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第68話 燎原之火の如く

「状況はどうなっている」


 テルモ基地の司令部。

 指揮を任された過激派の将校は淡々と部下に状況を確認した。


「現在各部隊が迎撃のために出撃しています。敵はたかだMT四機と小型戦艦一隻。すぐに片が付くでしょう」

「ふん。未来を考量できない愚か者共め。……早めに終わらせて次の爆撃機を準備させろ」

「はっ!」


 興味は無いとばかりに早々に話を切り上げる将校。


 ―だが彼は知らない。

 この騒動がまだ始まったばかりだと言う事を。


・・・・・・・・・・・


「このぉ! 邪魔!」


 続々と迫りくる防衛部隊を前に、デュラハン隊はただ真っすぐに突き進んでいた。

 先陣を切るユーリの後を、アイシャたちも包囲を崩しながら追いかける。


「!!」


 ナギナタを振るいMTを豪快に薙ぎ払っていくアイシャ機。

 だが右から接近して機影を見つけると、ショットガンを取り出し引き金を引く。


「接近戦じゃなくたって!」


 散弾が発射され迫った機体は蜂の巣となった後、赤い炎となって爆散する。

 だが安堵する間もなく背後から隙を狙っていた機体がアイシャのクリームヒルトに接近。

 すぐさま迎撃しようとするが、間に合わない位置にまで接近を許していた。


「やらせない」


 しかしエルザ機が駆け付けると、バヨネットで切り刻んで撃破。

 その後も迫る敵機を牽制しながら、アイシャ機に背中を預ける。


「油断しないで」

「ごめん注意散漫だった」

「まあ無理もないけど」


 戦闘が始まって既にかなりの時間が経過しようとしているが、未だに基地内にも突入出来ていないのが現状であった。

 集中力も切れ始めており弾薬も心もとない。

 未だに誰も墜ちていないのが奇跡と言えただろう。


「隊長も頑張っているけど、そろそろ誰かが犠牲にでもならないとキツそうね」

「……カレリンもそのつもりみたい。さっきから残弾を気にせず撃ち始めてる」


 四機の中で一番の重火器を搭載しているミーヤ機は、確かに足止めに有効だろう。

 エルザの言う通り、肩に装備されているミサイルラックから全弾を撃ち尽くす勢いだ。

 アイシャは未だに近づいてくる敵機を迎撃しながら、エルザに話しかける。


「どうするつもり?」

「どうもこうも、カレリンがダメなら私が。私がダメならウェルズが足止めするだけ」

「まあ隊長が生きてれば何とかなる、か。あ~あ、もう少し生きたかったな」

「ご愁傷様。お互いこんな所で死ぬなんてね」

「エルザ! アイシャ! 次が来たよ!」


 ミーヤの知らせに、二人は会話を中断して基地の方角を確認する。

 そこには今まで戦ってきた総数と同じか、超えたMTがこちらに迫ってきていた。


「……カレリン。あなた、死ぬ覚悟は出来てるわね」

「うん。最後ぐらい名前で呼んで欲しかったな」

「ここが踏ん張り所ね。二人とも、覚悟を決めるわよ」


 三人が死を覚悟し突撃を決める中、事態は動いた。


「え?」


 思わず間抜けな声がミーヤの口からこぼれた。

 他の二人も、驚きで声が出ない。

 それもその筈。

 増援に来たと思われた大隊が、防衛部隊に攻撃を開始したのである。

 戦場が混沌とし、誰が敵か味方か分からないような乱戦が巻き起こった。


「アイシャ。これって一体?」

「私に聞かないでよ」

「待って。一機がこっちに来てる」


 エルザの言う通り、どこかの隊長機らしきMTがアイシャたちにゆっくりと接近くる。

 警戒を解かずに相手の出方を伺っていると、通信チャンネルを指定。

 仕方なく通信を繋げると、中年と思われる男の声が聞こえてきた。


「こちらテルモ基地防衛隊のリーだ。これより君たちを援護する」

「……それが何を意味してるか、分かってて言ってます?」

「当然だ」


 リーと名乗った男は何を今更と言わんばかりに嘆息すると、心の内を話す。


「正直に言えば今まで過激派の連中が恐ろしくて我々は動けなかった。だが君らの行動を見て、それがどれだけ愚かだったかと恥じた。もう我々は見て見ぬ振りはしない。共に戦おう」


 それだけ言うとリーのMTは離れていき、戦線に参加していく。

 しばらく機影を見つめていた三人であったが、やるべき事を思い出し動き出す。


「こうなった以上、隊長と合流して基地内を制圧した方がいいわね」

「そうだね。隊長の事だからもう突っ込んでるかも知れないけど」

「止まっている暇はない。すぐにでも」


 その時であった。

 三人より先に進んでいたはずの、ジークフリートが何かに弾き飛ばされたように現れたのは。


「っ!」

「隊長!?」


 突然現れたジークフリートに動揺を隠せない三人。

 ユーリはすぐさま態勢を整えると、飛ばされてきた方を向きながら愚痴る。


「まったく。とんだ隠し玉がいたもんだ」


 ユーリが見つめる先には、乱戦となっているこの状況でも一際目立つ機体が待ち構えていた。

 そのMTを見て、アイシャは思わず言葉が漏れ出す。


「黒い、ジークフリート?」


 ユーリの白いジークフリートと対をなすような、黒きジークフリート。

 この時点でユーリにはパイロットに感づいていた。

 黒いジークフリートから通信があり繋げると、映し出された映像で確信となる。


「久しぶりね。元気にしていた? ユーリ・アカバ」

「……そっちも元気そうだな。カーミラ・ウォン」

久しぶりに二千文字を超えて書くことが出来ました

今までの千五百程度が読みやすいという意見があれば、コメントをください


※サブタイトルの燎原「りょうげん」と読みます

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