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俺の初恋幼馴染は“負けヒロイン”で終われないっ‼~「今フリーなんですけど?」と言ってくる幼馴染を、今度は俺の手で幸せな《勝ちヒロイン》にしてみせます~  作者: 水瓶シロン
第三章~小悪魔降臨編~

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第43話 初恋幼馴染と共同作業

 二月下旬に笠之峰生徒を襲った学年末テストも終わってしばらく経ち、早くも三月十四日を迎えていた。


 丁度一ヶ月前がバレンタインである今日は、まさしくそのお返しが必要となる――悲しいかなお返しする必要がない者もいるが――ホワイトデーである。


 とはいえ今日は金曜日と平日。

 昨日も今日も普通に学校があり、何か用意するにしても時間は限られていた。


 しかし、涼太は妥協したくなかった。


 バレンタインには、姫奈が不器用ながらにも手作りのチョコレートクッキーを作ってくれたのだから、今日はそれに見合うだけの何かを返したい。


 そこで、涼太が思い至ったのは――――



「――というワケで、一緒にお菓子を作ります」

「どういうワケ?」


 放課後。

 音瀬家のキッチン。


 制服のブレザーを脱いでシャツの長袖を捲くった状態の涼太は、誰へともなく宣言し、隣に並び立つ姫奈に首を傾げられた。


「いや、今日ホワイトデーじゃん?」

「そうだね」

「俺、ヒメにお返しするわけじゃん?」

「うん」

「でも平日だから用意するの大変じゃん?」

「んまぁ」

「だから、いっそのこと当日に作ってしまおうというワケ」


 涼太の理屈は理解出来たらしい。

 姫奈が「なるほど」と小さく首を縦に振る。


「でも、何で私も一緒に? 私、返される側だよね?」

「いやぁ、用意するこの時間もホワイトデーのお返しの一部という、ちょっと小洒落た趣向と言いますか……」

「うわぁ、この人鬱陶しいわぁ~」


 姫奈はそう口にしつつも、どこか楽し気にけらけらと笑っていた。


「まぁ、良いだろ? 時にはこういうのも」

「仕方ないから付き合ってあげるよ」

「俺と?」

「お菓子作りに」


 ついふざけてしまった涼太は、姫奈に「バカ」と横腹を肘で突かれる。


「それで、何作るの?」

「材料は御覧の通りです。じゃじゃ~ん」


 涼太がキッチンに広げた材料に注目するように、パッと手を広げて見せる。


 卵にバター、グラニュー糖、粉糖、アーモンドパウダー、ココアパウダー、ホワイトチョコレート、等々…………


 それぞれ必要な分量だけもうボウルに入れてある。


 姫奈はそれらを順番に指差して――――


「この白い粉、何?」

「接種すると幸せな気分になれるヤツ」


 そういうの求めてないから、という不満げな視線を無言で向けてくるので、涼太は「グラニュー糖です」と答え直す。


「じゃあ、こっちの白い粉は?」

「粉糖です」

「この薄茶色の粉は?」

「アーモンドパウダー」

「濃い茶色は?」

「ココアパウダー」

「…………」

「…………」


 沈黙の中、何とも言えない姫奈の視線と、これまた何とも形容し難い涼太の視線が合わさる。


 そして――――


「こんな私が材料を見て何が出来るのかわかるとでも?」

「大丈夫。わからないだろうなぁ、って最初から思ってたから」


 この人ウザいわぁ、と姫奈が肩を上下に震わせた。

 涼太はそんな姫奈の楽し気な姿を見てから、答えを言う。


「正解は、マカロンでした」

「おぉ、マカロン」


 姫奈が垂れ気味の瞳を真ん丸にした。


「作るの難しいってよく聞く」

「ん~、慣れたらそうでも。突き詰めれば結局どんなお菓子でも難しいワケだしな」


 涼太は料理が苦手ではない。

 いや、むしろ得意と言えるだろう。

 お菓子作りだってお手の物。


 しかし、それは一般的な水準の話。


 プロの料理人やパティシエのように、どこまでも味や触感や見栄えを追及して極めようとすればキリがない。


「わかる。私、カルメ焼きも難しいもん」

「……いや、それは頑張った方が良いな」

「えぇ……」


 確かにカルメ焼きもコツはいるかもしれない。

 だが、正直アレは砂糖を加熱して溶かして混ぜるだけ。

 作るだけなら小さな子供にだって出来る。


 気の抜けたような声を漏らす姫奈の隣で、涼太が「でも大丈夫」と小さく手を叩いた。


「ヒメに手伝ってもらうのは簡単なコトだから。まずは、粉糖とアーモンドパウダー、ココアパウダーを混ぜてから(ふるい)に掛けてくれ」


 先程説明した三つだが、涼太は念のため使う材料を姫奈の前にスッと持っていく。


 元々この家にある調理器具と涼太が持参したものも含めて、必要なものは涼太が選んで、それお姫奈の前に並べた。


「わ、わかった。やってみる」

「溢さないようにだけ気をつければ大丈夫だから」

「うん」


 姫奈が三種類の粉末を大きなボールの中で合わせて混ぜ始めた。


 その間に、涼太は隣で卵を掴む。

 カンカン、とキッチンの角で殻を叩いてヒビを入れ、割った殻を活かして分離した卵白だけをボウルに入れる。


 卵黄も今回とは別のことで使い道があるだろうし、捨てるのはもったいないので別容器に入れて保存しておく。


 必要分卵白を用意したら、ホイッパーで卵白のコシを失くすようにかき混ぜる。


「あ、それ知ってる。メレンゲでしょ?」

「そうそう」


 普段お菓子を作らない人でも単語くらいは聞いたことがあるであろう、メレンゲ。


 三種の粉末を混ぜ終えて今まさに篩に掛けようとしていた姫奈が、隣から少し得意気な口調でそう言ってくるので、涼太は口角を緩めた。


 姫奈の見ている前で、コシを断った卵白にグラニュー糖をまとめてサァと入れる。


「あれ? なんかメレンゲって、砂糖は小分けにして入れないといけないんじゃなかったっけ?」

「おぉ、よく知ってるな。ヒメ」


 姫奈の指摘に、涼太は素直に感心した。

 砂糖ではなく、グラニュー糖だが。


 やはり涼太の誕生日にケーキを、バレンタインにチョコクッキーを作ったことで、多少お菓子作りに関する知識を学んだのかもしれない。


「よく知ってるなって……でも、リョウ君いっぺんに入れたよ?」


 ごもっともな指摘だ。

 しかし、涼太はニヤリと口角を持ち上げて、持参した秘密兵器を手に掴む。


「コレを使うから平気」


 涼太が右手に持つのは、一見するとコードレス掃除機の持ち手に二本のホイッパーが突き刺さったような見た目のモノ。


「ハンドミキサーです」

「なんか強そう」

「コイツ、マジで最強だから」


 メレンゲ作りと聞いて、多くの人はパティシエがボウルの中でチャッチャッチャッチャッ――と高速でホイッパーを動かしている姿を想像するのではないだろうか。


 もちろん、それが本来の作り方だ。

 そして、手でかき混ぜてメレンゲを作るなら、グラニュー糖は小分けにして入れる必要がある。


 しかし、ハンドミキサーの回転力をもってすれば、一気にまとめてグラニュー糖を最初に入れておいても問題なく作ることが出来るのだ。


 加えて手も腕も疲れない。

 つまり、最強。


 それを証明すべく、涼太はハンドミキサーのスイッチを押し、ホイッパー部分を回転させる。


 卵白は気泡を交えて泡へ。

 それが徐々に白濁するようにきめ細やかな泡へと変わっていく。


 もちろんハンドミキサーでもそれなりに時間は掛かるが、手動で作のとは比較にならない早さで、しっかり角が立つ少し硬めのメレンゲが出来上がった。


「ほら。綺麗なメレンゲ」

「おぉ……洗浄力高そうな洗顔フォームみたい」


 例えが美容系なのは流石姫奈と言ったところか。

 涼太もスキンケアやシャンプーのことなどで、何度も姫奈からアドバイスをもらってきた。


「ヒメ、そっちは出来た?」

「あ、うん。篩に掛けたよ」

「じゃ、ここに入れてくれ」


 涼太が出来立てほやほやのメレンゲが入ったボウルを向けると、姫奈はそこに粉糖とアーモンドパウダー、ココアパウダーが混ざった粉末を入れた。


「ヒメ、混ぜてみる?」

「えっ、私? 出来るかなぁ」

「ただ混ぜるだけだから。メレンゲ潰れるとかも全然考えなくて良いし」


 涼太はそう提案してゴムベラを差し出す。

 姫奈は少し不安げに眉を寄せながらも、挑戦してみたい気持ちはあるらしく、涼太からゴムベラを受け取ってボウルの前に立った。


 液体と粉末を混ぜるのは容易い。

 しかし、メレンゲのような泡と粉末はそうすぐには混ざらないので、姫奈は集中しながらゴムベラを動かしていた。


「どう? 出来てる?」

「ああ。良い感じだ」


 しばらく姫奈が混ぜ続けると、メレンゲと粉末が完全に合わさったような具合になった。


「じゃ、ヒメ。そのままヘラ持ってて」

「え?」


 涼太は姫奈のすぐ後ろに立つと、背中越しに腕を伸ばして、ゴムベラを持つ姫奈の右手に自身の右手を添える。


「あっ……」

「こうやって生地をちょっと潰すように畳むように混ぜて、マカロナージュ。結局こうするから、粉混ぜるときに多少メレンゲ潰れても平気なんだよ」

「りょ、リョウ君……」

「大丈夫、大丈夫。俺が持ってるし」

「そ、そういう問題じゃない思うんだけどなぁ……」


 むしろそれが問題だったりするし、と尻すぼみになりながら呟く姫奈。


 お菓子作り中ということで、涼太は完全に無自覚だった。


 ピタリと姫奈の背中にくっつき、そっと手を握る。

 姫奈の頭を避けて前を見るため、自然と涼太の言葉は姫奈の耳元で紡がれてしまう。


 じわぁ……、と姫奈は自分の身体の芯から熱を帯びていくのを感じながら、耳の先端をほんのり赤く染めていく。


 そんな姫奈の様子など露知らず、涼太は楽し気に話す。


「こんな感じで、生地がヘラからリボン状になって落ちていく具合になったら、上手くマカロナージュ出来たってことだ」

「う、うん……」


 姫奈は耳元にくすぐったさを覚えながら小さく頷いた。


「ヒメ? どうかしたか?」

「な、何でもないよ……」

「え、でも、何か様子が……」

「何でもないって。何でもない……けど、さ……」


 姫奈が恥じらった表情で顔だけ振り返らせ、涼太にマカロナージュされたようにしっとりとしたジト目を向けて呟いた。


「リョウ君って、人たらしなところあるよね」

「えっ、どこが?」

「はぁ、無自覚なのが一番質悪いわぁ~」


 それは不満アピールなのだろうか。

 姫奈はコツコツと自身の後ろ頭を、後に立つ涼太の胸に軽くぶつけていた――――

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