第63話 初恋幼馴染はお呼びじゃないらしい
「――んなぁ、結局どういう意味だったんだよ。昨日話してくれるって言ってたろ?」
体育祭の翌日、月曜日。
笠之峰高校は体育祭の振替で休みとなり、涼太は自室で小説を読みながら、姫奈と一緒にのんびり過ごしていた。
「えぇ~、私ちゃんと話したんですけどぉ」
「でも、俺聞いてないし……」
「それは眠ってたリョウ君が悪いと思いま~す」
体育祭の借り物競争。
その【特別な人】というお題で涼太を引っ張っていった姫奈。
涼太はその“特別”の意味を知りたくて改めて尋ねるが、姫奈は涼太のベッドに転がってスマホを弄り、教えようとしない。
「起こしてくれれば良かったのに」
「それは……体育祭で頑張ってくれたリョウ君への配慮?」
「うぅん、ありがたいようなありがたくないような配慮だなぁ」
晴れない気持ちに、目蓋を半開きにさせたまま首を傾げる涼太。
姫奈はそんな涼太をチラリと一瞥しては、静かに肩を上下させていた。
そんなとき――――
ピロン、と涼太のスマホに短い着信音。
「ん?」
読んでいた小説を傍らに置いた涼太は、自身のスマホに手を伸ばす。
画面を確認すると、
『涼太せんぱ~い』
『暇なので構ってください!』
メッセージの送り主は、彩香だった。
「どうしたの、リョウ君?」
「あぁ、いや。彩香からメッセがきて」
「彩香ちゃん?」
姫奈の疑問にそう答えながら、涼太は『構えって言われても何すればいいんだよ』と返事を送る。
既読はすぐにつき、数秒待つと答えが返ってきた。
「んっ――げほっげほっ!?」
「ちょ、なになに?」
メッセージ画面に飛んできた彩香からの短い返事を見て、突然咳き込む涼太。
その様子に驚いた姫奈がベッドの上から身を乗り出してくるので、涼太がスマホを突き出すようにしてその画面を見せた。
すると、そこには――――
『デートしませんか~?』
うわぁ、と姫奈が呆れたように目を細めた。
「彩香のやつ、急に何言ってんだ……」
「ちょっと貸して、リョウ君」
「え? ちょっ――」
涼太の許可を得る前に、姫奈はその手からスマホを奪い取った。
そして、何やら高速でメッセージ画面のキーボードを弾いて打ち込んでいく。
「お、おいヒメ。なに勝手に……」
「リョウ君は黙ってて」
「えぇ……」
涼太はあとからやり取りを確認して知ることになるが、このとき交わされていた姫奈と彩香の会話は――――
『すまん』
『今、可愛い幼馴染とくつろいでるから無理』
『二人っきりで』
『おっと』
『どうもです、姫奈先輩』
『涼太先輩が言わなそうなこと言うんで、すぐにわかっちゃいました~』
『リョウ君とデートしたいの?』
『そうですね』
『そう送ったつもりですけど~?』
『リョウ君、今忙しいから』
『くつろいでるって言ってませんでした?』
『私とくつろぐのに手一杯かな』
『ごめんね』
『そうですか……』
『じゃあ、また今度誘いますね?』
『私、満足するまで諦めない人なんで』
むっ、と姫奈は眉頭同士を寄せた。
今断っても、今度は自分の知らないところで涼太が彩香に誘われるのは目に見えている。
それなら、まだ自分が認知しているこの機会に、ある程度彩香を満足させておいた方が良いのかもしれない。
姫奈は渋々返信を送る――――
『何時にどこに行けばいい?』
『ありがとうございます!』
『では――』
やり取りを終え、姫奈は涼太にスマホを返しながら言った。
「リョウ君、準備して」
「はい?」
さっき振りに返ってきた自分のスマホの感触を手の中に感じながら、涼太が頭上に疑問符を浮かべると、姫奈は不満を隠そうともしない表情で答える。
「お出掛けします」
「……何でそうなった」
涼太は移動中に、姫奈と彩香のメッセージのやり取りを見返すこととなった――――
◇◆◇
ササッと身なりを整えて涼太と姫奈がやってきたのは、最寄り駅から笠之峰高校方面に一駅進んだところ。
その駅前にある小洒落た喫茶店だ。
カランカラン、とベルを鳴らして店に入ると、すぐに女性の店員が「いらっしゃいませ」と対応してくれる。
「二名様ですか?」
「いえ、待ち合わせです」
涼太がそう答えたところで、店の少し奥まったところにある席から手を振る少女が見えた。
「こっちで~す」
彩香だ。
その姿を店員も確認し、涼太と姫奈を快く「ではこちらへ」と彩香のもとまで案内してくれる。
店員さんが「お水とお手拭きをお持ちしますね」と言い残して一度下がっていったタイミングで、彩香がニコリと笑う。
「ご足労いただきありがとうございます、涼太先輩っ!」
「えっと、私には労りの言葉はないの?」
「ん~、姫奈先輩はお呼びでなかったと言いますか……あまりありがたくはないですからね」
酷いなぁ、と姫奈はあまり精神的ダメージは受けてなさそうにそう反応しながら、彩香の対面に腰掛けた涼太の隣の席を確保する。
「いつの間にか二人が仲良くなってる?」
姫奈も彩香も内容はともかくとして、表面上は笑いながら冗談口調で言っているので、涼太は素直にここまで言い合える関係まで仲良くなったのかと感心する。
だが、もちろん二人に冗談のつもりは更々ない。
姫奈と彩香はキョトンと一度顔を見合わせてから、姫奈は呆れたように眉尻を落とし、彩香は曖昧な笑みを浮かべた。
「まぁ、リョウ君にわかれっていう方が酷かなぁ」
「あはは、そう見えたなら良かったです」
涼太はイマイチ二人が何を言っているのかわからず首を傾げたが、意識はすぐにテーブルに置かれていたメニューへと向かう。
「彩香はもう何か頼んだか?」
「いえ、私もさっき来たばかりなので」
「そっか。じゃあ、何か頼むか。俺ちょっと小腹空いたんだよな」
そう言って涼太は二人にも見えるように、テーブルの真ん中でメニューをパラパラと捲っていく。
涼太のどこか呑気な様子に、姫奈と彩香は再び顔を見合わせ、可笑しそうにクスッと笑った。
「それもそうですねっ!」
「もう、リョウ君食いしん坊だなぁ~」




