第57話 永遠中立地ホウライ
燦々と輝ける太陽。
透き通るような青い海。
そんなバケーションに最適な環境の中で、アーストンの少尉ユーリは言葉を漏らす。
「……帰りたい」
ユーリが今いる場所は、数多くのリゾート地を有する国『ホウライ』
世界有数のオリハルコン産出国であり、小さな国ながら経済面では大国と渡り合う力を持っている。
しかし武力の行使を良しとしない国柄であり、永遠中立を信条としている。
もしもホウライに攻め込もうものなら、同盟を結んでいる数多の国に報復を受ける事は必至。
その他にも要因はあるが、他国に守られながらホウライは中立を続け世界で最も安全な観光国家として成り立っているのであった。
では何故ユーリはホウライのビーチにて、一人ため息を漏らしているのか?
それを語るには少し時を巻き戻さなければならない。
・・・・・・・・・・・
「休暇?」
「そうだ。二週間ほどホウライで身体を休めるといい」
軍務の報告をスコットへしていたユーリは、突然切り出された話題に戸惑いを隠せなかった。
「あー。それはホウライの内部を偵察しろという事か?」
「いや、そのままの意味だ」
「必要だと思うか?」
少年兵時代からまともに休暇など取った事のないユーリにとって、この話は働き続けろと言われるよりも酷であった。
問いかけられたスコットは、苦笑いをして首を横に振る。
「確かに。お前には必要無い事かもしれん。だが周りにいる者はどうだ?」
「それは……」
ユーリは働く方が楽でも、周りがそうだとは限らない。
まだまだ士官としての視点が足りないと思うスコットであるが、経験が浅いので仕方がないとも思う。
しかしまだ納得しきっていない様子のユーリに、スコットは情報端末を手渡す。
「これは?」
「これまでの戦いで機体にも相当なダメージが蓄積している。そこでお前たちの休暇の間に、徹底的なオーバーホール。更には改修を行う予定だ」
「それはまた、ありがたい話で」
「念のためにファフニールはカゲロウに共にホウライに向かってもらうが、戻り次第そちらも改修を施す」
「だから大人しく休暇を満喫しろ。そういう訳ですか?」
「分かっているじゃないか」
話は終わりだと言わんばかりに、他の書類に目を通し始めるスコット。
ユーリは諦めて部屋を出ようとするが、外へと向かう足を止める。
「一つだけ聞いていいか?」
「何だ?」
「休暇を取らすだけならアーストン内でも良かったはずだ。なぜホウライまで行かせる」
「……」
「まるで国外に行かせたいという意志が見える気がするんだが?」
「変なところで鋭いな。お前は」
ため息を吐いてスコットはユーリと向き合う。
「その通りだ。理由は言えないが、お前たちには念のため国外にいて欲しい」
「……分かったよ。休暇、ありがたく満喫してくるさ。リゾートなんて似合わないにも程があるけど」
「助かる」
今度こそ部屋から出ていくユーリを見送ったあと、スコットは窓から見えるエリンの風景を見ながら独り言を口にする。
「杞憂ならば良し。しかしそうでなければ……お前が希望の星になるかもしれんぞ、ユーリ」
・・・・・・・・・・・
といった理由もありユーリはビーチで海を見ているのだが、まともな休暇など初めてでありどのように消化していいか分からないでいた。
そもそも今日もカゲロウの自室で寝て過ごそうと思っていたのだが。
「隊長! ぼさっとしていると置いてくよ!」
「隊長早く~!」
「……二人とも、はしゃぎ過ぎ」
部下の三人娘に不健康だと怒られて、ビーチへと引きずり出されただった。
恰好も普通の軽装であるユーリとは違い、三人共水着を着こんでおり満喫する気が満々だ。
「全く。こんな良いビーチなのに暗くならないでくださいよ」
アイシャは赤いビキニにパレオといった装いで、整ったスタイルも合わさり周囲の注目を引いていた。
「隊長! 早く遊びましょう!」
ミーヤはチューブトップの水着で、豊かな体つきをこれでもかと強調している。
「二人とも、目立っているから」
二人を嗜めるエルザが着ているのは競泳用の水着に近いものであるが、それでも顔の良さもあり周囲の目を引くには十分であった。
「はぁ……」
三人の影響もあり注目が自身にも集まるのを感じ、ため息を吐くユーリ。
特に遊びたい訳でもないので、ここで待っていると提案しかける。
「ほら早く!」
だが口にする前に、アイシャに手を引かれ共に海へと駆けだすユーリ。
結局そのまま夕方までビーチで過ごしたユーリたちデュラハン隊は、ヘトヘトになりながらカゲロウへと戻るのであった。
今回から六章へと突入します。
少し短めの章になると思いますが、何時もとは少し違うデュラハン隊の姿が見れると思いますのでご期待ください。
※熱中症になりかけました。
皆さんもお気をつけて!




