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幕間 その旅立ちに祝福を

 ―それはテルモでの戦闘が終わった三日後の事


 エリンにある小さな店のバーテンダーは、人がいない事を理由に呑気にタバコを吸っていた。

 来客を知らせるベルが鳴っても態度は変わらなかったが、来たのが知人の女である事に気づきタバコを仕舞う。


「久しいね。また随分と派手にやられたもんだな」

「ふふっ、いい女になったかしら」


 以前には無かった額の包帯。

 人によっては触れたくない話題であるにも関わらず、女は自慢するかのように振舞っている。

 その事にバーテンダーは疑問に思いつつも、カウンターに座った女にとりあえず水を出す。


「エルモ基地の事は聞いたぜ。大立ち回りだったみたいだな」

「流石は情報屋ね」

「そっちが本業だからな。で? 今日は何しに来たんだ?」

「残念だけど欲しいのは情報じゃなくてお酒なの。おススメをまずは頂戴」

「ああ、そっち。時々ここがバーだって事を忘れちまう」


 人が来ない事を愚痴りながらもバーテンダーは、さっとスクリュードライバーを作って女の前に置く。

 女はグラスを持つと一口を味わうように、ゆっくりと飲み干していく。


「……なあ。あんた少し変わったか?」

「どうしてそう思うの?」

「前はもっとガバガバ飲んでただろ。それに雰囲気も柔らかいし」


 バーテンダーと女が会話するのはこれで二度目。

 だが以前との違いはハッキリとしていて、正直別人と疑う程であった。

 女はグラスのカクテルを回しながら、思い出に浸るように語り始める。


「今まで酔えればどんなお酒も一緒だと思ってたし、味わうだけの余裕なんて無かった」

「今は違うって?」

「憑き物が取れるって言うのかしら。あの時から世界が違ったように見えるの」

「よく分からねぇな」


 そう言いながら今度はモヒートを作り始めたバーテンダー。

 シェイカーを振る音だけが小さな店に響く中、女はポツリと言葉を漏らす。


「傭兵は廃業する」

「……そうかい」


 内心驚きつつも、致し方ない事だろうと情報屋としての予想を立てる。

 理由はどうあれ依頼主に真っ向から歯向かったのだ。

 今後の仕事にも影響が出るだろう。

 グラスに注がれたモヒートを口に含んだ女は、意思をしっかりと持った目で言葉を重ねていく。


「自分でやった事だし後悔はない。決着がついた以上、未練もないしね」

「愛しの彼は知っているのか? それ?」

「生きてるのも知らないと思う。今後も会う事はないでしょうけど」

「いいのかい? 相当執着してたのに」

「ええ。満足な勝負をして燃え尽きた。それだけで十分」


 ここでバーテンダーは自身の勘違いに気づく。

 女が傭兵を辞めるのは仕方なくだと思っていたが、実際は女が傭兵に価値を見出さなくなったからなのだと。


「……これからどうする気なんだい?」

「随分と今日は聞いてくるのね。お客に嫌がられるんじゃない?」

「人は見ますよ。それにこれが最後にあんたの事を覚えていきたくてね。一人ぐらいそんな奴がいてもいいんじゃないです?」

「そうね」


 女はモヒートを飲み干すと、天井を見上げながらこれからの事を語り始めた。


「まずはガスアに帰ろうかと思う。捨てておいて何だけど、家族がどうなったのかが知りたくてね。それから旅するのもいいかもね」

「まあ自由にすればいいさ。あんたの人生なんだからな」


 バーテンダーはそう言うと、鮮やかな色をしたカクテルをそっと差し出す。


「これは?」

「バルーションというカクテルだ。旅立ちという言葉が込められてるんだと」

「……そう」

「いい客人だったあんたの新しい人生に」


 差し出されたカクテルをゆっくりと飲み干すと、女は金を払って去っていった。


 その後、女がどうなったのかバーテンダーは知らない。

 噂では恨みを買って死んだ、傭兵に戻ったなどと言われてるらしい。

 だが信用できる筋からは、様々な所で孤児院を立てていると聞かされた。


「元気で生きてるなら、それでいいがな」


 バーテンダーはそう結論づけると、今日も来ない客を待ちながらタバコを吸うのであった。

とあるバーテンダーと女のエピソードでした。

それ以上でもそれ以下でもありません。


次回はアイシャがメインのお話です。

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