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俺の初恋幼馴染は“負けヒロイン”で終われないっ‼~「今フリーなんですけど?」と言ってくる幼馴染を、今度は俺の手で幸せな《勝ちヒロイン》にしてみせます~  作者: 水瓶シロン
第四章~青春交錯編~

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第61話 初恋幼馴染の答えは意味深に?

『二年一組のお題はぁ~!? 【特別な人】でぇえええすっ!!』


 借り物競争の審査員の声はマイクによって拡声され、笠之峰のグラウンド全体に響き渡った。


 お題がお題でも、それが見知らぬ生徒のものであれば、多少黄色い声が飛び交う程度の盛り上がりで済んだだろう。


 しかし、お題を手にしたのは音瀬姫奈。


 告白されたことは数多あれど、その首を縦に振ったことは一度としてない、自他共に認める美少女。


 二年生、三年生でその存在を知らない人はほとんどいないだろうし、今年入学して来た新入生である一年生ですら、姫奈の噂を一度や二度は――いや、実際に告白した人ですら一人や二人でないことを、涼太は知っている。


 そんな姫奈が【特別な人】というお題で、異性の手を引いてきたのだから、注目が集まらないわけがない。


 案の定、各学年各クラスの応援席がどよめく様子が窺える。


「えっ、あれ音瀬だよな……!?」

「二年一組って言ってたから間違いねぇ……」

「【特別な人】って、え!?」

「つまり……どゆこと!?」

「好きな人ってこと、か……!?」

「ばっ、んなワケ! 相手見てから言えよ……!」

「ま、まぁ……確かにパッとはしないような……?」


 流石に応援席とグラウンドには距離がある。

 具体的にどんな内容で騒がれているのかまでは聞こえないが、薄々察している涼太としてはあまりに居たたまれなかった。


「おい、ヒメ……なんつうお題で連れてきてんだよ……」

「う、うるさいなぁ……」


 このお題で一体何を思って自分を選んだのか。

 特別とはどういう意味での特別なのか。


 聞きたいことは山ほどあるし、都合の良い解釈だとは自覚していながらも、鼓動は否応なしに早まる。


 それでも涼太は一旦それらを傍らに置いておき、勘弁してくれと言わんばかりの半目を作って姫奈を見詰める。


「こんな風に発表されるって知らなかったんだもん」


 姫奈は涼太の視線から逃れるようにそっぽを向き、唇を尖らせ不満を訴える。


 チラリと窺える横顔には微かな赤みが差しているようにも見え、垂れる栗色の髪を無意識のうちに指で弄っていた。


 しかし、恥ずかしいからと言って状況は手加減してくれない。


 借り物競争の審査員は、会場の盛り上がりに負けじと興奮した様子で姫奈にマイクを持っていく。


『さてさて会場が沸いておりますが! 貴女にとって【特別な人】というのはどういった意味を持つのでしょうかっ!?』

「え、えっと……」


 姫奈は本能的に身を引いて距離を置こうとするが、マイクはグイッと近付いてきて逃がしてはくれない。


 これは何か言わなければ終わらないヤツだと察し、姫奈は諦めたようにため息を吐いた。


 騒めいていた会場も、姫奈の返答を聞き逃すまいと静まり返り、息を飲んで見守る。


「リョウ君は……彼は、私の幼馴染です」


 涼太も会場の空気と同様に気を張り詰めていたが、そんな姫奈の返答にホッと胸を撫で下ろすが…………


(だ、だよな。幼馴染、俺は幼馴染だから特別……)


 安堵と同時に、少なからず残念な気持ちもそこにはあった。


『なるほどなるほど! 幼馴染ですか! 確かにそれは特別な存在ですね~! いやぁ、てっきり我々はもっとこう色恋的な何かだと邪推してしまっていましたが……どうやら勘違いだったようで――』


 ――と、そこで何も言わず勘違いで済ませておけば良かったものを、しかし姫奈は被せるように口を開いた。


「他意があるかどうかは、ご想像にお任せしますね」


 審査員は言葉を失う。

 幼馴染だから特別、という姫奈の答えに緊張を弛緩させ再び騒めいていた会場は沈黙を取り戻す。


 二年一組の借り物競争一着認定の放送は、静かな会場によく響いた――――



◇◆◇



「ひぃ~めぇぇ~!?」

「あぁ~、聞こえない聞こえな~い」


 体育祭も無事に終了し、涼太と姫奈はクラスメイトからの追及はもちろん、他クラス他学年からの注目をも浴びながら、何とか逃げるようにして帰宅した、のだが…………


「こら出てこい!」

「うわぁ、この人下着姿の女の子になんてことを」

「はっ!? したっ……って何で脱いでんの!? ってか脱ぐの早くない!?」


 清水家の洗面所。

 早速借り物競争の件での文句を言おうとした涼太だったが、それを予期してか、姫奈が帰宅早々扉を閉めて籠ってしまった。


 涼太は洗面所の扉の前でただ立ち尽くす他なかった。


「何でって、そりゃ体育祭で掻いた汗を流してサッパリするためだよ」


 開かずの扉の向こう側から返って来た答えに、涼太は「はぁ?」と気の抜けた声を漏らした。


「いや、自分の家で入れよ……」

「えぇ~」


 確かに服を脱いでいるようだ。

 もちろん中の様子は見えないが、実際に脱衣中だと言われると、こうした会話中にも微かに聞こえてくる音が衣擦れの音だとわかる。


「リョウ君が喜ぶかな~と思って?」

「俺は変態じゃないぞ」

「でも、ドキドキするでしょ?」

「……否定はしない」

「はい、変態」

「人をドキドキさせるためだけにこんなことするヒメが言えたことか」


 やれやれ、と涼太は洗面所の扉を背にしてその場に座り込む。


 しかし、体重を預ける先はすぐに失われた。

 否、背をもたれさせていた扉が横にスライドし、開けられたのだ。


「うおわっ……!?」


 重心の支えを失った涼太は、背から仰向けになるようにして倒れた。


 突然のことに一度固く閉じた目蓋を持ち上げる。

 すると、自分を見下ろすようにして立つ姫奈の姿があった。


 セミロングに伸ばされた胡桃色の髪は後頭部で団子にまとめられており、普段衣服で覆い隠されているその見事なまでに均整の取れた肢体は一糸纏わぬ――というより、一糸しか纏わぬ格好でそこにあった。


 ドキッ! と涼太は心臓を大きく跳ねさせる。


 見てはいけないと目を閉じるなり背けるなりする余裕すらないまま、ただ驚愕に目を剥くその視線の先で――――


「着替え。何か適当に用意しておいて?」

「え……え……?」


 身体に巻き付けたバスタオルを胸の辺りで押さえながら、姫奈が気恥ずかしそうに言う。


「お風呂出たら、ちゃんと話すからさ」

「お、おう……?」


 きちんと頭が働いているかどうかわからない涼太の戸惑いがちな返答を聞いてから、姫奈は洗面所の奥の扉を開けて、浴室に姿を消した――――

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