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俺の初恋幼馴染は“負けヒロイン”で終われないっ‼~「今フリーなんですけど?」と言ってくる幼馴染を、今度は俺の手で幸せな《勝ちヒロイン》にしてみせます~  作者: 水瓶シロン
第二章~脱・負けヒロイン編~

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第28話 初恋幼馴染は仲直りしたい①

 冬期休暇は短い。

 年を越して新年を迎え、三箇日をまったり過ごしたあとは、一週間と経たないうちに三学期が始まってしまった。


 笠之峰高校はそこそこ高偏差値の高校。

 大半の生徒は日々コツコツ弁勉強に勤しんでおり、各教科から出される冬期休暇課題も当たり前のように終わらせている。


 しかし、それでもやはりやり損ねた課題がある生徒も一部いるらしく、姫奈もその一人だった。


 涼太は冬期休暇の間に姫奈から「お願いリョウ君、写させてぇ~」と縋りつかれたが、甘やかすことはしなかった。


 わからない問題があれば教えるし、定期的に「早く手をつけないと課題終わんないぞ」と警告もするが、答えを映させるなんてことはしない。


 優しくするのと、甘やかすのを混同してはいけない。

 姫奈のためを思えば、なおのこと。


 そのため、冬期休暇が終わり三学期が始まってから数日間、姫奈は涼太に拗ねた態度を取っていたのだが――――



「――ってな感じで、やっと機嫌戻してくれたみたいだ」

「あはは、なら良かったよ。というか最初から最後まで、ヒメちゃんの自業自得なんだけどね?」


 冬期休暇から一週間弱過ぎた今日。

 涼太は蓮と二人、本校舎西側にある花壇の縁に座って昼食の弁当を食べていた。


 ここで食べるときは大抵人目を避けたいとき。

 より正確に言えば、あまり人には聞かれたくない内緒話をするために、どちらかが相手を呼び出したとき。


 実際、今日ここで昼食を食べようと提案してきたのは、蓮だ。


 ふとした瞬間に会話が途切れる。

 沈黙が二人を包み、本題を切り出す空気感が作られた。


「……涼太。相談、というか頼み事なんだけど」


 口を開いたのは蓮だ。

 コミュニケーション能力に長けた蓮が他では見せないような、不器用な言葉の紡ぎ方。


 それでも、勇気を出して。

 前に進むために、重たい口を開いた。


「ヒメちゃんと、話す機会を作ってくれないかな?」

「…………」


 涼太は蓮と真正面から視線を交わした。

 しばらく互いが真剣な顔を向き合わせていたが、涼太はフッと表情を綻ばせた。


「……やっとか」

「あはは、ゴメン。遅くなって」

「ホントだぞ。お前が言ってくるの、ずっと待ってたんだからな」


 少し申し訳なさそうに、それでいてどこか照れ臭そうに笑みを浮かべる蓮の肩に、涼太は軽く拳を当てる。


「まぁ、ともかく。決心してくれて良かった。年が明けて、気持ちも新たにしようって感じか?」

「おいおい、そんな単純な理由なわけないだろ~?」


 ニヤリと笑う涼太の冗談に、蓮もつられて破顔する。


「実はさ、背中を押してくれた人がいるんだよ」

「背中を押してくれた?」


 疑問符を浮かべる涼太に頷き、蓮は視線を少し遠くへやった――――



◇◆◇



 時は数日遡り、冬期休暇が明けた初日のこと――――


「すみません、橘先輩。お待たせしました」

「大丈夫、待ってないよ。絵を描いていたからね」


 始業式は昼前に閉会し、全生徒は下校となる。

 そんな中、蓮はあらかじめ連絡しておいた優香と、中庭で落ち合った。


 優香はベンチに腰掛けており、スケッチブックの上で鉛筆を躍らせながら言う。


「遠慮せず、座るといい」

「あ、はい」


 失礼します、と一言言ってから、蓮は少しだけ間隔を開けて優香の隣に腰を下ろした。


 そのタイミングで、優香は手を止める。

 鉛筆を筆箱に仕舞い、スケッチブックもパタンと閉じる。


「久し振りだね。とは言っても、冬休みの間も何度かメッセージでやり取りをしていたから、あまりそんな感覚はないが」

「あはは、すみません。しつこく連絡してしまって」

「いや、構わないさ。私から連絡してくれと頼んだんだから」


 やはり優香の表情の変化は少なく、心の底が読めないところはあるが、それでも口にしたことに嘘偽りがないことは間違いなさそうだった。


「それで、相談というのはやはり例の幼馴染達についてかな?」


 優香がジッと向けてくる赤茶色の瞳に、蓮は「はい……」と頷く。


 冬期休暇の間、蓮は優香と何度か連絡を取る中で信用出来る人だと判断し、今の自分の状況を話していた。


 具体的な名前は控えつつ、自分に二人の大切な幼馴染がいること。


 一人は面倒臭がりながらも面倒見の良い親友で、一人は掴みどころのない雰囲気を纏いながらもとても可愛らしい女の子であること。


 そして、今までずっとその女の子の好意に気付きつつも見て見ぬフリを続けた末、告白を受け、その想いに応えることが出来なかったのを切っ掛けに気まずい関係に変わってしまったことを。


「俺は、どうすればいいんでしょうかね……?」

「重要なのは、君がどうしたいかではないのかい?」

「……俺に、こうしたいなんて言う権利が、あるんでしょうか……」


 蓮は関係を歪めた張本人。

 もっと早く姫奈の好意に対して誠実に接していれば、告白の結果は同じにしても、今みたいな状況にはならなかっただろう。


 それをわかっている蓮は、乾いた笑みを浮かべて俯く。


「君は、何と言うかアレだね。私と似ている」

「えっ、そうですか……?」


 蓮は目を丸くした。

 視線の先にいる優香は、感情の起伏が少なく淡白な性格をしている。


 一見、蓮とは真反対。

 蓮も自分の中に優香と同じ要素があるとは思えなかった。


 しかし――――


「ああ、そっくりだ。君は確かに周りが見えている。そういう意味では客観的な視点を持った人間だ。でも、ひとたびそこに自分という人間が入った環境で考えると、途端に視野が狭くなる。君は三人称視点では客観的にいられるが、一人称視点になるとそうではいられなくなる……違うかい?」


 優香の言葉は、的を射ていた。

 それはもう見事に。


 蓮自身ですら存在を知らなかった、霧掛かった、暗闇の中の的のど真ん中を打ち抜かれた。


 図星。

 でも、そこに生まれる感情は驚きだけではなく、不思議と晴れやかな気持ちになった。


「そう、かもしれません……気付きませんでした。やっぱり凄いですね、橘先輩は」


 蓮が感心した瞳を向けると、優香は手にあるスケッチブックに視線を落とした。


「なに、大したことではないさ。絵と同じだからね」

「絵と同じ?」

「ああ。私は風景画を描くだろう? 言ってしまえばそれは環境を客観的に俯瞰した三人称視点の景色だ」


 優香はスケッチブックの表紙を手で撫でながら、視線を真っ直ぐ、目の前の中庭へ向ける。


 自動販売機が二台設置されている。

 隣にゴミ箱が置かれている。

 花壇が並んでいる。

 葉の落ちた木々が二本、常緑樹が一本、少なくとも視界には映っている。


「でも、そこに私はいない」

「……あぁ、なるほど」


 蓮は優香の言わんとしていることを悟り、呟く。


「もうわかっただろう? 私達は風景画を描くことは出来ても、その風景に佇む自分の姿は想像出来ない人間なんだ」


 誰しも子供の頃は、自分の似顔絵などを描くだろう。

 家族の絵を描くなら「これパパね」「これはママ」「で、これ私」といった具合に、子供の世界は自分を中心に回っているから、見ている世界に自分という主軸が含まれている。


 しかし、成長するにつれて周りが見えるようになると、世界は決して自分を中心としてはおらず、自分が一要素でしかないことを理解する。


 そして、特に周りが見えすぎるくらいの人間は、自分が傍観者・観測者にでもなったかのように、自分という存在を忘れて目に映る景色を客観的に捉えるようになる。


 時にはそれが良いように働く場合もあるだろう。

 周りが見えれば、気も利かせやすく、頼りにされるかもしれない。


 だが、一方で気付かぬ間に利他主義になり、自分の感情を疎かにしてしまいかねない。


「だから、私達のような人間はまず、しっかり自分の心と向き合わなくてはならないのだよ」


 そう言って、優香が再び蓮の方を向いて、どこまでも見通すような瞳を向けてきた。


「それを踏まえて、もう一度尋ねようか。君はどうしたいんだい?」


 蓮は自分の胸の内の言葉に耳を傾けるように、一度目蓋を閉じて、再度開いてから口にした。


「俺は、また三人で仲良くしたい……です」

「……良いじゃないか」


 表情の変化の乏しい優香。

 それでも、微かにその口角が持ち上がったようにも見えた。


「では、同じことを“面倒臭がりで面倒見の良い親友”に伝えるといい。その子も、君が頼ってくれるのを待っているのではないかな?」

「そう……ですね……!」


 蓮の表情は晴れやかになった。

 少し勢いづいて立ち上がり、優香に深く頭を下げる。


「ありがとうございます、橘先輩」

「いいや、私は何もしていないよ。それこそ、目の前の景色を客観的に見て、その感想を言っただけに過ぎないからね」

「それでも、俺は凄く助かりましたから」

「そうか。それなら良かった」

「また、連絡……してもいいですか?」


 蓮は胸の奥が妙にざわつく感覚を抱きながら、少しばかりの勇気をもって聞いた。


 優香はそんな蓮に、小さく目蓋を上下させて、


「ああ、構わないよ」

「っ、ありがとうございます……!」


 蓮はもう一度ペコリと頭を下げ、最後に「今日は付き合っていただいてありがとうございました」と礼を言ってから、この場をあとにした。

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