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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

婚約破棄された聖女 〜あなた方全員、メテオに潰されますよ〜

作者: セト

 皆のために頑張る人が報われる。

 そんな世界だったら、どんなに素晴らしいだろう。

 実際は真逆だ。


「正直、ソルシアって気味悪いんだよ。動物に話しかけたり、空に魔法を撃ってみたり。気持ち悪い女と結婚したら馬鹿にされるし、婚約破棄させてもらう!」


 ヴァニラ王国の第三王子シャファルは、あろうことか王妃の生誕を祝う夜会で急に発表し出す。

 防衛の面において騎士団と双璧を成す聖女隊の一員であるソルシアは、驚きから目を瞬かせる。

 誰が祝いの場で、それも衆人環視のもと、婚約破棄されると予想できるのか。


「私の行動で不快にさせて申し訳ございません。それらは聖女としての仕事の一環で……」

「はあ? 他の聖女は鳥に話しかけたりしないけど?」

「シャファル殿下はご存じだと思いますが、私には特殊な力がありまして――」

「――動物と話せるんだろ? あと予知夢もあるし、魔法も撃てる。けど予知夢は外すことも多いし、僕らは動物語わからないから、君が嘘ついてもバレない」

「私が動物と話せるという嘘をついて、なんになりましょう?」

「ほら、君は頭おかしいから。この間も、僕が部屋を訪ねたのに……わかるだろ? そういうとこだよ」


 夜中の1時に上半身裸で人の家にやってきて添い寝してくれと頼んできた日の話だろう。

 酒に酔っていたとはいえ、あまりに下品だとソルシアは軽蔑してしまった。

 実際、彼の下半身はやりたくて仕方ないといった様子だった。

 だから、丁重にお断りしてお帰り願った。

 それが気に食わなかったらしい。

 聖女は結婚するまで、異性と肉体関係を持つことを禁じられている。 

 シャファルも当然理解している。


 彼は一年前、聖女隊の視察にきた際、ソルシアに一目惚れして婚約を迫った。

 身分の違いもあり、受ける気になれなかったソルシアは一度は断った。 

 ところがシャファルはストーカー並にしつこくて、毎日彼女の家の前でウロウロするようになる。

 最後は出したゴミまで漁るようになった。

 他国からヴァニラ王国に留学、そのまま聖女になったソルシアは身よりがいない。

 そういった不安や、シャファルが必ず幸せにすると約束してくれたから婚約の申し出を受けた。

 ぶっちゃけ、断り続けたら重罪にされそうで怖かったというのも少しある。


「シャファル様のお誘いを受けられず、心よりお詫びいたします。実は事情があります」

「嘘つけ! ……けどまぁ、聞いてあげよう。僕は心が広いから」

「近い内、王国に災いが降りかかります。それを回避できないかと日々奮闘しておりました」

「5歳児なみの嘘だね。婚約破棄されるのが嫌なだけだろ」

「違います! 本当に危険なんです!」

「じゃあ、災いってなんだ? ハッキリ言ってくれよ!」


 一度深く呼吸をするソルシア。

 この場は人が多すぎる。

 だが、こうなっては仕方ないだろう。

 ソルシアは、それを初めて知った一週間前のことを思い出す。


  ☆ ☆ ☆


 あ、死ぬ。

 そう諦めた瞬間、ソルシアは目を覚ました。


「ハァ、ハァ……。現実じゃ、なかったぁ……」


 半泣きになりながら呟く。

 全身から汗が噴き出し、体温もかなり熱いように感じる。

 呼吸も中々整わない。

 ようやく落ち着くと、ソルシアは夢の内容について考える。

 ヴァニラ王国の城付近に隕石が降るという内容だった。

 衝突の衝撃によって城下町や城が大きな被害を受ける。

 それも一発だけではない。

 二発目が翌日、より近い位置に降ってくる。

 隕石による災害は神話で語り継がれ、メテオと呼ぶ。

 自然現象で避けようがないとされるが、落下場所が悪すぎる。

 夢では二発目の後、町も城も消し飛んでいた。 

 さらに三発目もあるのだが、それは離れた山の麓に落下する。

 三発目は町には影響はないものの、二発目まででもう壊滅するのだ。

 ソルシアの見る夢は予知夢というもので、的中率は約三回に一回。

(それでも対策はしなきゃ)

 万が一、的中でもしたら国が終わる。

 朝飯もそこそこに家を飛び出し、ソルシアは町の広場へと向かった。

 ピーッ、ピーッと指笛を鳴らす。

 すると木々などに止まったいた渡り鳥たちがソルシアの近くを飛び回る。


「ねぇ、あなたたちはなにか異変を感じる?」


 幼い頃よりソルシアは予知夢の他、動物と話す能力も有していた。

 対象の生物と話したいという気持ちを込めて声をかけると、相手が理解してくれる。

 さらに相手とも意思疎通できる。

 渡り鳥たちは、遠くの地で空からなにか降ってくる気配を感じて逃げてきたという。

 他国でもメテオが発生しているのかもしれない。

 基本的に、動物は人間より第六感みたいなものが鋭い。

 メテオの時期を特定するためにも、今後も動物たちから情報収集はした方が良い。

 次に、ソルシアは町の外に出た。

 外壁から四、五キロほどの位置で立ち止まる。


「間違いない。ここね」


 目印となる小川があり、そこが予知夢で見た一発目の落下地点だ。

 外壁からこれだけ離れていても影響がある。

 メテオの大きさは、十メートル前後に見えた。

 一発目だけでも外壁は破壊され、町中にまで破壊が及ぶ。

 ソルシアはメテオの軌道上であろう空に向かって爆発魔法を放つ。


 ――轟!


 凄まじい音が響き、上空で目を見張るような大爆発が生じた。

 留学してから目覚めた遅咲きの力だが、威力においては右に出る者はいない。

(でも、こんなので防げるの?)

 爆発の衝撃波でメテオの軌道を逸らすか、または直接当てて破壊してしまうか。

 前者は爆発程度で軌道をズラせるかが怪しい。

 魔法によるエネルギーで隕石表面を蒸発、生まれたガスの膨張による推力によって落下地点をずらせるか?

 難しいだろう。

 後者は、壊せても粉々に散った飛散物が空から降り注ぐ。

 おそらく町にも入る。

 自分一人で決めるには荷が重すぎるため、ソルシアは聖女隊の詰め所に向かった。


 ありがたいことに、本日はほとんどの聖女たちが揃っていた。

 聖女は主に若く、魔法に長けた女性たちで構成される。

 ソルシアもまだ22歳と若いが、中には十代の子も数人いる。

 わずか三十人ほどの聖女隊は、それでも騎士団と同等以上の戦闘力だろう。

 ソルシアがそうであるように、他の聖女もまた凄まじい魔法の才がある。

 さて、今回の件をすべて聖女たちに説明する。


 信じる者、信じない者、それぞれだ。

 予知夢の特性を聖女たちは理解している。

 信じない者は、的中率は三回に一回なら外れるでしょ? といった考え。

 聖女隊を率いる25歳の隊長ララテラは、入隊からわずか五年でいまの地位を勝ち取った。

 ソルシアと同じく留学生からの成り上がりだ。

 知識が豊富で賢く、それでいながら豪快で男勝りな女性。


「……ないな。それはない」

「隊長、そうは言い切れません! 渡り鳥の情報によると、他国でもメテオが降った可能性があります」

「ソルシア、この国の歴史ではメテオが最後に降った可能性があるのは400年前。それも確実じゃない。流星が空から降ってきたと記録があるだけ。それが三発も落ちるなど……ありえない」

「でも仮に的中した場合、無策では王国が滅びます」

「では調査は続けてくれ。落下確定したら考えよう」


 それでは遅いのでは? 

 ソルシアは不満を抱いたが、ララテラの意向に背くだけの権力もない。

 ただ、話すことで一縷の希望が見えたのも確か。

 リナ、ホーネイ、ファミの三人の仲間が話を信じてくれたのだ。


「わたしたちはソルテアの予知夢を信じるわ。仕事が終わったら対策を立てましょう!」


 苦境の中、支え合える仲間がいる。

 涙が出るほどソルシアは嬉しかった。

 その日の仕事を終えると、四人は集まってメテオ対策の相談に入る。

 町の外、一発目の位置に移動する。


「町からかなり離れているけど、本当に町に被害が及ぶの?」


 リナは疑問だった。

 メテオ災害の経験者など、まずいない。

 ゆえにメテオの威力を目にしたのは(予知夢ではあるが)ソルシアだけだろう。

 そこでメテオの速度や威力の凄まじさを語ると、三人は顔が真っ青になる。

 想像の何十倍の破壊力だと知ったから。

 三人はせいぜい落下から範囲数十メートル程度の被害だと考えていた。

 ホーネイとファミが冷や汗をかきながら確認する。


「町の近くに、二発落ちるんだよね?」

「仮にソルシアの爆発魔法で破壊できたとして、砕けたのが私たちに当たるよね?」

「だから私が魔法を撃った後、防御結界を迅速に張ってほしいの」  


 先に防御結界を張ると、爆発魔法が引っかかってしまう。

 問題は防御結界は即座に張ろうとすると失敗率が上がること。

 上手くいけば良いが、仮に失敗したら生身でメテオの欠片を受けることになる。

 理想は、防御結界を素早く何重にも張ること。

 結界をクッションのようにすれば、飛散物の威力は弱まっている。

 三人は、すっかり黙り込む。

 まずいと感じたソルシアは成功に繋がる方法を提案する。

 結界を張れる者が数人いれば、一人が失敗しても他の者がすぐにカバーできると。


「そ、そうだね! うん、できるよ!」

「うんうん! できるできる!」

「私たちは誇り高き聖女隊だもんな!」


 三人ともやる気を取り戻してくれたようでソルシアはホッとする。

 三人とも優秀だし、今後聖女隊からもっと仲間が増えれば被害を抑えられるだろう。 

 

 翌日、いつものように詰め所にいったソルシアだが、ララテラから信じられないことを告げられる。

 リナ、ホーネイ、ファミの三人が辞職して町を離れたという。

 ショックで言葉が出ないソルシアに対して、ララテラは厳しく叱責する。


「お前、二度とメテオの話はするな! わかったな!」

「……でも」

「でも、じゃない! これ以上、聖女隊の輪を乱すな!」


 目の前が真っ暗になったように感じていると、詰め所に若い男性が入ってくる。

 聖女たちが急に色めきだってそわそわとし出す。


「こんにちは。お邪魔していいかな?」 


 金糸を束ねたような美しい髪に端正を極めたような美形な顔立ち。

 筋肉質でスラリとした体型で王家の紋が入った衣装を纏う。

 第一王子で王太子のアリューゼだった。


「「「王太子殿下~!」」」


 ヴァニラ王国擁する聖女隊といえど、そこは若い女性の集まり。

 聖女たちは目を潤ませながら駆けよって、猫なで声を出しながら体をくねくねとさせる。

 アリューゼは両手に持った袋をテーブルの上に乗せる。


「最近、美味しい菓子店ができたんだよ。良かったら皆で食べてほしい」

「「「ああーん! 王太子殿下~!!」」」


 聖女たちは腰をくねくねさせながらもお菓子を美味しくいただく。

 こうやって、アリューゼはよく差し入れを持ってくる。

 文武両道でルックスも最高、二十前半でありながら人格も完成されている。

 まさに非の打ち所がない。

 目敏い彼は喜色満面の聖女たちの中で、一人だけ明らかに陰のオーラを放つソルシアに気づく。


「ソルシアだったね。体調でも悪いのかな?」

「……あの、実は大事なお話が」


 例の件を言いかけたとき、ララテラが二人の間に割って入る。


「――ああっと! 大事な話というのは、我々にも少し魔道具を提供していただけると嬉しいということでして」


 ララテラはアリューゼには愛想を振りまきつつ、背後にいるソルシアを睥睨する。

 余計なことは言うんじゃねーぞ! という顔だ。


「その件か。僕は君たちの実力を高く買っている。魔力を底上げしたり、魔法の威力を上げる装具の貸し出しを陛下に進言中だ」

「可能であれば、遠方がよく見える物をいただけると助かります。我々は遠距離魔法を得意とする者が多いもので」

「理解した。それも伝えておこう」


 平民の声にすら真摯に耳を傾けるアリューゼなら……と考えたソルシアだったが、それも叶わなそうだ。

 仕事の帰り道、ソルシアは一発目の場所に向かった。

 そこで空に向かって爆発魔法を撃ちまくる。

 どの位置でメテオを砕くべきか?

 そもそも本当に砕けるのか?

 アリューゼの話していた魔法強化の魔道具を借りることができれば、確実性は上がるだろう。


 練習を終えて町に戻ると、門番の様子がおかしい。

 腫れ物を触る態度だ。

 近くにいた町民たちも同じで、ソルシアのことを見ながら噂話をする。


「あまり見るな、殺されるぞ」


 小声でそんな会話が聞こえたため、近くに寄って事情を尋ねる。

 相手もビビったのか、素直に教えてくれた。

 ストレスの溜まった聖女が町の外で爆発魔法を撃ってストレス発散している。

 そういった噂が流れていたようだ。

 確かにストレスはあるが、魔法を撃っているのは町の人々を守りたいからだ。

 それなのに、あらぬ噂を立てられる。

 悲しい気持ちでトボトボと町中を歩く。

 買い物でもして帰ろうとしたところ、誰かがドンとぶつかってきた。


「あっ、ごめんなさい!」

「いえいえ。それでは」


 三十歳くらいの男性がそそくさと人混みの中に入っていく。

 ハッとして、ソルシアはポケットの財布を確認する。


「……やられた」


 先ほどの男にスラれた。

 夕食前の人の賑わう通りの隅っこで、ソルシアは座り込む。 

 地面に顔を向けると大粒の涙が零れ落ちる。

 だんだんと嫌になってきた。

 故郷でもないのに、なぜ自分ばかり頑張らなくてはいけないのだろう。

 切ない。

 誰も協力してくれないのなら、いっそあの三人みたいに逃げだそうかとすら思う。

 でも頭を左右に振って、そんな自己保身を改める。

 

 翌朝にはまた動き出す。

 メテオ二発目の位置も確認して、爆発魔法の練習を行う。

 聖女隊の詰め所では、ララテラに見つからないように他の聖女に協力を求める。


「ごめんね。ソルシアを手伝いたい気持ちはあるんだけど、隊長に禁止されてるんだ」

「そうなの。もし手伝ったらクビだって言われてて……」


 ララテラが恐れているのはメテオが確実になったとき、聖女が次々と辞めていくことだろう。

 気持ちはわかるが現実から目を背けているとも言える。

 仕事終わり、ソルシアはララテラにもう一度話を持ちかける。


「隊長、やっぱりメテオ対策はするべきです」

「必要ない。ワタシの調査によるとメテオは降らない」

「どういった調査でしょうか?」

「他国の文献を集めて調べた。メテオは落下する際、一部を燃やしながら落下してくるとあった。お前が見た夢ではどうだ?」


 ソルシアは頷く。

 夢の中のメテオは燃えていたのだ。


「メテオは基本的にこの星の外からやってきていると考えられる。ではなぜ、メテオは燃える?」

「わかりません」

「おそらく断熱圧縮によるものだ。メテオは速度が速すぎるゆえ、前方の空気が圧縮され、そこで生じたエネルギーが熱に変換されて燃える。ソルシアが見たメテオのサイズはどの程度だ?」

「おそらく十メートル前後かと」

「実際はより大きい物が大気圏で燃え、縮小してなおそのサイズだ。なぜそんなに大きいかわかるか?」


 再度、ソルシアは首を振る。

 最近、首を振ってばかりだと妙なことを思う。


「基本、大きくないと燃え尽きて消える。流れ星は好きか?」

「はい。幻想的な気分になれます」

「その流れ星は不発のメテオだ。その辺の小石程度が断熱圧縮で燃え尽き、その際に発光したものが幻想的に映る」 


 地球にたどり着けばメテオ、燃えつきれば流れ星。

 その理屈でいえば、メテオの元はなにも珍しいものではないだろう。

 ソルシアだって、何度も流れ星を見たことがある。

 ララテラも一応予知夢に興味は持ってくれているようで、メテオの落下地点や数などを聞きたがった。


「一発目は町の東側です。二発目は翌日に西側に落下。こちらの方が近く、威力が強いです」

「なるほど……つまり、一発目のときは西側の建物にいれば被害は少ないと。二発目までには約一日はある。……それだけあれば、色々と動けるな。三発目は?」

「二発目が落ちてすぐ、ヴァニラ王国内のエトラ街道に落ちます」


 王国と親交の深い隣国にいくためにはエトラ街道を使うか、リトロ山を越えるしかない。 

 メテオから逃げ出す者たちは、どちらかを選ぶことになるだろう。

 とはいえ、どちらもここからは距離がある。

 ソルシアはやはりララテラは自分よりもずっと賢いと再確認する。

 もしメテオが落ちると仮定しての対策を教えてもらう。


「魔道具で強化したお前の爆発魔法なら壊せる可能性はある。でもお前のやっていることは無駄だ」

「えっ……どうしてですか?」

「言っただろ。メテオは超高速だ。お前の目で確認してから撃ったところで、すでに落下している」 


 それでは正確な落下時間でも知らなければ対応のしようがない。

 だが、ララテラには案があるようだ。


「お前の作戦は強化した爆発魔法でメテオを破壊した後に防御結界を張る、だな。悪くない。ただし張り方はすり鉢状またはU字型にする。メテオ爆破時の飛散距離は相当なものだろう。防御結界を水平に張るとあまりにも広範囲になる」

「そっか。メテオを閉じ込めるように張ることで、ほぼ全ての飛散物の衝撃を和らげる」

「無論、その結界だけでは無理だ。そこでもう一つ、お前らの上にも防御結界をテミラに張らせる。奴は高速で張る天才だ。さらに町の大聖堂に魔道具で魔力増幅させたユミンを配置。大聖堂を包む防御結界を張る」


 大聖堂は少し前に完成した、王国一立派な建物。

 避難所として使えば、多くの人も収容可能だ。

 ララテラは息抜きに紅茶をすすり、一つ質問してくる。


「さて、誰の責任が一番重い?」

「……私ですね。破壊しないとすべて無意味です」

「まぁ、城の魔道具を使えばいい。魔眼鏡であれば超高速も捉え、遠方の視力もあがる。お前の爆発魔法は最強に近い。装具で魔力強化すれば、町だって一撃で吹き飛ばせる」

「そ、そこまで強くなるんですか?」

「だから賢い殿下は絶対に貸さない。この間のも口だけだ。聖女隊の危うさを知っているからコントロールしたい」


 いまの王も賢王と呼ばれてはいるが、アリューゼは格が違うと噂されている。

 実際、聖女隊に対抗する騎士団も作っており、仮に聖女が謀反を起こせば即粛正となるだろう。

 素の実力では聖女が上とはいえ、あちらには大量の魔道具がある。

 強化された騎士団が相手となれば聖女もただでは済まない。


「チッ。本当は魔道具の管理はすべて殿下がしている。陛下に進言などしなくても渡せるはず。……もういいだろ、帰れ」


 ララテラの気まぐれとはいえ、有用な話を聞くことができた。

 満足して帰ろうとするソルシアだったが、どうしても一つ引っかかる。


「隊長のスロウを使えば、より確実にメテオの被害を減らせませんか?」


 ララテラはスロウという、生物無生物問わずに動きを遅くする魔法を使える。

 物であれ人であれ動作を緩慢にする上、範囲もかなり広く遠方にも飛ばせる。

 さすがにメテオ本体は不可能でも、爆破後に飛散物が結界を壊したところで使えば、少なくとも威力は殺せるだろう。


「……お前って結構頭が回るよな。理由は二つある。一つ、スロウは持続的かつ放射状に放つため、防御結界を張れなくなる。飛散物の動的速度があたしのスロウの適用外だった場合、欠片とはいえ生身にメテオが落ちる。二つ、メテオなど降ってこない。とっとと帰れ!」


 ソルテアは詰め所を追い出された。

(やっぱり変よ)

 予知夢に出たララテラと先ほどの言動のことを考えながら夜道を歩く。

 お腹がぐーぐーと鳴る中、とある人物を発見する。

 婚約者のシャファルだ。

 ばっちりと変装している。

 いくら服や顔半分を隠しても、独特の歩き方は消せていないが。

 後を追ってみると、彼はキョロキョロしながら館に入っていく。

 娼婦館だ。

 ハァァァァと深いため息もつきたくなる。

 もうすぐ国が滅ぶかもしれないのに、誰も彼もが好き勝手に生きる。 

 ここで生まれ育ったわけでもないソルシアが、なぜここまで頑張る必要があるのか。


 辛い葛藤。

 すべてを捨てて優しい家族の待つ故郷に帰りたい。

 命なんてかけたくない!

 ましてや、こんな人たちのために。

 二時間、ソルシアは立ち尽くした。

 そして、スッキリした顔で出てきたシャファルに笑顔で声をかける。


「シャファル殿下、奇遇ですね」

「ヒワッ!? どどどうして? どどうして? どうしてここに?」

「どうしてって、帰り道ですもの。殿下こそなにを? ここって、なんのお店でしょう」

「あっちがっ!? こっ、ここは! なんか、最近流行ってると聞いて興味本位で来てみたけど、かなり下品な店だったからすぐに帰ってきたところだ!」


 たっぷり二時間もいてねぇ、とはさすがに口にしなかった。

 ただ、精一杯の侮蔑の視線を向けてはおく。

 正直、男性として魅力を感じているわけでもないし、愛しているわけでもない。


「ご相談があります」


 それでも第三王子であるのは確かだ。

 メテオのことを打ち明け、相談してみる。

 シャファルは首を傾げ、すぐに笑い飛ばす。


「ないないない! それおとぎ話だよ。ソルシア、君はゆっくり休むべきだ。それじゃ」


 シャファルは颯爽と帰っていく。

 虚空をぼんやりと見つめた後、ソルシアは帰路についた。


 状況はいまだ悪いけれど、諦めることはしなかった。

 聖女隊のテミラとユミンには、なにかあったときは結界をお願いと話は通しておく。

 爆発魔法の練習も怠らなかった。

 魔道具の貸出申請も行った。

 動物たちからも情報を集めた。

 やれることはやる。

 そして、例の夜会の事件が起きる。


  ☆ ☆ ☆

 

 婚約破棄を告げられたソルシアは、夜会でメテオの件を話す。

 初めて話を聞く人々は動揺し、中には震え出す人もいた。

 

「その話は前にも聞いたって。普通、メテオが落ちてくるかい? しかも三発も!」

「でも万が一のとき、この王国は滅んでしまいます!」

「――オーホッホッホッホ!」


 わざとかというほど演技がかった笑い方が会場内に響く。

 王妃であるイザンヌだった。

 高く結い上げた盛り髪にバラのような真っ赤なドレスが、本日の主役であると主張している。

 三十代と比較的若いが化粧をこれでもかと顔に塗り、口紅は敢えて赤を外して紫の選択。

 長いドレスの裾を侍女に持ち上げさせながら、ソルシアの前にくる。


「いくらシャファルの婚約者だからといって、こういった場で虚言癖を披露されては困るというものよ」


 見下した目だ。 

 このイザンヌはシャファルを溺愛している。

 というのも、彼女は元々側室であり、前王妃が病で亡くなった後にいまの座についた。

 王太子のアリューゼや第二王子は前の王妃の子なので、シャファルが彼女にとっての実子だ。


「恐れながら王妃殿下。私の予知夢は三回に一回は的中します」

「つまり外れる確率の方が高いということでしょう? よく堂々と発表するわね」


 ソルシアは俯く。

 そうはいえ、確率が30パーセント以上はある。 

 正常な危機察知能力なら普通は動くはず。


「皆様、悪質な占い師の手法をご存じかしら? 彼女たちはわざと絶望的な未来が待っていると相談者に話します。相手を恐怖に陥れ、自分に依存させるためです」

「……私が、悪質な嘘をついていると仰るのですか?」

「メテオなど所詮神話。それをさも危機が迫っているように話す。シャファルの婚約破棄も納得だわ。母としても貴方は認めない! この嘘つき聖女め!」


 急に激昂して、イザンヌはソルシアの頬を平手打ちした。

 ソルシアは悟る。

 最初から恥さらしにしたかったのだ。

 シャファルに婚約破棄を提言したのも彼女だろう。


「母上、お待ちください!」


 見ていられなくなったアリューゼが介入する。


「彼女に予知夢があるのは事実です。メテオの話も嘘には聞こえません」


 アリューゼはソルシアの擁護者ではない。

 あくまで客観的な意見を伝える。

 フン、とイザンヌは鼻で嗤う。


「確かな筋からの情報があるのですよ。彼女には虚言癖があると」

「母上、それは誰ですか」

「聖女隊の隊長ララテラよ」

「隊長がっ!?」


 目を見開いて驚くソルシア。


「アリューゼ? これでもまだ、私が間違っていると申しますか」

「大変、失礼いたしました」


 間髪入れず、アリューゼは深く詫びる。

 デマカセではないと判断した。

 時折、ララテラは王妃と連絡を取り合っている。


「今日は生誕会ですし、特別に許してあげましょう。でも私の心は深く傷つきました。留意しておいてね」


 これで借りが一つできたとイザンヌは内心ほくそ笑む。

 少しでも王位継承を遅らせ、その間に王太子失脚の策を練る。

 空いた席にシャファルを送り込むというのが彼女の狙いだった。


「さて、こちらの嘘つきの処分ね。本来であれば死罪にも値する所業。しかし、一度はシャファルが愛した人」

「は、母上、さすがに死罪は……」


 事の大きさにようやく気づいたシャファルが焦てふためく。


「ええ、わかっております。――嘘つき娘、貴方はこの町から出ていきなさい。そして二度と、この町の門をくぐらないこと。できますか?」


 ただただ、悲しみがソルシアを襲う。

 真面目に頑張ってきただけなのに、この町を守りたかっただけなのに、どうしてこうなってしまうのだろう。

 そんな感傷も、イザンヌの強烈な平手打ちで破壊される。


「返事をしろ女狐!!」

「…………はい。承知しました」

「この女を追い出しなさい!」


 命令を出すと、すぐに兵士がやってきてソルシアを連行していく。

 うなだれながら連れていかれるソルシアの姿に多くの者は、憐憫の情を抱いた。

 イザンヌだけは哄笑していたけれど。


  ☆ ☆ ☆

 

 結局、一睡もできなかった。

 王妃に対する腹立たしさもあるが、それよりも単純にソルシアの話が忘れられない。

 アリューゼは広い室内を歩き回っていると、朝を迎えていた。

 朝食も摂らずに城を飛び出す。

 聖女の詰め所にいくと、幸いなことにララテラはまだいなかった。

 遅番の聖女たちからソルシアについての噂を聞き出す。

 その後もやってくる聖女たちに質問を重ねていった。

 そして自分が質問したことはララテラには話さぬように口止めする。


「おや? 王太子殿下、いらしたのですか」

「おはよう、ララテラ。今日も一日頑張ろう、それでは!」


 アリューゼはすぐに詰め所を出ていく。

 ひと気のない公園のベンチで考え込む。


「イザンヌがララテラを買ったか……。あるいは……」


 ソルシアに虚言癖はない。

 予知夢が外れることは当然あるも、的中したときはいつも彼女の話す通りになるという。

 人柄もよく、隊員からの信頼も厚い。

 では、ララテラが王妃に嘘の報告をした狙いはなにか?

 そもそも報告をしていない可能性もある。

 王妃側がララテラを誘惑し、そういう話に持っていった線も考えられる。


「腹黒い女が多いからな」


 アリューゼは腹が立ってきた。

 イザンヌはシャファルを王に押し上げ、傀儡として王国を支配したい思惑だ。

 当然、アリューゼには彼女の魂胆は透けて見えていた。

 仮にシャファルが賢王になる可能性を秘めるなら、譲るのもやぶさかではないが、現実はポンコツ馬鹿である。

 席は譲れない。


 王は病にかかっており、部屋から出ない日も多い。

 本来であれば、すぐにアリューゼが継ぐべきかもしれない。

 それでも継承を遅らせている。

 理由は判然、継承日が確定すれば、イザンヌとその手下たちが本格的に暗殺を仕掛けてくるからだ。

 特にララテラが王妃側につけば、勝率は下がる。

 解決法は簡単で、先にシャファルを始末、相手が混乱している間に継承すればいい。

 だが、それはやりたくはなかった。


「あんな馬鹿でも、一応は弟だからな」


 勝手に野垂れ死ぬのならばともかく、己の手で命を断つのは抵抗があった。


「やれることはやっておくか」


 保険をかけておくのは上に立つ者として当然。

 アリューゼは方々にすぐに指示を出した。

 まずは外壁の強化を徹底する。

 さらに余力があれば建物の壁を補強していく。

 いつ降るか不明なメテオを止めるのは現実的ではない。 

 だから落ちた後の衝撃を防ぐのを目的とする。


 一時的に労働者たちの給料を跳ね上げてでも、人員を募集して事に当たった。

 さらに管理のもと、魔道具の貸出を行う。

 肉体や魔法を強化することで、建築の効率化をはかるのだ。

 アリューゼは城の中で、腹心の部下であるヴィンセンに尋ねる。


「彼女は国を出たか?」

「いえ、まだオード村にいるようです」

「そうか」


 彼女とは無論、ソルシアのことだ。

 夜会の日、彼女が連行された際、アリューゼはすぐに諜報役の兵を送っていた。

 ソルシアの故郷は隣国であり、故郷に帰った方がいいに決まっている。

 なのに、なぜ近くの村に留まるのか。


「引き続き、監視をしておけ」

「はっ」


 一人になるとアリューゼは地下の宝物庫に入る。

 ここには世界中の技術の粋を集結した魔道具が大量にある。

 何百年もかけて王国が集めてきたものだ。

 一級品の魔道具はとにかく強力で、人を英雄にも化け物にも変える。

 ゆえに管理は厳重に行う。


「それでは、始めるか」


 メテオが落ちてきた日のために、アリューゼは秘密の作業を始めた。

 



 進捗は順調だ。

 本来ならば一、二ヶ月かかるような作業を数日で行った。


「皆、いつもありがとう。良かったら食べてくれ」

「王太子殿下、いつもありがとうごぜーます!」


 汗水垂らして頑張る作業員たちに本日も差し入れを届ける。

 その後は聖女隊の詰め所に向かう。

 いつも通り駆け寄ってくる聖女たちに訊く。


「ララテラは?」

「隊長は、最近はここに来ないんです。いつも西側の教会に入り浸っています」


 ララテラに信仰心はなかったとアリューゼは理解している。

 気になるので、そちらを訪ねてみることにした。

 向かう途中の広場を通った際、アリューゼは違和感を覚えた。

 ……なにかが足りない。

 しばらく考えて、ようやくわかる。


「鳥がいないな」


 いつもならこの広場には、あちこちに鳥がいる。

 屋根の上やら細木の上やら。

 ところが本日は、ただの一羽も見当たらない。

 広場で日向ぼっこをしている老爺に話を聞いてみる。

 少し前からやってくる鳥が減っていき、今日に至ってはまだ一羽も目にしていないという。


「六十年ここに来ていますが、こんなことは初めてです」


 彼の言葉に、アリューゼの勘が働く。

 気づくと町の東側に向かって動き出していた。

 


 数時間後。

 いつものように門番たちは談笑していた。

 一人が遠くに珍しいものを見つけて声を上げる。


「おっ、あっちでなにか光ったぞ――」


 ――直後、信じられぬ轟音が大気に響いた。

 問題はその後、大地の荒れを伴いながら衝撃波が近づいてくる。

 到達してからはもう滅茶苦茶だった。

 外壁は壊され、被害は建物にも及んだ。


  ☆ ☆ ☆


 メテオ落下から数時間が経っても、まだ混乱は落ち着かない。

 不幸中の幸いは、死傷者がかなり少なかったことだ。

 アリューゼが事前に避難させたことが大きい。

 彼は被害の範囲を確認し、すぐに人々に指示を出していく。

 それが終わると城に戻ってヴィンセンを呼んで、ソルシアの居場所を確認する。


「ソルシア様が村を出たという報告は聞いておりません」

「俺は彼女に会いにいく。少しの間、城を任せてもいいな?」

「仰せつかりました」

「それと、一つ頼みがある」


 普段ヴィンセンは表に感情を出さないタイプだが、今回は驚愕の表情をみせた。

 それほど理解できない内容だったのだ。

 それでも彼はアリューゼに心酔している。

 命令を厳守すると誓った。


 アリューゼは愛馬に跨がると単独でオード村を目指す。

 早く走らせれば、二時間ほどで到着する場所にある。

 村に到着すると、メテオの被害がないかを調べた。

 さすがに影響はなく、アリューゼも胸をなで下ろす。

 村の人にソルシアのことを尋ねると簡単に居場所がわかった。 

 小さな村なので、とんでもない美人がきたと男性陣が毎日ウキウキしているらしい。

 小さな宿の裏庭にソルシアはいた。

 うずくまるようにして泣き続けている。

 アリューゼは優しい声で話しかける。


「アリューゼだ。すべて、君の言うとおりだった」

「だから言ったのです……。多くの方が亡くなったのですよね……」

「建物の損壊は酷いが、怪我人はそう多くない。念のため、俺が避難させておいた」


 少し救われた気分になったのか、ソルシアは立ち上がった。

 彼女の真っ赤に腫らした目を見たアリューゼは、胸にグッとくるものがあった。

 彼女は他国の人間。

 それなのに、王国のために泣いてくれている。


「君にお願いがある。明日の二発目を防ぐことに協力してほしい」

「嫌です」

「うん、ありが……エッ? ダメ、なの?」


 アリューゼの目が点となる。

 悲しんでいてくれたので、快く協力してくれると思い込んでいた。

 真意を問うと、ソルシアは胸の内を明かす。

 予知夢を見てからというものずっと苦しかったこと。

 誰も信じてくれず、孤独に努力を重ね続けた。

 その結果、周囲からは気味悪がられ、しまいには婚約破棄され、王妃に馬鹿にされて追い出された。

 なぜ今更、故郷でもない国のために命をかける義理があるのか。

 アリューゼは深く反省した。

 彼女の言い分は最もだと共感もする。

 だが、ここで引けば国が滅ぶ。


「本当に、申し訳ない! 君の努力を知らず、俺たちはあまりに愚かだった」


 そう言って、アリューゼは土下座をした。

 以前、他国の者が行っていたのを見よう見真似で行う。


「で、殿下!? そんなっ、お顔をあげてください!」

「見苦しいところをお見せした。誠意が伝わる気がしてな」

「私は、殿下に悪い感情はありません。でも嫌なんです。王妃殿下、シャファル様、隊長の三人が謝ってくれたら考えます」


 ソルシアが特に苦しめられたのはその三人だ。

 謝罪もないのに、あの人たちのために働くことだけは感情が許してくれない。


「必ず、あいつらを連れてくる!」


 すぐに踵を返すと、アリューゼは町に戻った。

 門前に馬を停め、愛おしそうにタテガミを撫でる。


「よく走ってくれたな。少し休んでくれ」


 交代だとばかりにアリューゼは全力ダッシュで城に戻る。


「ヴィンセン、いるか!?」

「はっ」


 すぐに出てきた彼に、変わりはないか話を聞く。

 問題大ありだった。 

 なんと宝物庫の魔道具がすべて盗まれたという。

 アリューゼは地下宝物庫に急ぐ。

 扉が開けられていた。

 鍵は一つしかなく、アリューゼが所有している。

 なにか特別な力だ。

 中にあった大量の魔道具は一つ残らず盗まれていた。


「賊にやられたのか?」

「わかりません。誰も魔道具を持ち出した者を見ておりません」


 あれだけ大量の魔道具を誰にも見つからず運ぶなど不可能。

 すぐにピンとくる。


「犯人は収納系の魔道具を持っていたな。ちなみに、宝物庫にはそれ系は置いていなかった」


 つまり外から持ち込んで、お宝をその中にしまい込んで出ていったのだろう。

 血の気が引くヴィンセンの背中をアリューゼはポンと押す。


「幸い、いくつかは俺が隠してある。いまは盗まれた物を追うより、メテオの対応だ。賊に襲われて怪我した者は?」

「おりません。アリューゼ様の指示のおかげです」


 アリューゼは頷き、例の三人を探して謁見の間に連れてくるように命じた。

 一時間後、彼に報告が入る。

 全員、どこにもいないと。

 門兵が二時間ほど前、荷台を積んだ幌馬車が町を発つのを目撃している。

 イザンヌとシャファルが乗っており、近衛兵も付き添っていたという。

 ララテラに至っては詰め所にも教会にもおらず、消息不明だ。

 ヴィンセンに、意見を求める。


「二発目のメテオを恐れて一時避難、または逃げ出したものかと。ララテラは一足先に逃走したのかもしれません」

「実に困ったな」


 いまから捕まえるのは難しい。

 仮に成功しても素直には従わないだろう。

 アリューゼは聖女隊の詰め所に戻る。


「王太子殿下、隊長を知りませんか!?」


 彼女たちはララテラが消えて混乱していたので、逃亡したと伝える。

 さらに自身の推論を述べる。


「ララテラは、ソルシアの予知夢を信じていたんだ。だから被害が少ないと予想できる西側の教会に引きこもった」


 メテオが起きなければ良し。

 起きればいの一番に逃げる予定だったのかもしれない。

 聖女たちは憤っていたが、すぐに罪悪感が勝り出す。


「どうしよう。ソルシアに本当に悪いことしちゃった……」

「いまから一緒にいくぞ。何人かついてきてほしい」


 三人の謝罪が無理なら、仲間の泣き落としに賭けるしかない。

 そう決意したアリューゼは数名連れ、村へ急いだ。

 驚いたのは村の入り口にソルシアがいたことだ。

 肩にバッグをかけている姿を見たアリューゼは内心狂喜乱舞する。

 ソルシアは優しい。

 注文は付けたものの、町の皆が心配になって戻ることを決意したと読んだ。

 だが、だからといってそれが当たり前のような態度は絶対に取らない。

 アリューゼは愛馬から飛び降りると、そのまま土下座に移行する。


「本当にすまない! あの三人を探したのだが、全員すでに町から逃げ出した後だった。どうか許してほしい! ――ほら君たちも!」


 茫然とする聖女たちに土下座をするように促す。

 土下座など知らない聖女たちは、ぎこちない動作で同じようにした。


「ソルシア、信じてあげられなくて本当にごめんね。わたしたち皆、後悔してるの」

「ごめんなさいっ」


 考えもしなかった展開にソルシアは戸惑いながらも土下座をやめるように伝える。


「もう、わかりましたから。……いきます。メテオを止める策はあります」

「心から感謝する! もし成功したときは、望む処遇をなんでも与えると約束する!」


 すぐに戻りたいところだが、アリューゼは村長に一声かけておく。


「1、2日だけでいい。避難民を受け入れてほしい。礼は必ずする!」


 全力で駆け抜け町に戻ると、すでに夕 夕刻だ。

 今日は馬の移動だけで八、九時間なのでアリューゼは尻がクソ痛い。

 尻をさすりながらも民たちに大事なことを伝える。


 健康な者はこの町をいますぐ出ていけ――


 半ば追い出すような形で大勢の者たちを外に出す。

 行き先はオード村で、大勢の兵士たちに民を誘導させる。

 アリューゼお抱えの最強騎士団にも野営の道具をたっぷり持たせ、民に同行させる。

 これで町に残ったのは、病人や足の弱い老人だけ。

 彼らだけであれば、大聖堂に収容できる。

 仮眠を取り、明け方には聖女隊と綿密な打ち合わせを行う。


「実は、宝物庫の魔道具はすべて賊に盗まれた」

「ッ!?」


 聖女たちは皆、絶望的な顔をする。


「心配には及ばない。俺が個人で所有している物がある。それを提供しよう」


 テーブルの上に、ドッサリと魔道具を乗せた。

 個人での所有とは思えぬほど、色々と揃っている。

 魔力増幅、魔法強化、魔眼鏡と、それぞれ数個ずつある。


「実は部屋にまだあるぞ。もっと必要か?」

「これだけあれば十分です。戦えると思います」

「戦う、か。そうか俺たちはメテオと戦うんだな!」


 墓場となるやもしれないのに、アリューゼは興奮気味だ。

 男の血が騒ぐのだろう。

 反対に冷静なのはソルシアで、仲間のテミラに語りかける。


「私と一緒にいって、防御結界を張ってもらえる?」


 隊員の中で最も防御結界が上手いのはテミラだ。

 しかしメテオの真下となるため、ミスれば即死に繋がる。


「やったりましょう! 本当は逃げたいけど、アタシ以外じゃ無理っぽいしね」

「やっぱりテミラは頼りになるね」


 作戦が決まっていく。

 予知夢で二発目が起きたとき、太陽は中天に差しかかっていた。

 そこからメテオは正午前後で降ると推測できる。

 念のため、午前中にソルシアとテミラは落下地点に入った。

 少しすると、重たそうな白銀のフルプレートに身を包んだ誰かがやってくる。

 大きな盾まで装備している。


「誰ですか!」


 ソルシアとテミラが戦闘態勢に入る。


「俺だよ! アリューゼだ!」


 これには二人も顔を見合わせる。


「俺も一緒に戦う。こう見えて肉体派でもある」


 鎧と大盾は魔道具であり、防御に特化したものだ。

 いざというときは、アリューゼが二人を守る意気込みである。

 太陽が中天に近くなると、ソルシアとテミラは魔眼鏡をかけて空を睨む。

 雲すらも透視して、さらに上まで見通すことができる。

 加えてトンボの複眼のような力もあり、動的速度を緩めて感じ取る力まで備わる。


「殿下、一級品の魔道具ってこんなにも凄いのですね……」

「俺の鎧と盾も中々だよ」

「そんな魔道具の多くが盗まれたというのは、怖いですね」

「いまは、できることに集中するぞ」


 はいと返事をして、ソルシアは空に注目した。


 ――ついにきた!

 予知夢と同じもの。

 でも現実は圧倒的に速く感じる。

 魔眼境がなかったら、確実に爆破タイミングを逃すだろう。

 落ち着いて、狙いを定め、ソルシアは爆発魔法を放つ。

 元々、数百人なら一撃で仕留める威力がある。

 それが極限まで強化され、半径数キロ程度なら消し飛ばすほどのパワーに変わる。

 爆発魔法が発動したと同時、ソルシアは隣にいたテミラにタッチして合図を出す。

 音は遅れてくるため、それを指標とすると失敗する。


「はいきた!」


 爆発の一秒後には、テミラはメテオを包むように結界を発動。

 破壊されたメテオがそれに向かって飛び散る。

 結界は緩衝材の役割を果たしたものの、あっけなく壊された。

 テミラはすぐに、自分たちの頭上に二つ目の結界を水平に張る。

 紙一重で間に合う。

 ところが、思ったよりメテオの破壊力は死んでいなかった。

 死の雨が大量に結界に降り注ぐ。


「これやばいかも……!?」


 想定以上の飛散量に、ついには最後の砦が破られてしまう。

 ソルシアもテミラも死を覚悟したところで、アリューゼが立ち上がる。


「問題ない。俺がいる」


 アリューゼは体を隠すほどの大盾を空に向けた。




 同じ頃、大聖堂では魔眼鏡をかけた聖女が空を凝視していた。

 雲より上方にメテオを確認するや、大聖堂の中に駆け込む。


「きたきた! ユミン、結界を張って!」


 合図を受けたユミンが大聖堂を包む防御結界を展開。

 これだけ巨大なものだと、通常であれば数秒程度しか保たない。

 だがいまは魔力強化した上、残りの聖女たちから魔道具を介して魔力供給されている。


 ある程度離れていても、メテオの強襲は耐えがたいものがあった。

 それでも聖女たちはやりきった。

 轟音が嘘のように静寂と変わったとき、結界は限界を迎える。

 聖女たちは外に出て被害の確認を行う。

 民の多くを避難させたアリューゼの判断は、大正解だったと誰もが感じた。

 数人の聖女がソルシアたちの元へ急ぐ。


 お願い、無事でいて――

 祈るのは現実が厳しいことを知っているから。

 あんなに距離のあった大聖堂ですら、あれだけの破壊力。

 真下にいたであろう三人は残骸すら残っているか……。


 奇跡は起きた。

 座り込む二人の聖女と腕を組む王太子の勇姿がある。


「三人とも、無事だったのね!」


 大喜びで聖女たちが介抱に向かう。

 驚くことに、ソルシアやテミラにほとんど怪我はなかった。


「最後は、殿下が守ってくれたんです」


 ソルシアは砕けて地面に散らばった大盾を愛おしそうに眺める。


「素晴らしい戦いだった」


 アリューゼはしみじみと言った。


  ☆ ☆ ☆


 時は一日前に遡る。

 一発目のメテオが発生した直後のことだ。

 教会の中、神の偶像にもたれかかっていたララテラは、ようやく一歩目を踏み出す。


「何事だ!?」

「なんだいまの音は!?」


 人々が騒ぎ出す。

 町の西側は大きな影響を受けなかったが、それでも異常な風圧や音は誰もが感じ取った。

 大衆が混乱する中、ララテラは迷いなく城を目指す。

 聖女隊の隊長にもなれば、城の内部がわかるほどには何度も訪れたことがある。

 そして誰かに見つかっても、王に異変の報告にきたと言えば不自然さはない。

 地下宝物庫に繋がる階段の前で足を止める。


「さーて」


 ここからが本番だ。

 実はララテラは最初にソルシアからメテオの話を聞いたとき、高確率で現実になると読んだ。

 ソルシアは直近で二回、予知夢を外していた。

 確率で言えば、次はきてもおかしくはなかった。

 ではなぜ、協力しなかったか?

 メテオに落ちてもらった方が好都合だったからだ。

 混乱に乗じて宝物庫の魔道具を根こそぎ頂けるチャンスと企んだ。

 最大の難関は、アリューゼ直属の部下が二人で見張っていること。


 両者とも一級品の魔道具を複数身につけている。

 それでも一対一ならば、ララテラは負けないだろう。

 だがさすがに二人相手では、まともにやれば殺される。

 よって、奇襲で一人を素早く仕留める必要があった。

 普段なら油断の少ない精鋭も、何百年に一度の異変なら隙もできる。

 ナイフを隠し持ち、ララテラは急いで階段を駆け下りる。


「大変よ! メテオが降ってき――――」


 言葉が途切れる。

 宝物庫の前に、誰もいない。

 おかしい。

 さすがにメテオで駆り出されたか?


「なんでもいい。これは願ってもないチャンスだ」


 宝物庫の鍵は頑強だが、ララテラは解錠の魔道具を有している。

 どんな鍵もこれの前では意味を成さない。

 中に入ると、ララテラは満面の笑みを浮かべる。

 宝石なんかの何百倍も価値のある魔道具が山のようにあるからだ。

 だがボケッとはせずに、すぐに麻袋の中にそれらを入れていく。

 これもまた魔道具で、収納の力がある。

 大量の物質を入れても袋のサイズが変わらないのだ。

 空になった宝物庫を見渡し、満足して振り向くと、喉元に剣が突きつけられる。


「くっくっ。盗人が現れるとは思っていたけど、よもや聖女隊の隊長とは驚きだわ」


 王妃イザンヌ、シャファル、五名の近衛兵たちだった。


「王妃殿下、あたしは王太子殿下に頼まれてここにいます。この剣を下げていただけますか?」

「ララテラ、お前はアリューゼという男を知らなすぎる。あの男が他人に、このようなことを頼むものか」


 下手な嘘は通じないようだ。

 ララテラは兵士との殺し合いを頭の中でシミュレーションする。

 スロウを使えば三人は数秒で殺せる。

 だが二人は範囲から逃れる後方にいるため、殺せても一人。

 そいつを殺す間に残った方に刺される。

 近衛兵は優秀なため、確実に急所を突くだろう。


「ソルシアに虚言癖があると私に報告したのも、これのためだったのね。悪知恵が働く」

「あたしを罪人として差し出しますか?」

「それは勿体ないわ」


 イザンヌが目で合図を出すと、兵士がララテラの手首に手錠をはめる。


「それは魔力を乱す魔道具。しばらくはお得意のスロウも上手く使えないわ」

「チッ。厚化粧のババアがっ!」

「アッハッハ! お前はずる賢くて強い。ゆっくりと魔道具で調教するとしよう。最強の兵士に魔道具。笑いが止まらないわ!」


 イザンヌはご機嫌だった。

 これらが揃えば、アリューゼが相手でも戦える。

 ララテラには布を被せ、城の外に用意していた馬車の荷台に隠すように乗せる。

 誰にも行き先など告げず、イザンヌは町を出立した。


「母上、これからどうするんですか? 明日には二発目が降ってくるんですよね」


 ドキドキが止まらないシャファルは震えながら話す。


「私の可愛いシャファル、大丈夫よ。落ち着いたら戻ってこればいいし、王国が壊滅するなら貴方が建国するの。この魔道具たちがあればなんとかなるわ」


 収納の麻袋をいやらしい手つきで撫でる。

 急に強気になったシャファルは、ララテラの頬をひっぱたきながら悪態をつく。


「お前は僕の最強の兵士にしてやる!」

「ハッ。能なしのエロバカ王子が。ソルシアだってお前など好いていなかった。ママのおっぱいでも吸ってろ」

「だっ、黙れえええ!」


 怒りにまかせてシャファルはララテラの顔面を何度も殴りつける。


「そのへんにしておきなさい。それでも大事な兵士になるのだから」

「はいママ……じゃなくて母上」


 シャファルは嬉しそうにイザンヌの隣に座った。

 

 翌日の午前、馬車は分かれ道についた。

 目的の隣国にいくためにはエトラ街道かリトラ山のどちらかを通る。

 大抵は街道を選ぶし、イザンヌもそう指示した。

 それに待ったをかけたのはララテラだ。


「街道はダメだ。三発目のメテオが落ちる」

「本当かしら?」

「この状況で嘘をつく理由がない。ソルシアからの確かな情報だ」


 イザンヌは黙考する。

 確かに、嘘をつく動機はない。

 ララテラの目に宿るは怒りと敵愾心。

 生き延びて、イザンヌやシャファルに復讐することを諦めていない。

 メテオとの自滅は選択しないだろう。


「リトラ山を通るわ」


 御者に指示を出す。

 数時間かけてリトラ山の麓に到着する。

 馬車はここまでになるだろう。 

 下りたとき、ララテラが口を開く。


「気になってたんだが、宝物庫の兵はお前らが殺したのか?」

「……いいえ。お前が殺して隠したのでは?」


 質問してからイザンヌは気づく。

 ララテラが殺したのなら、いまの質問はしないだろうと。

 まさか……!

 すぐに麻袋から魔道具を出そうとするが、遠方から爆音が聞こえてきて中断。


「二発目のメテオが降ったのね。お前、眼力魔法を使って確認しなさい」


 近衛兵の一人に、イザンヌは命令を出す。

 一日に一度、せいぜい一分程度しか使えないが、いまは役に立つだろう。

 兵士が目を閉じる。


「……大量のメテオの欠片が降り注いでいます。聖女の作った防御結界をいま、壊しました」

「誰がいるの?」

「ソルシア、テミラ、鎧の騎士……あれは王太子殿下が好んで着るものです」

「アリューゼが死んだのね!?」


 思ってもみない朗報にイザンヌの心が湧き躍る。


「それが、落ちてくるメテオの欠片を盾で防いで…………防ぎきりました……」


 ぬか喜びに、イザンヌは脱力する。


「おい、三発目がくる。街道の方を調べろ」


 ララテラの言葉を受け、兵士はそうしようとしたが、別なところが引っかかる。

 遙か上空のメテオを運良く捉えたのだが、街道の方ではない。


「――は?? メテオの位置は……真上から降ってきます!?」

「おのれララテラ、謀ったな!?」

「ちっ、違う! あたしは謀ってなどいない。本当に街道だと聞いたッ」


 メテオを観測中の兵士が腰を抜かす。


「うわっ、いくらなんでも速すぎる!?」


 メテオはおよそ秒速10キロで落下してくる。 

 そのため肉眼で捉えてから1、2秒ほどで地表に衝突する。

 空に光が煌いた瞬間、ララテラは空に腕を伸ばす。


「一か八か、あたしのスロウを使う!」

「おお!?」


 これには一同が期待を寄せる。

 希望の光だ。

 しかしララテラの顔が歪む。

 スロウが発動しない……手錠があるから。


「ちくしょうぉぉお! 手錠を外せえええええ!」

「うわあああ、死んじゃうよ! ママァアア――!?」

「私の野望が――誰かたすけてぇ――!」


 無慈悲なまでの速度でメテオは全員を押しつぶした。

 

  ☆ ☆ ☆

  

 メテオの翌日には、人々は町に戻ってきていた。

 城のテラスから下を眺めながら、アリューゼは物思いにふける。


「……全部すり替えたのは正解だったなぁ。我ながらいい判断だった」


 一発目のメテオの後、アリューゼは腹心のヴィンセンに頼み事をした。

 自分が村にいく間、地下宝物庫の前に兵士を置くなと。

 大抵、災害のときには盗人が大量発生する。

 その辺の宝石程度ならくれてやっても、王国の魔道具はおいそれと渡せない。

 だが精兵がいると知って襲ってくる輩だ。

 相手も相当な手練れ。

 そうなると大事な兵士が殺される可能性があった。


 そこで数日前、ソルシアに虚言癖がないと知ったとき、宝物庫の魔道具をすべて贋作に取り替えた。

 そうして、メテオが降ってきた際には兵を置かない選択肢を増やしておいたのだ。

 これで兵は怪我も負わず、盗人は贋作を取ってハイ残念と。

 当然、すべての魔道具はアリューゼが未だ保管している。


「やっぱイザンヌかなー」

「イザンヌ殿下が、どうされたのですか?」


 呼び寄せていたソルシアがようやく来てくれてアリューゼは喜ぶ。


「敬称はいらないよ。あいつは呼び捨てでいい」

「そうはいきません。それに、あの方の人を見る目は確かだと思います」

「それはない。君を嘘つき呼ばわりした女だぞ」

「ですから、見る目があるのです」


 ン? とアリューゼは首を傾げる。

 どういう意味かと尋ねてもソルシアは答えてくれない。

 謎は深まるばかりだ。

 ソルシアは遠い空を眺めながら、予知夢のことを思い出す。

 三発目のメテオは、予知夢ではリトラ山の麓に落ちた。

 そこにはララテラ、シャファル、イザンヌ、兵士がいた。


 この意味をソルシアはずっと考えていた。

 二発目と三発目の間は、時間差があまりない。

 つまり彼らは町を放り出して逃げていたということ。

 特に気になるのはララテラだ。

 あれほどに賢く、メテオの対策もできる彼女がどうして協力せずに逃げるのか。

 彼女は怖じ気づくタイプでもない。

 なにか不義理を働いたのではとソルシアは推測した。


 だから、ララテラには嘘を教えた。

 三発目はエトラ街道に落ちると。

 彼女が改心して戻ってくれば、そこで死ぬ未来は変わるはずだった。

 結果は残念としか言いようがないが。

 ソルシアの横顔に、アリューゼはどこか古い記憶を重ねる。


「父上は、亡くなった母上のことを愛していたんだ。だから崩御の後、心に隙間が生まれ、イザンヌはそこにつけ込んだ。あいつとは違って、母上は本物の王妃だった」

「素敵な御方だったのですね」

「君ほどじゃないよ」


 あはは、とアリューゼは笑って冗談風にする。

 わりと本音だったけれど。

 温風が二人の間を吹き抜けると、ソルシアが少し浮かない顔をする。


「魔道具の件、心配ですね……」

「あ~、なんとかなるさ」


 ソルシアは知らない。

 盗まれた魔道具はすべて偽物だったことを。


「どっちかっていうと、イザンヌとララテラが脅威かな。近衛兵はそこそこ強いし、ララテラと手を組まれたら厄介だ」

「あ~、大丈夫だと思いますよ」


 アリューゼは知らない。

 そこにシャファルも加え、三人ともすでにこの世にいないことを。

 

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― 新着の感想 ―
6500万年も昔、ユカタン半島に直径20kmの小惑星が落下して、恐竜の時代は終わった 落下するメテオ これを破壊する爆発魔法 まるで波動砲並みの超威力!
クソ三人がペシャンコになって実に爽快です!
主人公の予知の的中性 ・当たる ・外れる ・外れる ・メテオが来る事 ・1発目の落下位置 ・2発目の落下位置 ・3発目の落下位置 7回中5回当てる前提の主人公と、 死の間際に「ここ三連続で当てている…
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