第54話 ユーリとレイ
モストーンとアーストンの国境の間に広がる、夕暮れ時の荒野。
そこに布陣した十数機ほどのMTたちは、レイが団長を務める傭兵団の全戦力であった。
「……」
MT部隊より更に前方、赤に塗られた改修サラマンダーのコックピット内でレイは静かに時を待っていた。
「団長」
「……なんだ」
レイに耳に届いたのは、副団長の声であった。
通信越しでも不安さが伝わる態度であるが、レイは愛想なく返事をする。
「こんな事、やる意味ないでしょう」
「だから言ったはずだ。これは個人的な喧嘩だ。お前らが付き合う必要はない」
「団長が喧嘩に命を賭けるです。部下が付いていって何が悪いんですか」
「なら止めるな」
「馬鹿な事をしてたら止めるのも副団長としての務めですから」
何を言っても退く気はない様子の副団長に、レイはため息を吐く。
真面目を理由に自ら任命したが、どうやら予想よりも頑固者だったらしい。
「あいつとはどんな形であれ決着をつけないとな。……そして俺たちの決着って言ったら、やっぱり戦いしか無いんだよ」
「何か遺恨でもあるんですか」
「無い。あいつと俺は今でも仲良しさ。向こうがどう思っているかなんて知らないけどな」
「じゃあ何で」
「もっとしょうもない事だ。それを伝える方法はコレなんだよ」
「……言っている事が自分には分かりません」
副団長が悔し気に漏らした言葉に、レイは笑い始める。
「分からないのはお前がまともな証拠だ。悔しがる必要なんてないさ」
「しかし向こうが無視したらどうする気なんです? 追いかけるですか」
「まさかそんな訳がないだろう。それに、前提が間違ってる」
「間違っていますか?」
「ああ。向こうは受けるさ。何せあいつも俺と同じ、壊れた人間だからな」
・・・・・・・・・・・
【本当に宜しいのですかユーリ】
「しつこいぞアイギス。その質問何度目だ」
一方カゲロウの格納庫内。
ユーリがファフニールの調整をしていると、アイギスから何度目かの問いかけが行われた。
反対するローランドたちを押し切って一騎打ちを受ける事となったが、その事がアイギスには不可解で仕方がないのである。
【この勝負、受ける必要性は皆無です。いえ、そもそも申し入れ自体理解できません】
「まあ、そうだろうな」
既に首謀者であるダストンは死亡しており、その事はレイたちも知っているはずだ。
だと言うのに戦いを望む傭兵も、それを受けるユーリもアイギスには真意が分からないでいた。
「俺もレイもどこか壊れているだよ」
【壊れている……ですか?】
「ああ。どこがどうと言えないが、一般とは認識がズレている。そうで無ければ生きられなかったんだよ」
【ユーリ】
アイギスの声にユーリは明るい口調で返す。
「別に恨んでいる訳でも後悔してる訳でもない。けど、確かに違う」
【……】
「そんな俺たちが何かを伝え合おうと思ったら、この方法が確実だって言う話だ」
【分かりました。もうこれ以上は言いません】
「悪いな。こんな個人的な事に付き合わせて」
【問題ありません。当機とユーリは一蓮托生ですので】
「言ってくれるね」
そんな会話を続けていると、レコから通信が入る。
「少尉。そろそろ時間ですよ」
「そうか。悪いなレコ」
「反対を押し切って行くんですから、無事じゃないと怒りますよ」
「そりゃ怖い。……じゃあ行ってくる」
その数分後、カゲロウから飛び立つファフニールは持ち前の白さと夕暮れと合わさり非常に輝いていた。
ユーリとレイ。
二人の元少年兵の一騎打ちが、この事件の終幕を飾ろうとしている。
今回はここまでとなります
あと2,3エピソードで五章は終わると思います
これから先にどんな展開が待っているのか、ご期待ください!
※9月でも暑い日が続きますので熱中症等にはお気をつけて




