第58話 事件の始まり
「お前も好き者だなぁ。わざわざ休みだって言うのに機体の調整なんぞ」
「他のメカニックを休ませておいて、一人残って調整していたアンタには言われたくないよ」
ユーリは反論しながら気になった部分をバーナードに報告する。
すぐさま取り掛かるバーナードであったが、熟練された手つきと共に口も動かしていく。
「で? 今日は嬢ちゃんたちは何処に行くって?」
「レコを連れてショッピングだと。色々とやる事があって羨ましい事」
「小僧も歳は変わらないだろう。年寄りみたいな言い方してるんじゃねぇよ。よしいいぞ、試してみろ」
バーナードの調整が終わると、気になっていた部分が修正されており頷くユーリ。
そのタイミングを見計らってか、この場にいるもう一人が声を上げる。
【しかし聞いている限りユーリには趣味が無いように思われます。これを機会に取り組んでみては如何ですか?】
「趣味か」
アイギスの言葉に渋い顔をするユーリ。
趣味を見つけろと言われても、何もしっくりこないと言うのが本音である。
「まあ確かに。小僧はやる事が無さ過ぎだな」
「そうは言ってもな」
【確かにユーリの幼少を考えれば無趣味でもおかしくはありませんが、いつまでもそれを言い訳にする訳にはいけません】
「……厳しいお言葉で」
何も言い返せないユーリは、一度コックピットを出て凝り固まった体をほぐす。
「しかしアイギスの嬢ちゃんも随分と言うようになったじゃねぇか」
「だな。もう十分学習したと思うぞ」
【いえ、まだまだです。戦闘面でも感情面でも、ユーリから学ぶべき事は多々あります】
「俺ばかり学習して感情面は大丈夫なのかね」
自虐するように笑うユーリを呆れたように見つめるバーナード。
そこにアイギスが思いもよらない言葉をかける。
【……ユーリには感謝しています】
「何だいきなり」
【確かに模範的とは言えないユーリですが】
「おい」
【ただのAIに過ぎない当機を、あなたは気さくな友人のように接し。それだけでなく任務以外でも顔を出してくれました】
「まぁ、命の片棒を担いでもらっているからな」
【それはユーリ自身が持っている優しさ故の事でしょう。そんなあなたの補佐が出来る事、嬉しく思います】
「……」
「なんだ小僧。照れてるのか」
「うるさい」
絡んで来たバーナードを避け、ユーリは再びファフニールの調整に戻ろうとする。
すると誰かが大声を出してこちらに向かって来ているのが見えた。
「少尉!」
「レコ?」
よく見ればアイシャたちと買い物に出かけたレコが、汗を掻きながら走ってきていた。
「どうした? 荷物持ちでも必要になったか?」
「冗談を言っている場合じゃないんです!」
軽い冗談に顔を赤くして否定するレコの姿に、ただ事ではないと頭を切り替えるユーリ。
「何があった」
「あ、アイシャさんたちが……。誘拐されました」
「っ!」
「私は逃がされてこれを渡すようにって」
レコは握りしめていた手紙をユーリに手渡すと、その場に倒れ込んでしまった。
「レコ!」
「大丈夫だ心配ねぇ。気を失っただけだ」
【ユーリ。犯人たちは何と】
ユーリは手掛かりである犯人たちからの手紙を開く。
そこには取引場所と時間を除けば、要求が一つだけ書かれていたのみであった。
—―MTファフニールを渡せ、と。
今回は少し短めのエピソードとなりましたが、如何でしたか?
この事件がどのような展開になるのか?
ご期待ください。




