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幕間 予兆②

 —新西暦五十六年 十一月中旬


 アーストンの領土は広大であり、それ故に大小様々な国と接している。

 当然全てが友好的な訳でなく、戦争状態である国も数知れない。

 その内の一つである、敵国との境にある基地にてある祝勝会が行われていた。

 領土に侵攻してきた敵国に勝利した記念である。

 その中で一際注目を浴びている女軍人がいた。


「流石は戦乙女の異名を取るだけの事はあるなブレイン中尉。見事な采配だった」

「ありがとうございます准将。ですがまだ研鑽を積まなければ」


 名はエリカ・ブレイン。

 かつては少佐の立場であった彼女は、僻地にある基地に飛ばされながらも類まれなる戦術眼を持って味方を勝利へと導いていた。


「中尉の活躍をもってすれば階級が戻るのも時間の問題だろう」

「そうかも知れませんが……。地位に拘るつもりはありません。いま出来る事をやるのみですから」

「うむ、良い心がけだ。皆がその気概をもってくれれば国はもっと良くなるハズだがな」


 准将の皮肉めいた言葉に曖昧な笑みを返すエリカ。

 すると、ある将校が二人の間に割り込んで准将に耳打ちをする。

 徐々に表情が曇っていく准将の顔を見て、何事かがあったと彼女は察する。

 割り込んだ将校が離れていくと、准将は何事もなかったように話し始めた。


「済まないね。空気が読めない部下なもので」

「いえ、気にしていません」

「ところで中尉。今晩は空いているかね?」

「……申し訳ありませんが」


 急に誘いをかけてきた准将に断りを入れるが、向こうは体を寄せてくる。


「まあそう言わず。最高の夜を約束するよ」


 耳元でささやく准将に不快感を見せる振りをしながら、エリカは彼からこっそり渡された情報媒体を受け取る。


「随分とお酒をお飲みになられたようですね准将。すみませんが失礼します」


 手を払いのけたエリカは怒りの表情を取り繕いながら自室へと戻っていく。

 一方で准将は彼女の背を見送ると、近くにいた部下たちに密かに指示を出していくのであった。


・・・・・・・・・・・


 自室に戻ったエリカはすぐさま情報媒体のデータを閲覧にかかる。

 内容は暗号されていたが、過去にアーストンで使用されていたものであったので解読に時間はかからなかった。


「……なるほど。わざわざ暗号で渡す訳ですね」


 全ての内容を見終えたエリカは、落胆とも取れるため息を漏らす。


(ここからでは対処のしようもない。それにこの情報が本当だとすれば、基地内にもいるかも知れない)


 残っていたデータを抹消し、エリカは頭を落ち着かせるためにシャワーを浴びる。

 長い白髪が水に濡れ輝きを放ち、抜群のスタイルを引き立てた。

 温水が体の汚れを洗い流すほどに、彼女の考えはまとまっていく。


(下手に介入して被害を広げるのは得策ではない。今は動向を見守るしかない)


 そう考えを纏める一方で、心配は杞憂に終わるであろうという確信めいたものがあった。


(頼みますね。少尉)


 遠い地で頑張っているであろう恩人の事を考えながら、エリカはシャワーをいつかの為の戦略を学ぶのであった。

月曜日は更新できず申し訳ありませんでした。

普段書いているPCが壊れてしまい書けないという事態に陥ったのです。

今後は出来るだけ更新できるようにするので、よろしくお願いします。

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