第55話 世界一無駄な戦い
「……」
荒れ果てた大地に、夜の帳が下りようとしていた。
その中で仁王立ちするレイ専用のサラマンダーは、赤に塗装されている事もあり存在が際立っていた。
ただしその様相は、以前ユーリと戦った時とは風貌が異なっている。
装甲を可能な限り追加。
更にブースターと武装をこれでもかと搭載したその姿は、さながら鬼と呼べるだろう。
「……」
だがコックピットで戦友を待つレイの心は、まるで凪のように落ち着いていた。
彼の脳内に駆け巡るのは、少年兵時代の記憶。
地獄と例えるのも生温い、そんなろくでも無いもの。
そして同時に、今の彼を形作った大切なピース。
「……来たか」
敵機接近を知らせるアラートが鳴り響き、レイは口を開く。
それから間もなく、ユーリが操るファフニールがサラマンダーから距離を取って降り立つ。
「随分と着飾ったな」
「はは、良いだろ。この為に奮発して来たんだぜ?」
これから死合うとは思えない程、和やかな空気で会話するユーリとレイ。
だが両者とも操縦桿を握りしめており、何時でも動けるように目を光らせている。
そんな緊張とも温和とも言えない雰囲気を壊したのは、ユーリからであった。
「お前がどういったつもりで戦うのか、俺には分からない」
「だろうな」
「それにお前が言い出したら止まらないのも知っている」
「よく分かってるじゃないか」
「けれど友人として、一度だけ言わせてくれ。この戦いに意味は無いぞ」
「知ってる」
そう言いながらもレイは、大型アックスを構える。
「……はぁ。まあ、そうだよな」
この明らかな宣言に対し、ユーリはため息を吐きながらファフニールの両手にサーベル持ち答える。
もはや二人の間に話し合いを空気などなく、あとは戦うのみであった。
夜の暗闇に二機のツインアイが輝きを放ち、相手の一挙一動をパイロットに伝えていく。
そのまま緊迫した時間が続くかと思われた矢先、レイが先手を取った。
「じゃあ始めようか。世界一無駄な戦いをな!!」
追加されたブースターからエーテルを吹かせ、レイはファフニールに真っ直ぐ突撃する。
強力な衝撃に体は悲鳴を上げ、サラマンダーにも相当な負荷が掛かる。
それでもレイは笑みを浮かべながら、アックスのエーテル刃を形成させ振り上げた。
対するユーリも笑みこそ浮かべてないが、静止の言葉を吐く事もなく両腕のサーベルで攻撃を受け止める。
エーテル刃同士がぶつかり合い火花で周りが照らされる中、二人は通信越しに吠え合う。
「相変わらず反応が速いじゃねぇかユーリ! 流石は大国の新型と死神様だな、おい!」
「今から負けた時用の言い訳か! 随分と弱気になったじゃないかレイ!」
「はっ、誰が!」
嘲りの言葉を鼻で笑ったレイは、肩に装備したバルカン砲をファフニールの頭部に向け放つ。
至近距離では躱すのは不可能。
メインカメラは潰れ、流れをレイに引き寄せる一手になるはずであった。
だがユーリはバルカンが向けられたのを素早く察知すると、エーテル刃の形成を解き後退。
結果体勢を崩されたサラマンダーは大きくバルカンを外す事となり、その間にファフニールは一度上空へ避難する。
「その程度で逃げれると思うな!」
しかしそれも織り込み済み。
サラマンダーの胸部装甲がパージされると、そこにはマイクロミサイルが搭載されていた。
全てのミサイルの照準を合わせ、レイは躊躇なく引き金を引く。
白い噴煙が闇の中で広がり、数十発のミサイルは正確無比にファフニールへと向かう。
「ちぃ!」
思わず舌打ちするユーリであったが、体は直撃を避けるべく動いていた。
高速移動をしながらライフルを構えたファフニール。
そして止まらずにミサイルに銃口を向けた時には、既にライフルからエーテルが何発も撃ちだされた。
閃光たちは狙い通りのミサイルを撃ちぬき爆散させる。
「やっぱこの程度じゃ倒せないか」
レイはつぶやくと、サラマンダーに装備したフライトユニットを使用して真っ暗な上空へと舞い上がる。
その表情は誰がどう見ても、笑っていた。
—―世界一無駄と表したこの戦い
果たして勝者はどちらか
久々に戦闘メインなので、かなり気合は入れて書きました!
気に入ってもらえたら嬉しいです!




