第85話 「覚悟はあるか?」
「お前ら! この大一番に手を抜いたりしたら許さねぇからな!」
大乱から閉鎖されていたテルモ基地の格納庫にて、メカニックであるバーナードの怒鳴り声が響き渡る。
一大作戦であるヘブンズフォールの詳細が各部隊に伝えられ、アーストン全土から兵力が集まってきていた。
来たる決戦に向けMTの改修・調整を行いたいと思うのはパイロットなら当然であり、それはデュラハン隊も同じである。
閉鎖されていたテルモ基地が開放されたのは、そんな事情があっての事だ。
「他のMTが待ってる! 急いで、だが丁寧にだ!」
歴戦のメカニックであるバーナードは所属外にも口出ししていくので、特に忙しく動き回っていた。
だが集中していた為に背後に近づいていた人影に気付く事は無かった。
「バーナード」
「何だこの忙しい時にって、何だ小僧か」
「随分な挨拶だな。こっちだって無理に時間を作ってるっていうのに」
呆れたようにため息を吐くユーリであったが、バーナードは気にした様子もなく他のメカニックに声をかける。
「おい! 少し離れるがサボるんじゃなぇぞ!」
威勢のよい返事が格納庫内を包むと、バーナードは満足して外へ歩き始める。
そして振り向かず後を追いかけて来たユーリと話し始めた。
「突撃部隊に選抜されたんだってな」
「そう伝達が来たよ。光栄な事で」
「はっ! 思っても無い事を言うんじゃねぇよ」
「バレたか」
ミサイルの都合上、アヴァロンに突入できるのは三十機が限界。
アーストン中のMTパイロットから選ばれたのだから、実際名誉な事ではあったのだろう。
しかしユーリは全く気にした様子もなく、少なくとも見た目は普段通りであった。
「まあ、軽口が叩けるなら心配は要らなさそうだ」
「ジークフリートは完璧に仕上がってるか?」
「当たり前だ、抜かりはねぇ。嬢ちゃんたちのも急ピッチで仕上げてる最中さ」
バーナードは懐から端末を取り出し、ユーリに投げつける。
落としそうになりながらも受け取り中身を確認すると、ジークフリートとクリームヒルトの強化装備に関する資料だった。
「ジークフリートは馬力を中心に改造、クリームヒルトはそれぞれの適正に合わせた広範囲殲滅兵器を装備したフルアーマーだ」
「随分と豪華だな」
「なぁに、今回は上からドンドン予算が下りてくるからな。後で嬢ちゃんたちにも見せておいてくれ」
これは別段デュラハン隊が特例という訳ではない。
未曾有の危機に対して非常用の予算がおり、どの部隊にも可能な限りの希望が通っていた。
「助かる」
「儂は出来る事をしてるだけだ。メカニックは戦闘中やれる事は限られるからな」
珍しく自虐的に吐き捨てたバーナードに、ユーリは何も答える事無く後ろを着いていく。
しばらく黙り込む二人であったが、どんどん人気が少ない区画に歩いていくためユーリも流石に気になり始める。
「どこまで行くんだ?」
「ジークフリートの所までさ」
「こんな人目を避けるようにか?」
「無論訳アリだ。もうちょっとで着くから少しだけ待ってくれ」
その言葉を信じて背中を追いかけていくと、ひっそりと場所に地下へと続く階段があった。
「この先だ」
躊躇なく降りていくバーナードにつづくユーリ。
やがて薄暗い通路にたどり着き、先へと再び歩き始める二人。
するとさっきまで黙っていたバーナードが、説明をしだす。
「ここは一般には出せない実験をするための場所だ。二年前の巨大MTもアイギスもここで生まれた」
「……まあ興味は無いから深くは突っ込まないが、俺を連れてきて良かったのか?」
「良くは無いが無理を押し通した。お前さんにも関係のある事だからな」
そのまま歩くこと十数分。
ようやくバーナードが立ち止まった目の前には、厳重な扉が待ち構えていた。
「さて。ここまでもったいぶったが、要はジークフリートのリミッターを外すための仕掛けを施してる訳だ」
「リミッター?」
ユーリが聞き直すが、バーナードはまだ振り向かず説明を開始する。
「ジークフリートは元々高性能すぎて封印されていたMTだ。それを掘り起こして制限をかけたのが今の姿さ」
「一応聞くが、外しても扱えるのか?」
「いや。Gの方はともかく、速すぎて処理が追い付かないだろうな。人間じゃまず無理だ」
「人間やめろって? 流石に冗談キツイと思うが?」
「察しがいいじゃないか小僧。いや、ユーリ」
初めて自分の名前を呼んだ事に驚くユーリに、ようやく顔を向けるバーナード。
その表情は真剣そのもので、冗談を言うようには全く見えない。
彼の覚悟を決めた顔は、ユーリの脳裏に刻まれたのであった。
「お前。人間をやめる覚悟はあるか?」
1月も中旬となりましたが、皆さんお元気ですか?
受験生は追い込みのシーズンだと思いますので、適度な休憩を入れながら頑張ってください!
では皆様、次の更新にてお会いしましょう




