第72話 白と黒の終幕
【射線。直撃コース】
「躱す!」
空を裂いてコックピットに向かってくる弾丸を辛うじて躱してみせたユーリは、無茶な回避行動によって生じた衝撃に歯を食いしばりながらアクロバティックな体勢のまま射撃を行う。
常人ならば外れるであろうエーテルの閃光は、カーミラ機のコックピットへ吸い込まれていく。
「その程度で!」
しかしカーミラは光速で迫る攻撃をバルムンクにて切り払う。
そのままユーリが態勢を崩している間に射撃を再開しようとするが、すでに立て直したのを見て中止する。
このような一進一退の攻防が、何度ともなく繰り返されていた。
いつしか二人の戦闘に巻き込まれまいと、乱戦中にも関わらず敵も味方も遠巻きとなってしまっていた。
「……アイギス。戦況はどうなっている」
【過激派が大型MTを投入。三人が迎撃中との事ですが、状況は芳しくない模様】
「あんまり悠長にもしてられない、か」
報告を聞いたユーリは、自らを落ち着かせるように大きく深呼吸。
まずは目の前の強敵を倒すべく集中しなおす。
「よし。行くか」
ユーリはバルムンクを上段に構えると、バーニアとスラスターを全開にして青空を裂くように切り込む。
一般の乗り手ならば気絶してしまう程の凄まじい重力が襲い掛かるが、最新のシステムもあり何とか耐える。
それほどのスピードで迫る刀身を、カーミラは同じくバルムンクで迎え撃つ。
ユーリ機による渾身の突きを、カーミラ機のバルムンクが盾となり防ぐ。
強烈な衝撃音が戦場に響いたのち白と黒、二色のジークフリートによる鍔迫り合いとなった。
「随分と乱暴ね。女性には優しくって教わらなった?」
「生憎そんな事を教えてくれる人は居なかったからな。それに思ってもない事を言うもんじゃ無いぞ」
「それはそう、ね!」
カーミラは装備されていたサーベルを引き抜くと、刃を形成し切りかかる。
「ちっ!」
回避は不可能と素早く判断したユーリもサーベルを逆手で引き抜き受け止める。
両者ともバルムンクとサーベルによって両腕が塞がれしまい、完全な膠着状態となった。
「さて。ここからどうやって勝つかな」
【両機ともパワーもスピードも同じスペック。パイロットの技量も互角ならば、決着をつけるのは難しいかと】
「そこを何とかして見せるんだよ!」
ユーリはカーミラ機に蹴りを入れると、一度大きく距離を置く。
睨みあいの状況となる二機であったが、突如カーミラが通信を送る。
「やっぱり楽しいわね、あなたとの戦い。……このまま時が止まればと思ってしまう程には」
「随分と怖い事を言ってくれるな。生憎と俺はさっさと終わらせたい」
「残念ね。けど確かに一瞬だからこそ綺麗な物もあるからね」
カーミラは軽く笑うと、バルムンクを正眼に構える。
黒いジークフリートからあふれ出す闘気は、今までの比では無い。
「次で、終わらせましょう。ユーリ・アカバ」
「……ああ。終わらせよう。カーミラ・ウォン」
カーミラに答えるように、白いジークフリートもバルムンクを下段に構える。
銃撃音や爆音が鳴り響く中、二機の間合いだけまるで凪のように静か。
張り詰めた糸の如く、いつ切れても可笑しくない緊張感が包み込む。
呼吸すら躊躇われる中、先に動いたのはカーミラだった。
「はあぁぁ!!」
気迫の籠った声を上げながら、カーミラはただ真っすぐに突撃。
後先は考えない。
相打ちすら厭わない突進は、先ほどのユーリよりもスピードが乗っているように見えた。
【ユーリ!】
「……」
アイギスが思わず警告するが、ユーリは返事を言葉にしない。
ひたすらに迎え撃つ事に集中し研ぎ澄ます。
「……今!」
ユーリは叫ぶと、バルムンクを大きく振り上げる。
こちらも後先は考えずに、一撃に全てを懸けていた。
一瞬の間に黒と白のジークフリートが交差し、二人の決着がつく。
「勝負がついたわね」
ユーリ機の右腕が火花を上げ、マニピュレーターが大地へと吸い込まれていく。
バルムンクを左腕で持ちながら、ユーリはカーミラに振り返る。
「ああ。俺の勝ちだ、カーミラ」
そこには左腕と下半身が切り裂かれた黒いジークフリートが佇んでいた。
「ええ。……終わってしまったわね」
先ほどまでの闘気が嘘のように消えたカーミラの声は、負けた事よりもこの一時を惜しむように聞こえた。
ついにカーミラとの決着がついてしまいました。
個人的に気に入っているキャラなので、このエピソードは少し書くのが大変でした。
今後彼女がどうなるかはお楽しみに!




