表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/87

第71話 ある女の話

 ―ある女の話をしよう


 女はガスア帝国の重責を担う男、その長女であった。

 いわゆる良家として生まれた訳だが、女は特に恵まれた境遇だったと言えるだろう。

 両親は優しく、兄弟たちと共にすくすくと育つ。

 戦争が各地で起こっているような世界で、金にも不自由しなかった。


 ―だが女の心は満たされる事は無かった


 女は常に虚無感を覚えていた。

 いつ芽生えたかも定かでは無いが、心に空いた穴は女を孤独感で埋め尽くした。

 社交界に身を投じている時も、気の知れた友人と居る時も、家族と共に過ごす時もである。


 ―そして女は全てを捨てる決心をした


 女が十五歳の誕生日を迎えた時、溜まっていた衝動に身を任せた。

 家族に別れの手紙を書き記すと僅かな荷物のみを持ち、誰にも行く先を告げずに去っていった。

 その後、家族がどうなったのか女は知らない。

 知らべる事も出来たが、権利すら無いと自らに言い聞かせて。


 ―女はただ突き進んだ


 世間を知らずにいた女が、一人で生きていくには厳しい世界であった。

 騙される事も多々あった。

 不本意な仕事も山の如くしてきた。

 時には手荷物として離さなかった思い出の宝石も売りながら、女は各地を転々としながら生きてきた。


 ―自らの才能に女は気づいた


 女がMTに初めて操縦したのは、家を離れて二年後のこと。

 とある研究機関による非合法な実験に参加した事が理由であった。

 実験の最中、類まれなる操縦センスを自覚した女は研究機関を破壊。

 そのままMTを強奪し、自らの道を傭兵として定める。


 ―女は何かを掴みかけていた


 そこから女はMTと共に様々な戦場に姿を現した。

 やがて傭兵の中で有名となり、二つ名として血濡れと呼ばれるようになる。

 だが女は何かが足りないと感じていた。

 戦場に出る事によって虚無感は徐々に薄れていき、強い相手と戦い生死の境を彷徨った事もある。

 しかしまだ足りない。

 自分が何を求めているのか?

 そこからは足りない何かを探し求める日々であった。


 ―その日、女は運命に出会った


 女が傭兵となり八年の歳月が経っていた。

 とあるテロ団体からの依頼を引き受けた女は、初めは後悔した。

 空言ばかりで中身の無いトップに、それを妄信する配下たち。

 勝ち目が無い事すら理解してない集団に嫌気を覚えた彼女は、少し暴れて逃げる事すら決意していた。

 だがその日、白きMTに負けた事で女の価値観は変わる。

 そのMTのパイロットを調べ上げ、また出会う事を心待ちするようになった。

 願いは叶い敵として、時には共闘をしながらも、なぜ執着するかは自分でも理解しきれていなかった。


 ―女はついに理解した


 そして今、女は不本意な状況ながらも白きMTとの決着をつけようとしている。

 大国であるアーストンが造り上げた最新鋭機による高速戦闘は、乱戦の中でも舞台の主役の如く輝いていた。

 戦闘の最中、女は不意に理解した。


(……ああ、そうか。私は燃え尽きたかったんだ)


 女が得たかったもの。

 自らを高め、その上で鎬を削るような戦いをする事。

 勝敗は関係ない。

 ただ一瞬。

 ほんの一瞬の為に生きてきたと自覚した時、女はただ笑った。

 獲物を狙う獰猛な笑みではなく、むしろ愛おしささえ伺える笑みである。


「ありがとう」


 どうして礼を言ったのか?

 女にも実のところは分からなかった。

 出会えた事に関してか、それとも付き合ってくれている事に関してか。

 ただ言わなければいけない。

 それだけは確かであった。


(この戦いで燃え尽きる! どうなっても知るものか!)


 ……女の人生が幸福であるかどうか、それを語る術はおそらく無い。

 ただ言える事はただ一つ。

 いまこの世界において、最も幸福を感じていたのは


 ―カーミラ・ウォンであった

今回はカーミラに焦点を当てたエピソードとなりました。

それに加え普段の書き方とは違うタッチでしたが、如何ですか?

ユーリとカーミラの決着の時は近いので、是非今後も見てくださいね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ