第69話 立ちふさがる黒き竜殺し
「まあ久しぶりと言うほど日にちは経っていないのだけどね」
カーミラは乾いた笑みを浮かべつつも、実体剣であるバルムンクを何時でも振るえるように構えている。
ユーリ機とは違い黒と赤を中心にカラーリングされたジークフリートは、見た者を威圧させる迫力を感じさせた。
「大体の予想は付くがカーミラ。何でここに居る」
「ホウライでの報酬を受け取りに来たら巻き込まれてね。はぁ、全く。嫌な仕事を引き受けちゃったわ」
「意外だな。てっきりMTをもらえてご満悦かと」
「あなた私を戦闘狂と勘違いしてない? 仕事は選ぶ方よ」
乱戦の状況下とは思えないほど穏やかな会話。
だが二人とも何時でも動けるように互いの挙動を見逃さまいと必死であった。
そんな中、アイシャが接触通信でユーリに打診をする。
「隊長。ここは任せて先に」
「駄目だ」
「っ! どうして!」
即答で却下されたアイシャは食い下がるが、ユーリは淡々と理由を突き付ける。
「お前の実力だと、まだアイツには勝てない」
「そんな事……」
完全に否定する事が出来ないアイシャ。
ユーリと互角に戦える実力の持ち主に、完全に勝てると言えるまでの自信が彼女には無かった。
「それにカーミラは俺と決着をつけたいらしいしな。お前ら三人で基地に突入してくれ」
「……必ず来てくださいね」
アイシャはそう言い残すと、ミーヤとエルザと共に基地へと突入を試みる。
横を堂々と通り過ぎていく三機を、カーミラはだだ見逃した。
「随分素直に通したな。威嚇の一発ぐらいは考えていたんだが」
「してたら隙を狙って撃ってたでしょ? あなた相手に一瞬でも気は抜けない。……それに」
先ほどまで憂鬱気であったカーミラの表情が一変した。
獲物を狙う肉食獣のような、殺気を隠そうともしない獰猛さを感じさせる笑みであった。
「決着をつけるには相応しい舞台だからかもね。血が滾って仕方がないのよ」
「はっ、それで戦闘狂じゃないだなんて。よく言えたな」
【人の事は言えない顔をしてますよユーリ】
つられて笑みを返すユーリに対して突っ込むアイギス。
会話が聞こえていたのか、カーミラは獰猛さを少し抑えた笑みを浮かべ会話を楽しむ。
「ああ噂のAIちゃんね。これだと二対一という事になるのかしら」
「……何故知ってるのかは追及する気はないが、今更卑怯だなんて言う気はないよな」
「まさか。ただ楽しくなりそうねってだけ」
「そうか」
このタイミングで、ユーリは大きく深呼吸を一つ。
操縦桿を強く握ると、目を見開いて決着の開始を告げる。
「じゃあ、やるか」
「そうこなくちゃ、ね!」
先に動いたのはカーミラ。
黒い弾丸のように青空を引き裂きながら、バルムンクを構えユーリに急速に迫る。
対するユーリは引くことなくむしろ突撃するようにバーニアを吹かせ、ライフルを撃ちながら迎え撃つ。
高速で交差する二機は、互いに急激にターン。
動きを止める事無く、何度も攻防を繰り返す。
「アイギス! 対慣性システムを最大!」
【了解。システムを最大まで起動します】
アイギスに指示を飛ばしながら、ユーリはひたすらにカーミラの命を狩りに行く。
「いい! ユーリ・アカバ! やっぱりアナタはいい!」
それはカーミラも同じで、底冷えすような笑みを浮かべながら好敵手との戦いを心から喜んでいた。
だがこの場に割って入る機影が三つあった。
「傭兵に気を取られている! この隙に奴を仕留めろ!」
【ユーリ! 五時の方向!】
「ちっ! 邪魔だな!」
アイギスが警告すると、思わずユーリは舌打ちをする。
カーミラとの攻防をしながら迫る敵を倒すのは難しい。
どうするべきかユーリが悩んだ、その一瞬であった。
「がぁ!?」
突如カーミラが味方であるはずの機体を撃ち抜いたのだ。
「き、貴様! 血迷ったか!」
怒りをそのままに標的をカーミラへと変える過激派。
二機のMTがサブマシンガンで弾をばら撒くが、カーミラは急激なスピードで距離を詰めるとバルムンクで両機ごと薙ぎ払った。
両断された機体が大地へと吸い込まれる中、黒いジークフリートは何事も無かったようにユーリへと向き直る。
「やらかしたなカーミラ」
「別にいいわ。あなたとの戦いは誰にも邪魔させない」
「ったく。やっかいな女に目を付けられたもんだ!」
悪態を吐きながらもカーミラに負けないほどの笑みを浮かべるユーリ。
白と黒のジークフリートは、しばらく睨みあった後に再び閃光となって空を舞う。
―血濡れのカーミラとの最後の戦いは、始まったばかりであった。
ついに始まるカーミラとの最終決戦
どのような結末となるのか、是非皆さんの目でご確認ください
※コメントお待ちしております!




