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第5話:お嬢様、オアシスを作る(ついでに花も咲かす)

「リアナ様! あの、実は……リアナ様のその素晴らしいお力で、どうか、お願いしたいことがあるんです!」


 ティラが、期待に満ちたキラキラした瞳で、わたくしの手を両手でぎゅっと握りしめた。その熱意に、思わずたじろぐ。


(お、お願いですって? このわたくしに? いったい何を……? まさか、あの石ころパンをもっと美味しくしてほしいとか、そういう無茶な要求ではございませんでしょうね?)


 若干の警戒心を抱きつつ、わたくしは尋ねた。

「まあ、ティラ。わたくしにできることでしたら、お力になりますけれど……いったい、どのような?」


 するとティラは、待ってましたとばかりに、熱っぽく語り始めた。

「オアシスのことなんです! この辺りには昔、旅人たちの憩いの場となるような、小さな泉があったそうなんです。でも、わたくしが生まれるずっと前に枯れてしまって……。もし、リアナ様のあの、お水を出す(?)魔法があれば、もしかしたら、あの泉を復活させられるんじゃないかって、みんなで話していたんです!」


 オアシス!

 その言葉の響きに、わたくしの心は一気に色めき立った。


「まあ! オアシスですって!? なんて素敵な響きでしょう! ヤシの木の木陰で、冷たく冷やした甘い果物をいただくなんて……想像しただけで最高ですわ!」


 思わず、うっとりと目を細める。辺境に来てからというもの、甘いものに全くありつけていないのだ。オアシスができれば、きっと美味しい果物も……!


「ええ、ぜひ協力させてくださいまし! オアシス作り、わたくしにお任せあれ!」


 わたくしが、二つ返事で(主に食欲に突き動かされて)快諾しかけた、その時だった。


「馬鹿言ってんじゃねぇ、ティラ! そんな博打みたいな話に乗るな!」


 背後から、怒鳴り声が飛んできた。振り返ると、いつの間にかダリオが腕組みをして、苦虫を噛み潰したような顔で立っていた。あら、盗み聞きとは感心しませんわね。


「第一、こいつの魔法がまともに制御できるかどうかも分かんねぇんだぞ!?」ダリオはわたくしを指差しながら続ける。「前回だって、井戸がピカピカ光ったり、変な花が咲いたり、むちゃくちゃだったじゃねぇか! 今度は何が起こるか分かったもんじゃねぇ! 下手すりゃ、辺り一面水浸しどころか、大爆発でも起こして、全員お陀仏だぞ!」


(だ、大爆発!? そ、そんな物騒な! た、確かに、前回は少し…いえ、かなり派手でしたけれど……)


 ダリオの剣幕に、わたくしは少し不安になってきた。オアシスと美味しい果物は魅力的だが、命あっての物種だ。


「ダリオさんの言うことも分かります! でも!」ティラが一歩も引かずに言い返す。「水は私たちにとって本当に大切なんです! このままじゃ、いつか限界が来るかもしれない……リアナ様の力が、唯一の希望なんです!」


 ティラの必死な訴えに、わたくしの心も揺れる。そうだった。ここは、水が命綱の過酷な土地なのだ。わたくしの(よく分からないけれど凄いらしい)力が、本当に役に立つというのなら……。


「落ち着け、二人とも」そこへ、エルマ婆さんが静かに割って入った。「ダリオの懸念も、ティラの希望も、どちらももっともじゃ。……だが、水は我らにとって死活問題じゃ。このまま手をこまねいているわけにもいくまい」


 エルマ婆さんは、わたくしの方をじっと見据えると、言った。

「試してみる価値はあるかもしれん。……ただし!」

 その目が、厳しく光る。

「嬢ちゃんの魔法は、儂とダリオ、お前がしっかりと監視する。制御不能と見たら、儂が即座に止める。そして、決して一人では魔法を使わぬこと。これが条件じゃ。それでどうじゃ?」


 有無を言わさぬ、しかしどこか理に適った提案に、ダリオは「……チッ、勝手にしろよ」と不承不応ながらも頷いた。ティラは「ありがとうございます、エルマ様!」と嬉しそうだ。


 こうして、わたくし、ティラ、ダリオ、そしてエルマ婆さんという、なんとも奇妙な一行は、かつて泉があったという場所へ向かうことになった。


 道中は……まあ、推して知るべし、だ。

 照りつける太陽に、わたくしは早々に音を上げそうになった。

「あ、暑いですわ……。日傘はございませんの? わたくしのお肌が……」

「うるせぇ、我慢しろ! ここは王都の散歩道じゃねぇんだぞ!」とダリオに一喝される。

「リアナ様、これをどうぞ」とティラが水筒を差し出してくれ、エルマ婆さんが「これは『砂漠イモリの干物』のエキスじゃ。滋養があるぞ」と余計な情報を付け加えてくれる(……聞かなければよかった)。


 そんな珍道中を経て、一行はようやく目的地に到着した。

 そこは、乾ききった土がひび割れた、広大な窪地だった。かつてここに泉があったとは、到底信じられないほど、荒涼とした風景が広がっている。


「本当に……ここで水が湧きますのかしら……?」

 わたくしは、一抹の不安を覚えながら呟いた。


「案ずるな、嬢ちゃん」エルマ婆さんが、わたくしの隣に立つ。「お主の力は、お主が思うよりもずっと強大じゃ。問題は、それをどう制御するか……いいか、前回のように怒りや憎しみに任せてはならん。この地に潤いを、人々に安らぎを、という『願い』を込めるんじゃ。力を一気に放出するのではなく、ゆっくり、そう……上質な絹糸を、丁寧に、丁寧に紡ぐように……」


(絹糸……? 難しい注文ですわね……。わたくし、刺繍は得意ですけれど、魔法は初心者ですのよ?)


 とはいえ、やるしかない。わたくしは深呼吸すると、窪地の中央に向かって、両手をそっと突き出した。

(潤いを……皆さんの笑顔を……そして、冷たくて甘い、美味しい果物を……えいっ!)


 心の中で念じ、慎重に、そーっと力を込めてみる。すると……


 ドゴォォォォン!!!


「うわーーーっ!!?」


 やっぱりダメだった!

 凄まじい轟音と共に、足元の地面が割れ、巨大な水柱が天高く噴き上がった! 前回よりは……ほんの少しだけ、マシな気がしないでもないが、やはり派手すぎる! 水しぶきが雨のように降り注ぎ、あっという間に窪地が水で満たされていく!

 そして、お約束のように、水しぶきが落ちた場所から、色とりどりのファンシーな花々が、ぽぽぽぽぽっ!と勢いよく咲き乱れる! もう、見慣れた光景になりつつある。


「わーい! 水だー! 水が出たー!」

 ティラは、全身ずぶ濡れになるのも構わず、子供のようにはしゃぎながら、生まれたばかりの泉に駆け寄っていく。


 エルマ婆さんは、やれやれと首を振りながらも、どこか満足げに呟いた。

「ふむ……まあ、結果は上々じゃな。相変わらず加減というものを知らんが……及第点といったところか」


 一方、ダリオはというと……頭から水をかぶり、完全に呆れ果てた顔で、わたくしを見ていた。

「……チッ。だから言わんこっちゃねぇ……。まあ、水が出たんだから、今回は大目に見てやるよ。……ただし、この花畑はどうすんだ、おい」

 ぶっきらぼうな口調だが、その声には、ほんの少しだけ、感心しているような響きが混じっている……気がした。気のせいかもしれないけれど。


 自分の力が、今度は明確に「クランのため」に役立った。泉のほとりで歓声を上げるティラの姿を見て、わたくしの胸にも、じんわりとした温かい達成感が広がっていく。


(まあ! やりましたわ! これで美味しい果物も夢ではありませんわね! ああ、喉が渇きましたわ。この泉の水、飲んでも大丈夫かしら? それに、成功祝いに何かご馳走をいただきたいものですわ!)


 達成感と同時に、いつものように強烈な空腹感を覚えながら、わたくしは自分の成果(と、咲き乱れる謎の花々)を眺めた。


 ティラが嬉しそうに泉の水をすくい上げて飲み、エルマ婆さんとダリオが、今後の泉の管理や利用方法について真剣に話し合っている。その光景を見て、わたくしはふと思った。


(わたくしにも、ここで、何かできることがあるのかもしれませんわね……)


 追放され、全てを失ったと思っていたけれど。この辺境の地で、この不思議な力を使って、何かを変えることができるのかもしれない。


 そんな、ほんの少しの前向きな気持ちが芽生え始めた矢先、エルマ婆さんが、ポツリと意味深な言葉を漏らした。


「……とはいえ、これでクランの全員が、この泉と…お主のことを、素直に受け入れるかどうかは、また別の問題じゃがな」


 その言葉に、わたくしの胸に小さな不安の影がよぎる。どうやら、わたくしの辺境ライフは、まだまだ波乱万丈な日々が続きそうだ。


(第五話 了)

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