第65話 それぞれの想い
皆で一丸となってテルモ基地へと向かい過激派を食い止める。
そう決まってからの行動は速かった。
まず輸送艦によって運ばれていた新型機のカゲロウへの移送をし、メカニック総出の調整が始まった。
「テメェら徹夜で仕上げるぞ! 俺たちに出来るのはこれ位なんだからな!」
中でもバーナードの張り切りは目を見張るものがあり、その気合いで艦内全体が暑くなったと錯覚するほどであった。
ローランドとジェイドは艦長と副艦長として突入してからの行動を何度もシュミレーション。
カゲロウのクルー全体が忙しく動き回る中、デュラハン隊の三人娘は食堂で食事を取っていた。
「……いいのかな。皆がこんなに頑張ってる最中に」
「カレリン。気持ちは分からないでもないけど、いま私たちに求められているのは決戦の前までにコンディションを整えておく事。それぐらい理解してるでしょ」
「まあ新しい機体の調整には駆り出されるでしょうけどね」
不安げなミーヤを余所に、エルザとアイシャは少なくと表面上は落ち着いて料理を口に入れていく。
普段は誰かしらいる食堂であったが、この状況もあって三人の声のみが響く。
そういった状況だからであるか、珍しくエルザが含み笑いしながらアイシャに話しかける。
「さっきは見物だったわねウェルズ。涙ながらに隊長をビンタだなんて」
「そ、それは隊長があまりに自分を省みてないから。つい勢いで」
尻つぼみにボソボソと言い訳しだすアイシャ。
エルザはまるで鬼の首を取ったように、追撃しだす。
「よっぽど隊長の事を想っているのね」
「は、はぁ!? 何でそんな話になるわけ!?」
「あ! 私も思った! でないと涙なんて流さないよ!」
「だ、だから! あれは感情が高まってつい出ただけであって! 別に隊長の事は何とも思ってないから!」
テンプレとも思える言葉を顔を赤くしながら吐くアイシャであったが、ミーヤとエルザは顔を見合わせて仕方ないと言わんばかりに笑いあう。
「笑うなー!」
アイシャの叫びが人のいない食堂に響き渡る。
決戦が控えているとは思えない三人娘の会話は、その後も続いていくのであった。
・・・・・・・・・・・
一方その頃ユーリは、ライアンにある事を尋ねるため医務室へと足を運んでいた。
ブリーフィングのあと倒れこんだライアンが寝ているベットの横で、しばらく待っていたユーリ。
ようやくライアンが目を覚ました時、彼はまず医療チーフを呼んで状態を見てもらう。
診察の結果、命に別状はなく会話も問題ないと言われたあと、ユーリは寝たままのライアンに話しかける。
「無事で何よりですよ中佐」
「……言っては何だが、少尉が見舞いに来るとは思ってもみなかったよ」
「見舞いじゃないですよ。まだ聞きたい事があったので来ただけです」
「だと思ったよ」
軽く笑うライアンであったが、傷が痛んだのか表情を歪ませる。
あまり長く居るのも問題だと思ったユーリは、単刀直入に切り込む。
「さっきの話。最新鋭機を渡したあと、あの人は……少将はどうなったんだ?」
「……」
問いかけされた後、顔を伏して黙り込んだライアン。
しばらくしてシーツを強く握りこむと、血を吐くように言葉を出し始める。
「少将は自分を逃がすために時間稼ぎを自らなさっていた。生きている可能性は、低いだろう」
「……そうですか。ありがとうございました」
ユーリは聞き終えると、ベットの傍から離れていく。
「責めないのか?」
「責めてどうにかなる問題でもないし、元より確認がしたかっただけですよ。……ただ一つ言える事があるとするなら」
ライアンに向き直ると、ユーリは覚悟が決まっている顔で言ってみせる。
「そこまでの価値が俺にあると思ってくれていたのなら、似合う活躍をするだけ。出来る事はそれしか無いんでね」
笑顔を見せて去っていこうとするユーリの背に、ライアンは思わず声をかける。
「……少尉!」
「何です?」
「必ず生きて帰ってくれ。何よりも少将はそれを望んでいる」
「言われなくても」
今度こそ医務室から出て行ったユーリの背中を見送りながら、ライアンは体の痛みから逃げるように瞼を閉じていく。
(少尉。武運を祈る)
最後にユーリの無事を祈ると、ライアンの意識は完全に途絶えるのであった。
今回は無事に月曜日に更新する事が出来ました
これからも何度かは急に止まる事があるかも知れませんが、エタる事は無いと思いますのでこれからもよろしくお願いします
次回はいよいよ過激派の巣窟となったテルモ基地へ突入を開始します!
お楽しみに!




