第77話 得られたもの
―新西暦五十六年 十二月中旬
大乱の爪痕が色濃く残るテルモ基地であったが、王都エリンは特に被害を受けてはおらず、迫るクリスマスや新年を期待する声があちこちで聞こえる。
「……」
そんな中、事の中心となったユーリたちは軍の留置場に入れられて一週間になろうとしていた。
「暇だ」
檻に入れられたこと自体に文句は無いが、何もやる事がなく時間を潰すだけの日々に嫌気が募るユーリ。
暇を持て余すだけの彼の耳に、向かってくる足音が聞こえ姿を見る前にユーリは声をかける。
「罪を伝えるだけの為にわざわざ来るなんて、暇なんですか少将」
「ふっ。相変わらずのようで何よりだユーリ」
笑いながら現れたスコットは、手にしていた鍵を使って檻を開けた。
「もう出ていいぞ。罪は問われない事になった」
「……随分とこっちに都合のいい話で」
「一般にはあの事件は伝わってない。ただいつもより騒がしかったというだけだ」
「だから無かった事にしようって? 如何にも政治って感じだな」
暴言に近い言葉を聞いて苦笑を返すしかないスコット。
ユーリとしても困らせる気はないので、一度大きなため息を吐くと素直に鉄格子から出てきた。
「他は?」
「既に全員釈放している。お前で最後になる」
そのまま外へ歩き出した二人は、今回の事件の顛末について話し合う。
「今回の一件で内部の過激派は一掃された。帝国との交渉もやりやすくなるだろう」
「まだしばらくは休戦が続くのか」
「ああ。向こうもバンデルとの傷が癒えていないからな。いたずらに戦争を起こす真似はしないだろう」
「あの姫様はどんな反応をしたんだろうな」
直接名前を言わなかったが、スコット誰の事がハッキリと分かった。
「実はな。休戦を王に進めたのはイレーナ元王女だ」
「へぇ」
「最初過激派は彼女を取り込む気だったらしいが、平和路線を主張するのを見て止めたらしい」
自身の復讐心を抑え、大勢の人々の平和を維持するよう動いたイレーナ。
彼女なりに動いている事を知り、護衛した甲斐を感じたユーリだった。
「……で、カーミラはどうなった」
一週間の間で最も気にしていた事を尋ねるユーリ。
半壊のMTで暴れまわったのは聞いているが、その後の足取りは分かっていない。
「情けない話だが、こちらにも碌に情報を得られなかった。基地から少し離れたところにジークフリートを乗り捨てた事を除けば、生死も不明だ」
もたらされた情報に、ユーリはさほど驚かなかった。
探してる理由としても、生きていたら礼を一つぐらい言いたい。
そんな軽いものである。
「人手を増やせば流石に探せると思うが」
「いや、いいよ。消えたって事は姿を現す気がないって事だろうしな」
しばらく話をしていた二人だが、ようやく外へ続く扉が見えて来た。
「こっちでしばらく用がある」
「そうか。じゃあこっちは久しぶりの太陽でも浴びるとするよ」
スコットは立ち止まり、外へと出ようとするユーリの背中を見送っていた。
「ユーリ。済まなかったな」
「? 何がだ?」
突然謝ってきた真意が分からず、不思議そうにするユーリ。
一方でスコットは罪を懺悔するかのような表情で語り始める。
「本来なら手を借りずに終わらせるつもりだった。しかし力が足りないばかりに騒動の火種となってしまった。……情けない話だ」
俯き肩を震わせるスコットに、ユーリはため息を吐いて呆れたように口を開く。
「何を今更。最初に力を借りに来た時点で十分情けないですよ」
「……厳しい事を言ってくれる」
「まあ俺も今回の一件で気づけた事があるんでね。あんまり気にしない方がいい」
「気づけた事?」
ユーリはフッと笑うと、若干照れたように答える。
「たまには誰かの為に生きるって言うのも悪くない。ってね」
スコットが何か言う前に、ユーリはさっさと外へと出て行った。
窓から覗いてみれば、アイシャたちデュラハン隊やカゲロウのクルーたちに出迎えられた姿がよく見えた。
「……あいつも成長していっているのだな」
万感の思いを込めて呟いたスコットは、踵を返し仕事へと戻っていく。
―新西暦五十七年 一月初旬
カゲロウは再びユーリ達を乗せ、軍務へと向かうのであった。
これにて七章完結です!
今後の予定としては幾つか幕間を書いてから八章となります
できれば最後までお見逃しのないよう、お願いします!




