第50話 本性
「行方不明ってどういう意味だ。レコ詳しく説明しろ」
戦闘直後に舞い込んで来た報告に、ユーリはできるだけ冷静に情報を確認しようとする。
だがレコはかなり混乱しているようで、半ば叫ぶように通信を返す。
「どうもこうもないですよ! 部屋の扉が開いていて中には誰も居なかったと報告が上がって、それに加えて小型艇が一隻なくなっているんです!」
「つまり誰かが連れ去った可能性がある」
「いま総員で艦内を調べてますけど、その可能性も高いんです!」
【どうやら先ほどの部隊は囮だったようですね】
「そうみたいだな」
アイギスの分析に、ユーリは冷静に返した。
レコが様子を見ていて逆に冷静になった部分もあるが、この時点でユーリには確信めいた何かが脳裏にあった。
「ですから皆さんは周辺の捜索を」
「レコ。調べて欲しい事がある」
・・・・・・・・・・・
「……」
夜の帳が辺りを包んだ頃。
戦場となったエリアから少し離れた場所に、ポツンと建てられた監視小屋のような場所。
そこで手足を拘束されたイレーナが、自身を拉致した犯人を無言で睨みつけていた。
「そう睨まないで欲しいものですね。まあそれ以外何もできませんが」
「一体何故このような事をしたのですか……ダストン」
名を呼ばれたダストンは馬鹿にするのを堪えるような笑いをイレーナに向ける。
「もう王女も分かっているでしょう? あなたをガスアまで送り届ける。それが私の目的ですよ」
「祖国を裏切ると言うのですか!」
「いやいや可笑しな事を言う。既にバンデルは滅んでいます。裏切るも何も無いでしょう?」
「そんな事はない! 現に今だって戦っている者たちが!」
「ああ。あの敗北も認められない負け犬どもの事ですか」
「っ!」
露骨に戦っている者たちを見下す発言に、イレーナの視線がより一層険しくなる。
だがダストンは気にした様子もなく、むしろ子どもに教え込むような態度で接してくる。
「バンデルが滅んだ事は覆せない事実。ならばそれを受け入れて進むのが上策というものです」
「わたくしをガスアに売るのもその一環?」
「ええ。あなたの身と引き換えにそれなりの地位を貰います。その為にあなたを護衛してきたのですから」
「……何故モストーンを経由させた?」
「状況次第ではアーストンを始めとした他の国に売る事も考えてましたので。まあ今となれば素直にガスアに向かえば傭兵を雇う金も要らなかったのですけどね」
ダストンは一旦話を切ると、端末を使ってどこかへ連絡を取り始める。
その間に何とか逃げ出そうとするイレーナであったが、きつく拘束されているためどうにもならなかった。
「もうすぐ迎えが来ます。そうすれば晴れて亡国の王女は処刑台行き」
「くっ!」
「ですがその前に、少しばかりあなたを味見させてもらいましょうか」
一瞬何を言われているか分からなかったイレーナであったが、ダストンの目に情欲が宿っているのを感じてその意味を察する。
「っ!?」
「いいですね怯えた顔! ずっとその顔が見たかった!」
一歩ずつ近づいてくるダストンに、身震いが止まらないイレーナ。
せめてもの抵抗として悲鳴は上げまいとするが、それでも恐怖で噛みしめた唇が震えだす。
「抵抗してくれた方がそそるのですけどね。まあ泣き叫んでも誰も助けになど」
「悪いが。そう上手くは行かないみたいだぞ」
「だ、誰だ! ぐあぁ!」
聞こえて来た声に反応したダストンは、小屋の外から放たれた弾丸によって肩が貫かれた。
痛みでうずくまるダストンの額に銃口が突きつけられる。
「し、少尉?」
「どうやら間に合ったようで何よりです。王女」
イレーナを安心させるような柔らかい口調で、ユーリは話しかけるのであった。
8月も下旬ですが、皆さま熱中症にはお気を付けを




