ま、蓮のことだから、俺のヒメへの気持ちも察してて、そこも配慮しようとしてくれてたんだろうが……」


 まだ言いたいことは山ほどあった。

 この程度ではとても文句が足りない。


 それでも、そんな感情をすべて右拳に込めて――――


「余計なお世話、だッ!!」

「ぐっ……!?」


 涼太は左足を踏み込むと共に、渾身の右ストレートを蓮の腹に叩き込んだ。


 加減はしない。

 だって、蓮は遠慮を必要としない関係性を求めているのだから。


「ふえぇ~、痛ってぇ……殴ったこっちが痛てぇわ……」

「ゴホッ、ゴホッ……」


 流石運動部の腹筋。

 多少筋トレしているとはいえ、所詮インドア派の涼太の拳は、蓮の腹筋にほとんど跳ね返されてしまった。


「ちょ、涼太いきなりひどいなぁ……」


 二、三度咳き込みはしたが、すぐにお腹を擦りながら顔を上げた蓮。


 涼太は痛む右手をひらひらとさせながら、ニヤリと笑う。


「ホントは顔をぶん殴ってやりたいところを腹にしたんだ。むしろ、感謝してほしいくらいだな」

「怖いな、まったく……」


 蓮は少しモヤが晴れたような笑みを小さく浮かべた。


 恐らく、これも気付いているのだろう。


 このまま涼太が何も咎めないままだったら、蓮はずっと罪悪感を抱え続けて、涼太と姫奈に後ろめたさを感じながら過ごしていくことになる。


 涼太はそんなことをさせないために、遠慮なく、思い切り蓮の腹を殴ったのだ。


(んまぁ、いっつもモテてムカつくのと、ヒメに好かれてるくせに振ったのと、俺に変な気を使ってたのが腹立つっていう理由も入ってるが……)


 何はともあれ、涼太が蓮に言いたいことは――言わなければいけないことは言った。


「さて……次はヒメだな……」


 むしろそっちの方が重症かもしれない。

 涼太が面倒臭そうに後ろ頭を掻くと、蓮が目を伏せて言った。


「涼太、俺……ヒメちゃんに酷いことしたからさ……」

「大丈夫だ」

「え?」

「俺に任せろ。何とかして、どうにかして、また三人でどっか遊びに行けるようにするわ」


 ニッ、と笑った涼太の顔を見て、蓮はしばらく目を丸くして呆然としていたが、すぐに笑いを吹き出した。


「あははっ……まぁ、涼太なら何とかするんだろうね」

「相変わらずその信頼がどっから来るのかわからんが……やれるだけのことを、やるだけだ」


 涼太はそう言い残して蓮に背を向ける。


 どこかへ飛び出していった姫奈を探し出さなければならない。


「あぁ、もう……めんどくせぇ……!」


 そうぼやきながらも、屋上をあとにする涼太の足は全力疾走だった――――

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