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俺の初恋幼馴染は“負けヒロイン”で終われないっ‼~「今フリーなんですけど?」と言ってくる幼馴染を、今度は俺の手で幸せな《勝ちヒロイン》にしてみせます~  作者: 水瓶シロン
第二章~脱・負けヒロイン編~

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第16話 初恋幼馴染は誘いたい

「姫様ぁ~。昼休みいなかったけど、どこ行ってたの?」


 昼休みにバスケ部に所属する高校二年生の先輩男子からの告白を受けた日、五限目の授業が終わったあと、姫奈のもとに数少ない友人である結愛がやってきた。


「ちょっと告白されに」

「『ちょっとそこまで』みたいなノリでモテてるんだね……流石姫様だ……」


 結愛は空いていた姫奈の前の席に腰を下ろした。


「誰から? 返事は?」

「バスケ部の先輩から。もちろんノーですね」


 予想通りの返事だったのだろう。

 結愛は「ですよねぇ~」と言って笑う。


 一方で、姫奈はまったく面白くない。


「はぁ、みんな簡単に人好きになりすぎでしょ……」

「あっはは! 姫様が簡単に人を好きにさせるんだよ~」

「魔女みたいに言わないで欲しいんですけどぉ」

「あながち間違ってないのがね~?」


 むぅ、と不満げな表情を浮かべる姫奈に、結愛はやや前のめりになって提案する。


「も~、そんなに面倒なら、さっさと彼氏作っちゃえばいいのに。前に新しい恋探す~みたいなこと言ってたじゃん?」


 彼氏がいれば告白されずに済むでしょ、と結愛が言うので、姫奈は肩を竦めた。


「そう簡単に新しい恋なんて見付からないから」

「ふぅん……じゃ、見付けてもらうしかないね」

「見付けてもらう?」

「そっ。例えば……『リョウ君』とかに?」

「もぉ~、またそれぇ~?」


 姫奈は聞き飽きたと言わんばかりに大きなため息を吐く。


「だって、そのリョウ君は姫様のことが好きなんでしょ?」

「ま、まぁ……そうらしいですけど……」


 姫奈は胸の奥が妙にむず痒くなるのを感じながら、尻すぼみに答える。


「だったら尚更だよ。というか、姫様ちゃんとリョウ君に言ってる? 『私はもう立ち直ってます』って」

「い、言わないよ。というか、言わなくてもリョウ君なら気付いてるだろうし……」


 はぁ……、と結愛がため息を吐いた。

 そして、まるで我が子を諭すように人差し指を立てた。


「気付く気付かないの問題じゃないの~! 姫様の口から言うか言わないかの問題。ちゃんと言ってくれないと、リョウ君だって察することは出来ても、いつからアプローチ掛けて良いのかわかんないでしょ?」


 好きな人には好きと言いたい。

 でも、好きな人が傷心中だったら、やはり想いを伝えるのは(はばか)られる。


 そうなると、好きな人がきちんと立ち直るまで待つことになるが、一見元気に見えても実はまだ心の中で失恋引き摺っているなんて言う状況はザラだ。


 もちろん、人を好きになるのなんて、好きになる側の勝手で好かれる側には本来関係のない話。


 そこに何の義務も責任も発生しない。


 しかし、涼太と姫奈は互いに大切な存在同士。

 それが恋愛関係でなくても、かけがえのない存在であることに変わりはない。


 だから、涼太が自分に好意を抱いていると知っている以上、姫奈がもし涼太を大切に思っているなら言わなければならないのだ。


 その好意と向き合う準備が出来ているのかを。


 義務でも責任でもなく――意思で。


 向き合った結果好意を受け入れるにしろ、はたまた断るにしろ、このまま片想いを抱かせ続ける状況を何となくやり過ごすのは残酷というもの。


 姫奈は失恋したから前を向けている。

 しかし、涼太は失恋すら出来ていない。

 抱いている恋の行く先がどうなるのか、知らない。


「何か癪だけど……結愛の言う通りだね」

「でしょ? それに、そうすることが結果的に姫様のためになると思うしね~」


 そうと決まればっ! と結愛が勢いよく立ち上がった。

 右手を握り込んで拳を作っている。


「姫様、クリスマスのご予定は?」

「ないけど」

「やっぱり。モテるクリぼっちだね」

「言い方に悪意ありませんかぁ~?」

「その通りじゃん。でも好都合。良い機会だから、活かさない手はないよ!」


 ちょっと耳貸して、と結愛が自分の口許に手を当てるので、姫奈は「なにぃ?」と少し面倒臭そうに耳を寄せる。


 そして、数秒後――――


「ねっ、良い提案でしょ?」

「イヤで~す。却下します」

「ほ~ら、恥ずかしがらないの! 大丈夫だって!」


 大いに不満アリな結愛の提案に文句を言おうとした姫奈だが、そこで六限目の予鈴が鳴る。


「じゃ、アタシ席戻るから~! 放課後ね!」

「ちょ、ちょっと結愛……もぅ……」


 半目を作る姫奈の顔には、じんわりと熱が溜まっていた――――



◇◆◇



 放課後――――


「さて、帰りますかぁ」


 終礼が終わり、同じ三組のクラスメイトらが好き好きに立ち上がり始める中、涼太も教科書類を詰め込んだカバンを持って席を立った。


 向かうはお隣の四組。

 いつも通り、姫奈を迎えに行く。


 まばらに出てくる四組の生徒らを優先して道を開け、人の流れが途切れてから教室の後ろの扉から顔を覗かせる。


「おい、ヒメ――」

「――あぁ~、ゴメン姫様ぁ~!」


 涼太の声は、被せられた一人の女子生徒の声に掻き消された。


 その女子生徒は、学校で姫奈が会話をしている数少ない生徒ということもあって、見覚えがあった。


(確か……美嶋結愛、だったか……?)


 一体どうしたんだろう、と涼太は声を掛けるのを中断して見守る。


「ちょっとイブに別の用事できちゃってさ~!」

「え、えぇ……私との約束はぁ……?」


 イブ、というのは恐らく『クリスマスイブ』だろうと涼太は察する。


(それにしても、大丈夫かヒメ? 何であんな喋り方なんだ?)


 いつも姫奈は気怠げだ。

 アンニュイな雰囲気を纏っている。


 しかし、それにしてもあまりに語り口調に抑揚がなく棒読みで、不自然に感じられた。


「本当にゴメンって、姫様ぁ~」

「私、えっと……イルミ観に行くの楽しみにしてたのになぁ」


(おいおい。ホントか、それ……?)


 発言の真偽を疑いたくなるほどに、言葉に感情が籠っていない。


「いつか埋め合わせするから、ねっ?」

「えぇ、じゃあ私、一人で観に行くんですかぁ?」

「わかったわかった! じゃあ、アタシが誰か見繕うよ。えぇっとぉ~」


 結愛が辺りをキョロキョロと見渡し始める。

 すると、教室の後ろ扉の前に立っていた涼太を見付けたところで、視線を留める。


「えっ……?」


 ニヤァ、と悪い笑みを作った結愛が大股で近寄ってきたので、涼太は思わず声を漏らして後退りしそうになるが、逃がすまいとその腕を掴まれてしまった。


「『リョウ君』」

「え、えっと?」

「清水涼太くん、だよね?」

「あ、ああ……それが何か――って、ちょ――!?」


 本人確認が取れたところで、結愛がグイグイと涼太の腕を引っ張って教室内に連れ込んだ。


 そして、姫奈の前に立たされる。


「な、なになに?」

「ごめんだけどさぁ~、清水君。アタシの代わりに、姫様と行ってあげてくれな~い?」

「い、行くって……今話してた?」

「そっ、イルミ」


 そんなに行きたいのか? と涼太は視線で尋ねようとしたが、姫奈は何故か横に垂れる胡桃色の髪を指に巻き取って弄りながら、視線を斜め下に逃がした。


 そんなに行きたそうには見えない、というのが涼太の正直な感想だったが――――


「あっはは! ゴメンね~、清水君。ちょっと姫様拗ねちゃったみたいでさぁ~!」

「へ、へぇ……」

「というワケで、お願いっ!」

「いや、でもヒメもお前と行くから意味があったんじゃ……?」


 結愛が両手を合わせて頼み込んでくるが、涼太は真っ当な指摘を口にする。


 出掛けるのだって、相手が誰でも良いワケではない。

 行き先が重要であるのと同じくらい、行動を共にする人選も重要なはず。


 むしろ、そっちがメインで出掛ける場合も少なくないだろう。


「だ、大丈夫大丈夫! そりゃ、姫様はアタシのことがだぁ~い好きで一緒にイルミ観に行くのをそれはもう心待ちにしてただろうけど――」


 チラリ、と涼太が目をやれば、姫奈が結愛の方へ恨めし気な視線を送っているのが見えた。


「――清水君でもまぁ、代わりくらいにはなるでしょ!」

「何か俺の扱い酷くない?」

「あっはは、気のせい気のせい!」


 結愛がポンポンと涼太の肩を叩く。


「まっ、そういうワケだから任せたっ! じゃ!」

「あ、おい――」


 涼太は手を伸ばすが、引き止める間もなく結愛は教室を駆け足で出て行ってしまった。


 あとに残された涼太と姫奈は、状況に付いて行けずしばらく何とも言えない沈黙に包まれていたが――――


「ま、まぁ、取り敢えず帰るか……」

「……ですねぇ」


 詳しい話は、帰りながらでも帰ってからでも出来る。


 涼太と姫奈は、妙に気恥ずかしい居心地の悪さを感じながら、並んで帰路に就いた――――

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