第40話 初恋幼馴染と夢中の逢瀬②
「え、ちょ、なになになになに……!?」
笠之峰高校、昼休み。
姫奈はまた、よく知らない先輩からの告白を断ったのだが、そのあとに駆け寄ってきた涼太に手を引かれて、どこかに連れていかれている最中だった。
普段と様子が違う。
怒っている……わけではないだろうが、いつも飄々とした態度の涼太が、今はなぜか強引。
特に何を言うわけでもなく、握った姫奈の手を引っ張ってくる。
大股で歩く涼太に、姫奈は小走り気味になりながらしばらく連れられていった。
「ねぇ、リョウ君怒ってる? 私、何かしたっけ……?」
特別棟の裏。
この時間帯、この辺りには一切人気がない。
ひたと足を止めた涼太の一歩後ろから、姫奈が恐る恐る尋ねる。
すると、涼太は感情の読めない表情で無言のまま振り返って、姫奈に詰め寄ってきた。
姫奈は僅かな恐怖心を覚えながら後退りするが、その度に涼太が距離を縮めてくるので、すぐに特別棟の壁に追いやられてしまった。
逃げ場のない姫奈。
涼太はそんな姫奈の顔の隣に手をついた。
「もしかして……壁ドンしてみたかったとか、ですかねぇ……?」
姫奈はからかうようにそう言って、くすくす笑う。
しかし、それは心からの笑みではなく、微かな恐怖心に対する強がりだ。
そんな姫奈を涼太は身長差分高い位置から静かに見下ろして、口を開いた。
「まぁ、それもあるけど……一番は――」
「ちょっ――」
突然、ギュッ……と涼太が姫奈を抱き締めた。
逃がすまいという意思が、力強く巻き付けた腕に籠っている。
ドキッ、と姫奈の胸の奥で心臓が跳ねた。
怖い、怖い、怖い、怖い怖い怖い怖い怖い――でも、なぜかそんな恐怖を求めている自分が、拒みきれない自分が心のどこかにいて…………
「もう、ヒメが他の誰かに告白されるのは嫌だ。気持ちがないとしても、ヒメが他の男を見てる時間があるのが嫌だ。ヒメは……俺のモノだ」
そう語った涼太が、顔を姫奈の首元に埋めてくる。
当然皮膚の薄い首は感覚が鋭敏で、涼太の鼻息が、触れる髪が、くすぐったい。
そこに追撃するように、カプッと涼太が甘噛みしてきた。
「っ、ちょっ……リョウ君っ……!」
「なに?」
「な、何じゃない……! ここ学校だからっ……!」
姫奈は涼太の胸に手を触れさせ、グッと押し出して離れさせようとするが、いくら涼太が細身とはいえ男子であることに変わりはない。
華奢な女子である姫奈がいかに頑張って力を加えようとも、体格差でびくともせず――――
「学校だから、なに? 嫌なら拒めば?」
「……っ!?」
そう。
涼太の言う通りだ。
涼太の身体を突き放せないのは、姫奈が本気で力を加えて拒んでいないから。
怖いと感じると共に、このまま身を委ねたらどうなるんだろうという好奇心が滲み出てくる。
そんな現実を目の前から自覚させられた姫奈は、恥ずかしさで身体を熱くした。
「どうする、ヒメ? やめようか?」
涼太が意地悪く聞いてくるので、姫奈は恨みがましい視線を涼太に向けた。
咄嗟に口を開いて言葉を紡ごうとして……でも、恥ずかしくて口を閉じてしまって。
だから、返答として、涼太の胸に押し付けていた手をスッ……と下ろした。
それを見た涼太が広角を持ち上げる。
いつも姫奈に優しく向けてくる黒い瞳が、このときばかりは少し野生的に、獰猛に光っていた。
「ヒメ、可愛いな」
「っ、うるさいなぁ……」
涼太が耳元でくすぐったく囁いてくる。
姫奈は自分の耳が熱くなるのを感じて首を傾けるが、それを追い掛けた涼太の唇が耳たぶを食んだ。
「んっ……!」
「ここ弱い?」
「し、知らないっ……!」
「じゃ、弱いところ探していこうか」
そう囁いて、涼太が片手を姫奈の脚に触れさせた。
そのまま指先を伝わせて撫で上げて、制服のプリーツスカートをゆっくりと捲り上げていく。
「っ、はぁっ……リョウ君っ……!」
姫奈の瞳が熱を帯びて潤む。
すがるように涼太を見詰めるが、涼太はどこまでも意地悪に微笑んだ。
「脚、閉じたままで良いのか?」
「……ば、ばかっ……!」
姫奈は圧倒的な恥ずかしさと、屈辱感と、恐怖心と、好奇心と――そんな様々な感情がごちゃ混ぜになってワケがわからなくなりながら、大人しく脚幅を広げた。
そのあとに訪れるであろう快楽の味を、今か今かと覚悟していると、徐々に目の前の景色が白く霞んでいき――――
………………。
…………。
……。
「はっ――!?」
勢いよく目蓋を持ち上げた姫奈の視界に映ったのは、見慣れた自室の白い天井。
早鐘打つ鼓動。
冬であるにも関わらず火照って妙に汗ばんだ身体。
数秒間呆然と荒い呼吸を続けながら、徐々に夢と現実の境界線が明確に引かれていく。
そして、自分があんな夢を見て――潜在的なところでああいったシチュエーションを望んでいるのかもしれないと思い知らされて、姫奈は大きくため息をついて顔を隠すように腕を持ってきた。
「あぁ……ウソでしょ、私ぃ~」
目蓋を閉じれば、まだ夢の中の強引な涼太の姿が像を結ぶ。
「えぇ、私、別に強引にされたいなんて思ってないはずなんだけどなぁ……?」
誰へともなくそう呟くが、夢の中で自分が涼太を本気で拒まなかったことを思い返す。
「いやいや、絶対寝る前リョウ君に写真送ったりしたから、変に意識しちゃったんだよ。深夜テンション怖いなぁ~」
それだけではない。
昨日は互いのファーストキスを経験し、涼太という存在を強く意識する要素は確かにあった。
姫奈は自嘲気味に笑いながら、ゆっくり上体を起こす。
「もぉう、どんな顔してリョウ君に会えば良いだろう……」
姫奈は自分に呆れてジト目を作り、熱を蓄えた頬を両手で挟んだ――――




