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第75話 暴君狩り

「一機増えた程度で! 調子に乗るな!」


 右腕が破壊されても、ジェイソンは自身の勝利を疑わない。

 機銃を乱射するのは変わらないが、加えて左腕からの砲撃が襲い掛かる。

 爆炎が基地を焼く中で、ユーリたちは一度射程外まで引く。


「何はともあれ三人とも無事で何よりだな」

「隊長。あれのパイロットは」

「言うなエルザ。声ですぐ分かった」


 エルザが言い終わる前に心底嫌そうな顔をしながらため息を吐くユーリ。

 しかしすぐさま表情を引き締めると、モニター越しの三人を見渡す。


「それはともかく。残る輸送機はここで最後だ。さっさと終わらせよう」

「でも隊長。この戦力じゃ」


 気弱な言葉を言いかけるミーヤ。

 確かに弾薬・エーテル共に消耗した四機では、あの巨大な暴君相手では心持たない。

 しかしユーリは、それがどうしたと言わんばかりに気楽に話す。


「安心しろ。不利な状況から生き残るのは得意だ。安心しろ」

「……はい!」


 先ほどの不安げな声とは一転して、希望に満ちた返事を返すミーヤ。


「で? 実際あんな化け物級なMTを、どうするんですか隊長」


 アイシャが具体的なプランを尋ねると、ユーリはアイギスに問いかける。


「アイギス。何かいい案はあるか?」

【どれだけ巨大であろうと、基本的な構造は変わらないはず。ならばエーテル貯蔵部を狙うべきかと。これまでの戦闘データを見せてもらえれば、正確な位置を特定できます】

「分かった」


 アイギスの言葉を聞いて、エルザが戦闘データを送り始める。

 その間に狙われたら危機であるが、ジェイソンは熱くなっている為か弾丸をまき散らすのみで碌に動こうともしない。


【判明しました。右胸部のやや上。そこがエーテル貯蔵部です】

「よし。ここを一直線で狙うって事でいいな。ミーヤとエルザは後方から援護を頼む。アイシャ、ついてこれるな」

「勿論。むしろ隊長を置いて行ってやりますから」


 アイシャに笑みを返したユーリは、改めて標的を視界にとらえる。

 ようやくユーリたちの動きに気づいたグッドマンも、四人に向けてタイラントの脚を動かす。

 様々な思いが頭の中を巡る中で、ユーリは静かに突撃を指示した。


「デュラハン隊……突撃!」

「「「了解!!」」」


 指示と共に飛び出すユーリ機とアイシャ機。

 迫ってきる二機を前に、グッドマンは怒りを露わにして吠える。


「証拠にもなく! この愚者どもがぁ!」


 同時にタイラントの背中に収納されていたミサイルを、全弾撃ち尽くすジェイソン。

 その数は三十を超えており、まともに食らえば大破は間違いないだろう。


「皆はやらせないから!」


 だが迫るミサイルを前に、ミーヤはガトリング砲を撃ち始める。

 快晴の空がミサイルの赤い爆炎に彩られる中、三機はタイラントの眼前まで迫った。


「このぉ!」

「叩く」


 アイシャが大きくナギナタを振るい、エルザがバヨネットで装甲を削っていく。


「このっ! うっとうしい!」


 タイラントの左腕が射出され、無防備な状態の二機に襲い掛かる。

 ―だが


「そう簡単にやらせるかよ!」


 反撃が来るのを待ち構えていたユーリが、左腕に付けられていたワイヤーをエーテル刃で焼き切る。

 コントロールを失った左腕は、当然の如く地面に叩きつけられるのであった。


「くそっ! こんな、こんな道理も分からないバカたちに!」


 癇癪を起し始めるジェイソンの言葉を聞き、ユーリは静かに反論する。


「あんたがどんな思想を持っていようが、俺には関係ない。だが力で主張を押し付けようとした時点で、あんたの思想は死んでいる」

「黙れ! 分かったような口を叩くな! 私は歴史に残る英雄となるのだ!」


 激怒しながらジェイソンは、機銃での迎撃を試みる。

 だが接近を許したいま、両腕を無くしたのは痛手であった。


「これで!」

「最後!」


 力強く二機が振るった一撃によって、厚かった装甲がついに剝がされた。

 むき出しになったエーテル貯蔵部にトドメを刺す為に、ジークフリートが接近する。


「もう夢から覚めろ! ジェイソン・グッドマン!」


 サーベルが貯蔵部に突き立てられ、爆発が起ころうとする中でジェイソンは呆然としながら口にする。


「私の……何が間違っていたんだ」


 その問いに答える者がいる訳もなく、暴君と名を付けられたMTと運命を共にするのであった。

 一際大きな爆炎を見下ろしながら、ユーリは誰にも聞こえないような声で呟く。


「英雄なんて、好き好んでなるものじゃないんだよ」

これにてタイラント戦も終了となりました。

次回はこの事件の結末が語られます。

是非最後までご覧ください!

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