第63話 開幕
「駄目ね。コックピットが完全に破壊されていて情報は抜き取れそうに無いわ」
「そうか。まあ自爆した時点で期待はしてなかったが」
誘拐犯らとの戦闘後、リーダー格が乗っていたMTを調べていたユーリとカーミラ。
これ以上は調べても無駄だと感じた二人は調査を切り上げる。
「今回は助かった」
「仕事だもの。報酬はしっかりと頂くから」
「エリンにいる少将殿に請求してくれ。多分値切られると思うがな」
「それはそれは。気を付けないといけないわね」
互いに穏やかに会話を繰り広げていくが、夜が明けてきた空を見上げながらユーリがカーミラに問いかける。
「なぁ。なんでアンタは傭兵をやっているんだ? その腕があればどこの国でもやれるだろ?」
「……随分と踏み込んで来るわね」
「悪いが空気が読めない体質でな。気を悪くしたなら謝る」
「謝らなくてもいいわ。別に大した理由も無いし」
問いかけに答えると、カーミラは自身のMTの方に歩き始める。
「こっちは先にアーストンに行って報酬を貰ってこようかしら。また戦場で出会えるといいわね」
「……出来れば会いたくないんだが」
「ダメ。決着をつけないとこっちの気が済まないの。じゃあそれまで死なないでね、死神さん」
「じゃあな」
MTに乗って去っていくカーミラを見送ると、ユーリもカゲロウへと戻っていくのであった。
—―両者とも決着が近い事も知らずに。
・・・・・・・・・・・
数日後、休暇の日程を終えたカゲロウはホウライを後にしアーストンへの国境へと向かっていた。
そんな中ユーリの姿は、ブリッジにあった。
「副長。この分なら予定より早く戻れそうだな」
「そうですね艦長。まあ戻れば任務が待っているのでしょうが」
ローランドとジェイドが和やかに話してしる中、ユーリはただ一人険しい顔で空を睨みつけていた。
「少尉。どうかしたか?」
「いや。……何でも」
「そんな顔をしておいて何でもないは無いだろう。気になる事があれば言ってくれ」
艦長であるローランドの言葉に、ユーリはため息を吐き頭を掻いて答える。
「上手く言えないが、何か良くない事が起きてると感じるんだ」
「良くない事?」
「抽象的だが、それしか言いようがない」
「……各自異変があればすぐに知らせろ。些細な事も見逃すな」
ローランドがクルーに命令を下し、ブリッジ内に緊張が走る。
その様子を見て、ユーリは頭をローランドに下げた。
「すまない」
「なに。君の事は信用している。それに外れたら笑い話にすればいい」
「ははっ」
ユーリがようやく笑みを浮かべた時であった。
オペレーターであるレコが焦った様子で声を上げる。
「艦長! 輸送艦がこちらに向かって来てます!」
「っ! メインモニターに写せ!」
モニターに映し出された映像を確認してみると、確かに輸送艦がこちらに向かっているのが見える。
しかもかなり被弾している様子で、あちこちから火花が散って煙が上がっていた。
「あの輸送艦はアーストンで使用されている物ですね」
「少尉。人命救助を頼む」
「了解した」
「待ってください! 輸送艦から通信が入っています!」
「すぐに繋げ!」
サブモニターに通信が繋げられるが、最初は調子が悪いのか雑音しか聞こえなかった。
だが徐々に音声と画像がクリアになっていくと、ユーリは通信相手に驚きを隠せない。
【聞こえるかカゲロウ!】
「ライアン中佐!」
通信の主はスコットの部下であるライアンであった。
額から血を流しながらも、ユーリの姿を確認したライアンは笑みを浮かべる。
【アカバ少尉! どうにか間に合ったか!】
「中佐、一体何がどうなって」
ジェイドが疑問を口にするが、ライアンは聞こえてないかのようにひたすらに懇願する。
【頼む少尉! 少将を……国を救ってくれ!】
—―新西暦五十六年 十二月初旬
大国アーストンの中でも歴史残る事件が巻き起こっていたのであった。
六章無事完結です!
七章からは怒涛の展開となりますが、先に二話ほど幕間が入る予定です。
これからもエーテル・レコードをよろしくお願いします!




