第5話 圧倒
少年は自らの力を此処に示す
「くっ!」
不意を突いたユーリの攻撃に対し、アイシャもギリギリのところでブレードを引き抜き直撃を防ぐ。
エーテルの刃同士がぶつかり合い、赤い火花を散らす。
だがそれも長くは続かず、勢いで勝っていたユーリ機が押し切る。
これによってアイシャ機は大きく後退する事となった。
「っ! けど、まだ!」
アイシャはすぐさま態勢を整えると、ライフルをユーリ機に向け撃ち始める。
接近戦が得意とはいえ、射撃においても優秀な成績を出したアイシャ。
仮に全弾当たらずとも、動きを止められればいいと考えての攻撃であった。
「な、何で」
だがユーリは的確に撃ち出された弾丸を、いとも簡単に避け続けていく。
二機の距離はそこまで離れていない。
だと言うのに、ユーリ機はライフルから撃ち出される弾を躱し続ける。
いや、それどころか距離を縮め始めていた。
(この距離で当たらないなんて、どんな操縦したらそんな事が出来るのよ!)
心の内で叫びながらも、アイシャは冷静に次の行動に移る。
左で射撃は継続しながら、右でブレードを展開して突撃。
ライフルで牽制をしつつブレードによる近接戦闘に持ち込む。
アイシャにとって、今の装備で打てる最善手であった。
「これで仕留める!」
自分自身を鼓舞するように叫びながら、接近していくアイシャのシルフ。
このままブレードによる切り合いが始まると、誰もが思っていた。
「え?」
ユーリのシルフが消えた。
少なくともアイシャにはそう感じていたし、見ていた者たちも理解は出来ていなかった。
とっさの事で動きが止まった彼女の耳に聞こえてきたのは、接近を知らせるアラートであった。
「きゃあ!?」
反応する前に、突如左から襲ってきた衝撃によってようやく攻撃されたのだと気づくアイシャ。
シミュレーターとは言えかなりの衝撃を受け、端麗な顔が歪む。
すぐさま反撃を開始しようと左を確認するが、そこにユーリ機は発見できなかった。
すると今度は後方から衝撃が襲ってきた。
「っ! カメラが追い付かない!」
ユーリ機は消えてる訳ではない。
アイシャ機のカメラの死角へと移動しながら切りつけている。
そこは彼女も理解しているし、対応しようとしている。
だが追いつけない。
「何をどうしたらシルフでこんな動きが出来るのよ!」
思わず叫んでしまうアイシャであったが、それも無理からぬ事であろう。
一世代前のMTであるシルフは、今やロートルと言ってもいい程。
だと言うのにユーリが操るシルフは、現役機ですら超えるスピードで圧倒しているのだ。
アイシャも何とかレーダーを追う事で、何とか直撃は避けている。
しかしダメージは確実に入っており、アラートが鳴り響き続けた。
「このままじゃ、終われない!」
負けを覚悟するアイシャ。
だがこのまま一撃も与えられずに負ける気も無かった。
左のマニピュレーターは既に反応が鈍いが、それでも一発撃つには十分。
レーダーで次の動きを予測しながら、チャンスを待ち続ける。
そして
「いま!」
射線上にユーリ機が来たのを確認すると、躊躇なくライフルの引き金を引いた。
誰もが起死回生の一撃だと、信じて疑わなかった。
だがユーリの実力はその希望すら悠々と飛び越えた。
「……え?」
ユーリはあらぬ方向にライフルを撃ち、その反動を使って回避したのだ。
一部始終見ていたアイシャでさえ信じられない、そんな離れ技であった。
もはや反応する事すら忘れたアイシャ機は、ユーリ機のブレードによって両断される。
それと同時にユーリの勝利が決まり、シミュレーションが終了する。
「……」
アイシャは何も言えなかった。
周りで見ていたミーヤやエルザ、いや全員が言葉を無くしていた。
そんな中、ユーリはアイシャに近づくと手を差し伸べる。
「お疲れ様。流石に粘られたよ」
「……あれだけの実力差を見せられると、嫌味にも聞こえませんね」
アイシャは差し伸べられた手を取ってシミュレーターを出ると、一つ質問をする。
「どうして接近戦を選んだんですか? 結果は同じだったでしょうけど、もっと楽に勝てたんじゃないんですか?」
その問いに対しユーリは、どう伝えるか少し考えてからゆっくりと答え始める。
「戦場でどんな相手と戦うかなんて分かる方が稀だからな。どんな敵だろうとその場で対応するのが俺なりのやり方だ」
「納得しました。アカバ隊長」
微笑みを浮かべながらアイシャはユーリを隊長と呼ぶ。
ユーリはその事に安堵しながら、ミーヤとエルザも視界に収めて口を開く。
「じゃあ三人共。これからよろしく頼む」
「「「了解!」」」
この日、ユーリに初めての部下がついたのであった。
ユーリ対アイシャの模擬戦は、ユーリの圧勝という形となりました。
果たして次回はどのような出会いがあるのか?
ご期待ください!