第51話 地獄に落ちろ
「お、お前! 何故この場所が!」
突如現れ額に銃を突きつけるユーリに対し、動揺を隠さず叫ぶダストン。
対してユーリは淡々と言い聞かせるように話し始める。
「遠くには行っていないと思ったからな。この辺で最近購入された小屋が無いかどうか調べてもらったのさ。まあタイミングは偶然だったがな」
「だ、だとしても! 何故私が実行したと!」
「……目」
「は?」
「あんたの王女を見る目が見下しているように見えたからな。半ば以上は勘だったが当たって良かったよ」
「ただの勘、だと……!?」
ユーリの答えに更に動揺するダストンであったが、突然態度を一変させる。
「も、もうすぐ傭兵共が迎えが来る! そうすれば貴様なんぞ!」
一筋の光明にすがり唾を飛ばしながら吠えるダストンに、ユーリは哀れなものを見るような目で見降ろす。
「随分とお気楽な頭だな。まさか俺一人で来てるとでも思っているのか?」
「は?」
「この小屋の周りはこっちの部隊で囲んでいる。頼みの傭兵たちも諦めて引き上げてる頃だろ」
「ま、まさか。そんな訳が」
「……エルザ。イレーナ王女を外に」
「はい。隊長」
絶望の表情を見せ否定するダストンを放置し、ユーリは外に待機していたエルザにイレーナの事を頼む。
エルザは素早くイレーナの拘束を解くと、その身を支えながら小屋を後にする。
ユーリはそれを確認したあと、ダストンの額に一段と強く突きつける。
「さて、と。残るはあんたの処置だけだな」
「ひぃ!」
最早逆転の手が無くなり完全に怯えているダストン。
それでもこの場を生き残ろうと、必死に頭を働かせ口を動かす。
「な、なあ分かってくれ! 国が滅んで私もやけになっていたんだよ! だ、だから命ばかりは」
「だとしても。彼女に手を出そうとしたのはお前の意思だろう」
「うっ! そ、それに君の任務は私たちの護衛のはずだ!」
「勘違いするな。受けた任務はイレーナ王女の護衛だ。元取り巻きのお前の身柄の安全は関係ない」
「あ、うぅ……」
次々に論破され、上手く考えがまとまらなくなってきたダストンにため息を吐いたユーリは引き金に力を込め始める。
「直接人を殺すのは初めてだからな。悪いが至近距離で撃たせてもらう」
「……が」
「ん?」
「何が悪いと言うんだ!!」
突如立ち上がりユーリに詰め寄るダストン。
その表情はとても正気とは思えない程、切羽詰まったものであった。
「バンデルは滅んだんだ! なら新しく生きようと思ってもいいじゃないか! それを責める事がお前らに本当に出来るのか!」
「……いや」
「ならそこをどけ!」
今にも小屋を飛び出して行きそうなダストンに対して、ユーリは無言で彼の右脚を撃ちぬく。
「ぐあ!?」
「下手な腕でもこういった時は当たってくれるもんだな」
撃たれ倒れ込んだダストンに、ユーリは再び額に銃口を向けて語り始める。
「責める事はしない。生きたいと思うのは誰もが同じだろうさ」
「っ! なら!」
「だがお前はその為に信頼してくれている人間を利用しようとした。……俺がお前を始末する理由はこれに尽きる」
そう言い切ると、ユーリは外さない為か額にさらに強く銃口を押し当てる。
「この……地獄に落ちろ!」
ダストンが叫び終えたのと、銃声が轟いたのはほぼ同時であった。
物言わぬ屍となったダストンをユーリが見下ろしていると、外からカゲロウの保安部隊が入ってきた。
「少尉。あとはこちらで」
「すまない。頼む」
後を任せてユーリは外に出ようとするが、その途中で小さな声で呟く。
「地獄か。……悪いが、そこに行くのは子どもの頃から知ってるよ」
その言葉は、夜風と共に誰にも聞かれず消えていく。
—―こうして、彼が起こした犯行は静かに幕を下ろしたのだった。
今回のお話はここまでとなります。
如何でしたでしょうか?
主犯はこのエピソードで居なくなりますが、章自体はまだ続きますので楽しんでもらえれば幸いです。
では皆さま、次の更新にて。
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