第61話 死神から傭兵への依頼
—―数時間前
「あら。珍しい場所で出会ったわね死神さん」
「奇遇だな同じ意見だよカーミラ・ウォン。あんたがこんな所でバケーションする人間とはな」
二度も戦場で戦った関係とは思えない程、互いに気安く話しかける。
生身で会うのは初めてだが、相手の資料は嫌というほど見ているためという理由もあった。
「以前にホウライの重要任務を受けた事があって、それ以来この時期になると招待されるのよ。折角の好意を無駄にするのは勿体ないでしょ」
「なるほど」
「そう言うあなたは何のために此処に? 一番かけ離れていると思うのだけど」
露出度の高い水着を着こなしたカーミラは、用意されていたドリンクに口をつける。
どうやら完全にオフモードなのか戦意は感じられず、まるで友人と会話するような雰囲気。
ユーリは肩を竦めて、ため息を吐きながら答える。
「上から無理やりに休暇を押し付けられてな」
「あらあら。軍人さんも大変ね」
含み笑いで返すカーミラであったが、ドリンクを置くと先ほどより真剣な声で問いかける。
「で?」
「ん?」
「探りはこの位でいいでしょ。本題を言ってちょうだい」
「……バレたか」
「忠告しておくわ。将来政治家は止めておきなさい。向いて無いわよ」
その言葉に思わず笑いそうになるユーリであったが、事態の深刻さを思い出して耐える。
「なら単刀直入に言わせてもらう。俺からの仕事を受ける気はないか?」
「……内容は?」
「人質の救出。及び妨害してくるMTとの戦闘」
「中々刺激的ね。詳細を教える気はある?」
「返答次第だな。もし依頼を受けるなら、極秘以外は全て話そう」
「ふーん」
カーミラはビーチチェアから立ち上がると、背伸びをしながら軽い感じで返答するのであった。
「いいわよ。仕事受けてあげる」
「……意外だな。もっと渋るかと思っていたが」
「断る理由も無いもの。丁度暇してたしね」
「そうか」
「それに……あなたと協力しての仕事なんて、面白そうじゃない。殺し合う仲が共闘だなんて」
頬を赤らめながらウットリとした表情で見つめるカーミラに、ユーリは苦笑いを返してこう言うのであった。
「俺。やっぱりアンタの事は苦手だよ」
・・・・・・・・・・・
「とまあ経緯はこんな所だな」
「……納得出来るような、そうでも無いような説明でしたけど、理解はしました」
カーミラの助力を得て追っ手を振り切ったユーリは、アイシャたちに経緯を軽く説明していた。
ひたすらに森林地帯の上空を飛ぶファフニールを操縦しながら、ユーリは何かを探し続ける。
「しかし隊長。カーミラ・ウォンが凄腕でもいつまで抑えられるか分かりません」
「エルザ良い所に気づくな。そろそろカゲロウからの迎えが来てるポイントのはずなんだが」
【ユーリ。一時の方向です】
アイギスの言葉に従って見ると、小さな赤い光が暗闇に浮かんでいた。
急いでエーテルを吹かせながら向かうと、そこには武装を運ぶためのトラックとバーナードがいた。
「待たせやがって。気が揉んだじゃねぇか」
「悪い。三人を任せた」
三人を降ろしたユーリは、トラックからファフニールの武装を取り出す。
「隊長! 頑張って!」
ミーヤの大きな声援が届いたかどうかは定かではないが、一度振り返るとそのままトップスピードで引き返していく。
「……隊長」
「ほれボサッとするな。MTじゃなくても追っ手が来るかもしれねぇんだ。とっとと帰るぞ」
心配そうにファフニールの後姿を見つめるアイシャたちに、運転席に乗り込んだバーナードの声が届く。
三人は急いでトラックに乗り込み、カゲロウへと急いで向かうのであった。
ようやく涼しくなり、読書の秋という雰囲気がやって参りました
これを機にこの作品を見てくれる読者が増えると良いなと思います(笑)
では皆さま、また来月お会いしましょう!




