第30話 初恋幼馴染は青春したい!
姫奈と蓮が互いに顔を合わせる意思と覚悟を確認した翌日、涼太は放課後に話し合う場をセッティングしていた。
時刻は午後五時半。
場所は涼太と姫奈が住まう住宅街と蓮が住むマンションの西を流れる川の河川敷。
一月中旬ともなれば、この時間帯でも既に夕日は大きく傾いており、西の天蓋を茜色に燃やしている。
そこから橙、微かに緑、淡い青、紺碧――と境界線の見えないグラデーションを掛けていた。
冬の星座が成り行きを見届けるかのように顔を窺わせ始めている下で、涼太は姫奈と並んで河川敷に降りる階段に座り込んでいた。
「多分、もうそろそろ来ると思う」
「うん」
スマホ画面で時間を確認した涼太の言葉に、姫奈が沈みゆく太陽をぼんやりと眺めながら短く返事をした。
それから静かに待つこと五分。
落ち着いた足音が耳に入ってきたので、涼太が階段から見上げるようにして振り向くと、堤防の上に蓮が立っていた。
涼太はスッと立ち上がる。
「部活、よかったのか? 俺達は別に夜まで待っても良かったんだが」
そう尋ねると、蓮はいつもより中身が少なそうな肩掛けの四角いエナメルバッグを足元に置いた。
「大丈夫だよ。真剣にはやってるつもりだけど、別にプロ目指してるわけじゃないし。楽しくやってるだけだから、一日くらい休んでも問題ないさ」
そんなことよりも――と、蓮は未だ涼太の隣で座ったまま振り返らない姫奈の後ろ姿へ視線を向ける。
「もっと大切なことがあるからね」
「そっか」
蓮の答えに納得し、涼太も頷いてから姫奈を見た。
二人の視線を受けて、しばらく微動だにしなかった姫奈はゆっくりと立ち上がる。
肌を抓るように冷たい冬の風が吹く。
ハーフアップにされた姫奈のセミロングの髪が柔らかくなびき、胡桃色の艶に夕日色が染み込む。
「……久し振り、蓮君」
「うん。久し振り」
振り返った姫奈の瞳が、やや高いところに立つ蓮の焦げ茶色の瞳を真っ直ぐ見詰める。
「ゴメン。何か……ずっと避けてて……」
「ううん。それは俺もだからヒメちゃんが謝ることじゃないよ。というか、謝るのは俺の方だ……」
蓮は辛そうに表情を歪めて、俯くように頭を下げた。
「本当にゴメン、ヒメちゃん。正直俺にはもうヒメちゃんと顔を合わせる資格はないと思ってる……でも、それでもきちんと謝りたかった」
静かに見守る涼太と、姫奈の視線の先で、蓮の両拳がグッと握り締められていた。
「俺はこの三人の関係が壊れるのが怖くて、ずっとヒメちゃんの気持ちに気付かないフリをしてきた。もっと早く向き合うべきだったのに……不誠実なことをした。そのせいで結局関係はグチャグチャになっちゃったし、何よりヒメちゃんを傷付けた……!」
姫奈がどんな顔をしているのかを見る勇気がないのか、後悔の重さに頭が持ち上がらないのか。
蓮は低く頭を下げたまま、ただただ精一杯に思いを吐き出す。
「ゴメンッ! 謝って済むことじゃないってわかってる! 今更後悔したところでヒメちゃんを傷付けた事実はなくならないし、許されなくてもしょうがないってわかってる! それでもゴメンって言わせてほしい! だってそれが俺に出来る精一杯だからっ!!」
閑散とした夕暮れの河川敷に、蓮の声が鮮明に響いた。
その残響音が完全に消え入り、訪れるのは静寂。
蓮を見詰めていた姫奈は、いつしか静かに目蓋を閉じていた。
鼻から息を吸いながら、顔を上向かせる。
ゆっくりと目蓋のカーテンを開き、僅かに色の深まった空を仰ぎ見た。
音もなく口から吐き出された息は白く、風に流されて虚しく掻き消される。
それを見て、姫奈は目を細めて清々しく微笑んだ。
「……私ね、今、悪くない気分なんだ」
長い沈黙の末吐き出された姫奈の言葉に、蓮はゆっくりと顔を持ち上げる。
その視界に映ったのは、姫奈の想いを拒絶したあの日見た泣き顔からは想像もつかないほどに、どこまでも澄み渡った笑顔。
「なんか、本気で青春してるって感じがする」
姫奈は一度隣に立つ涼太に笑い掛けてから、河川敷を見渡す。
「恋して、恋されて、振って振られて、傷付いて……あはは、いっちょまえに語っても、大人からしたらお子様が初々しいことしてるって、恋愛ごっこしてるって思われるかもだけどね」
姫奈は二、三度肩を上下させて小さく笑った。
「そう考えると何だか恥ずかしくなっちゃうけど、それでも私は――」
姫奈が蓮に振り返る。
「――本気で恋して、本気で失恋したよ」
浮かべる笑みはどこか気恥ずかしそうであり、愁えているようであり、それでもやはり清々しくあった。
「だから、本気で傷付いたし本気で泣いた。流れるまま、何となく生きてるような私が、初めて沢山の本気を経験した。することが出来た」
姫奈はそこまで語って、心のままに思うままに本心を言葉にして綴って、最後にどう話をまとめれば良いのかわからなくなった。
えぇっと、だからぁ……と困ったように眉尻を下げ、目線を右往左往させてから、もう上手に言葉をまとめるのを諦めて言った。
「まぁ、つまり……ありがとう、蓮君。確かに、凄く傷付いたし辛かったし悲しかったし、正直今でも『蓮君最低ぇ~』って思わないこともないけど、それでもこの失恋があったから今の私があるから」
だから、ありがとう――と、姫奈は紛うことのない感謝を口にした。
蓮は何かを堪えるようにクシャッと顔を歪めて、俯いた。
それを見て笑った姫奈が、勢いよく身を翻した。
河川敷に向かって、川の流れに向かって、更に遥か遠くに沈んでいく夕日に向かって、
叫ぶ――――
「わたしぃ~! 今、本気で青春してまぁ~すっ!!」
笑いたい奴がいれば笑えばいい。
大人は滑稽だと思えばいい。
たとえ思春期の恋が、咲いては散っていく花火のように、ほんの一瞬のモノなんだとしても、今を全力で生きている自分達にとったら、間違いなく燃え上がっては無視出来ない大切な想いなんだ。
思春期の恋なんて長くは続かない。
それで結婚するのはごく一部で、大半が数ヶ月、数年で別れ、また新しい出逢いをする。
大人になったときに「あのときあんなこともあったなぁ」なんて見返すアルバムの一ページに過ぎないのかもしれない。
良い思い出、の一言で済むくらいのものなのかもしれない。
それでも、関係ない。
誰が何と言おうと、少なくともここに立つ三人は今、青春という名の激流を藻掻き泳ぐことを諦めたりしない。
咲き誇る気のない花火を美しいと思わない三人は、たった一瞬の輝きのために、燻ぶる種火を想い、育み、青春の大輪を打ち上げて花開かせることに全力を注ぐ。
「ヒメ……」
「ヒメちゃん……!?」
目を丸くする涼太と、突然のことに俯かせていた顔を持ち上げた蓮は、驚愕した表情のまま顔を見合わせた。
「ほら、二人も。スッキリするよ」
「ったく……」
「はは……あははっ……!」
清々しい笑みを向けてくる姫奈。
やれやれと笑って頭を掻く涼太。
ぎこちなくも込み上げる笑いを堪えられない蓮。
涼太と蓮も同じように西へ向いた。
涼太が大きく息を吸う。
そして、叫んだ。
「ヒメはぁ~! 俺が幸せにしまぁぁあああああああ~すっ!!」
続いて蓮が息を吸ってから口を大きく開いた。
「また、三人で遊びに行きたぁぁあああああいっ!!」
叫び終え、三人は顔を見合わせる。
そして、たまらず噴飯した。
「はは、喉痛てぇ~」
「もぉ、リョウ君恥ずかしいなぁ~」
「あはは、確かにスッキリするね」
気まずさも、後ろめたさも、申し訳なさも。
遍く一切を掻き消して、三人はしばらく笑い合った。
青春の形は様々。
人によって思い浮かべる青春は違う。
どんな青春があったっていい。
少なくとも、この瞬間。
涼太は、姫奈は、蓮は、間違いなく本気で青春していた――――
いやぁ、青春してますね。
眩しくないですか?
少なくとも作者は見事にバルスされてますっ!w
セルフ目潰し!!w
ラブコメである本作『初負け』ですが、恋だけでなく友情にも焦点を当てているのは、やはり作者が『青春って恋だけを指し示す言葉じゃない』と思っているからですね。
まぁ、もちろん涼太と姫奈の恋の行方は、もうそれはそれは焦れったくもどかしく甘酸っぱくしっかりと描いていきますがッ!!w
いやぁ、書籍化してぇ…………
今の作者の青春は、そこにあるかなと思いますw
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コメントもどしどしください!!
作者はすべてに目を通しています~!!
そして、引き続き今後ともお付き合いいただければ幸いです!
というか、ラブコメという点ではまだまだここからですし……w
ではっ!!




