幕間 予兆①
――新西暦五十六年 十一月下旬 アーストン領リビィアン近郊
星空と月明りが砂漠を照らす中、十数機のMTの一団がリビィアンへと向かっていた。
一団は完全武装をしており、どう見ても穏和な目的で移動しているとは思えない。
彼らはかつてペギン軍に所属していた軍人たちであった。
だが自国が降伏した際に脱走し、今では旧ペギン領でテロ活動を行う集団と化している。
「今に見てろ……コーリン!」
リーダーは憎悪の言葉を標的に向けて吐き続ける。
かつて街の領主であったコーリンだが、アーストンが勝ち行政特区となった今では橋渡し役として政治的手腕を振るっていた。
だがリーダーから見れば祖国を売った裏切り者にしか思えない。
そして今日の夜、護衛無しでリビィアンから出てくるコーリンを暗殺するために全ての戦力を動かしたのだ。
「そろそろリビィアンに近づく。標的を確認できしだい攻撃を開始。裏切り者をペギンの英霊たちの元に送ってやろう」
各員に通信したのち、リーダーはほくそ笑む。
脳裏ではペギンが再び国として立つ姿を想像していた。
しかし妄想をかき消すかのように危険を知らせるアラートがコックピット内に鳴り響く。
「なっ!」
リーダーが状況を把握する間もなく、夜空の色に染まった砂漠は紅蓮の炎に包まれた。
「焼夷弾だと!」
攻撃を受けてると理解したリーダーはすぐさま部下たちを落ち着かせようとするが、事態はそれよりも早く動いた。
弾丸が自分たちに雨の如く降り注ぎ、一機また一機と蜂の巣になりながら倒れていく。
「な、何がどうなって」
「分からないか? お前らはあのコウモリに担がれたんだよ」
突如届いた通信にリーダーが驚いていると、一団を囲うようにMTの集団が暗闇から現れた。
その中の一機。
夜に行動するには目立ちすぎる赤に塗装されたMTを見て、リーダーはパイロットの正体に勘づく。
「ろ、ロラン・クルーガー……! なぜここに!」
「まだ気づかないか。お前らが掴んだ情報はコーリンが流したデマだ」
「なっ! あ、あの卑劣漢め!」
嵌められた事を知り、唾を散らしながら叫ぶリーダー。
対照的にロランは感情が読み取れない口調で呼びかける。
「その発言に対して否定する気はない。だがこの状況で何が言いたいかは、分かるはずだ」
ロランは兵装である大型のランスを向け、MT越しに声を張り上げる。
「降伏しろ。貴様らが本当に国を想うのであればな!」
「っ! よく言えたものだな! 父であるバレット・クルーガーを殺され臆病風に吹かれたか!」
リーダーは返事も待たずにブレードを引き抜くと、未だ炎が燻る砂漠をロラン機に向かって突進していく。
「うぉぉお!」
「……馬鹿が」
砂塵を巻き上げながら突き進むリーダー機に向かって、短く吐き捨てたロランはランスを繰り出す。
コックピットを中心に特大の穴が空いたMTは、エーテルを吹き出しながら静かに倒れていった。
リーダーが辿った結末に恐れをなしたのか、他のメンバーたちは次々に降伏。
武装を解除する音が次々に砂漠に吸収されていくのであった。
「あとは頼む」
部下に後始末を頼むと、ロランはこの場から離れてある人物と通信を繋ぐ。
「やあやあ若獅子様! お見事なお手並みでしたな!」
オーバーリアクションで通信に出たのは、一団が標的としていたコーリンであった。
ロランは向こうにも聞こえるように大きなため息をしながら、会話を続ける。
「世事はいい。それよりも例の件、本当なのか?」
「ええ勿論! このコーリン! 中々の情報通にて!」
「そうか」
それだけ聞くと、ロランは早々と通信を切る。
コックピットを開け、夜空を見上げればそこには昔と変わらず輝き続ける星々があった。
「……負けるなよユーリ」
父親の乗ったMTの改修機に乗りながら、友人となった仇の身を案じるロランであった。
久しぶりの人物たちの登場で混乱させてしまったらスミマセン
あと一話幕間を書いたら七章に突入します
またしても久しぶりな人物が登場そますので、お楽しみに!




