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第45話 裏路地の王女

 —―新西暦五十一年八月


 ガスア帝国との休戦がまとまり、少年兵部隊も解体される事となった。

 生き残りはユーリとレイを含めて八名。

 招集されたのが数百名であった事を考えれば、どれだけ過酷だったかが目に見える。


「よおユーリ。まだここに居たのか」


 用意された宿舎にて、旅支度をまとめていたユーリにレイが声をかける。

 ユーリは手を止めると、眠そうな目でレイを見返す。


「眠れなくてな。そういうレイこそまだ出立してなかったのか」

「まあな。早く出たってどうせ待っている家族なんていないしな」


 集められた少年兵は、自ら志願した者と浮浪児であった所を無理やり招集された者と二パターンあった。

 ユーリとレイは後者であり、街に戻ったところで待っている人はいない事は言うまでも無い。


「確かにな。多少は補助金も出るらしいし、まともには暮らしていけるんじゃないか?」

「そう言うお前は金も貰わず国を旅するって? まったく理解に苦しむぜ」

「行く当てがないならお前も来いよ。歓迎するぞ」

「遠慮しとく。俺はお前みたいに腕が立つ訳じゃないしな」


 レイはそう言うと傍にあった簡易ベッドに腰をかけ、思い出に浸る。


「最初会った時の事、覚えているか?」

「勿論。いきなり殴られた事を忘れるもんかよ」

「悪かったって。こっちは無理やり地獄みたいな所に集められて腐ってたのに、生きる為に戦うなんて言われたらイラッと来るだろ」


 笑いながら謝るレイに、対してユーリはムスッとしながらも反論はしなかった。


「生きる……か。結局それが出来たのは両手で数える程。アカバの姓も俺たち二人なっちまったな」


 捨て子であったユーリとレイに姓があった訳ではない。

 アカバと言うのは少年兵同士で共通の姓を名乗ろうと決めたのが始まりだった。


「だな。……そろそろ俺は行く」


 ユーリは荷物を背負うと、宿舎の外へと向かうが足を突然止める。


「なあレイ」

「なんだよ」

「……元気でな」

「ああ。絶対お前より長生きしてやるぜ」

「ハハッ、抜かせ」


 それだけ言うと、ユーリは振り返りもせず去っていった。

 ユーリとレイ、それが最後の会った記憶であった。


・・・・・・・・・・・


 —―そして現在、再会した二人は抱き合いながら再会を喜んでいた。


「聞いたぞ? お前軍に戻ったんだってな」

「そうだけど。誰から聞いたんだよそれ」

「こっちの仕事の都合上な。まあ気にするな」


 どこか含みのある言葉に疑問を感じるユーリ。

 その耳に傍観していたアイシャが口を近づける。


「隊長。流石にこれ以上は」

「……そうだな」


 本来の目的を忘れる訳にはいかず、ユーリはレイに謝る。


「すまんレイ。実は急ぎの用があって」

「いいって。こっちも割と急いでてな。……またな!」

「おいレイ!」


 ユーリの停止も聞かず、レイはさっさと人混みの中に消えていった。


「行っちゃいましたね」

「またなも何も、連絡先も渡してないんだが。ったく」


 愚痴りながらも改めて姫様探しをしようと、踵を返すユーリ。

 だがその脇腹に、誰かが追突してきた。


「うおっ!」

「そこのお兄さん。私と遊ばない? 今なら安くしとくよ?」

(昼間から客引きか?)


 深くフードを被っているため顔は見えないが、若い女なのは間違いない。

 当然ユーリに買う気は無いため引き離そうとするが、力強くしがみついているため中々引き離せないでいた。


「……ちょっと。急いでいるから離れてくれないかしら」


 見かねたアイシャが語気を強めて威圧するが、女も退く気ないようで。


「彼女さん? 私は一緒でも構わないよ」

「なっ!? 違うわよ! と、とにかく離れなさい!」


 顔を真っ赤にしながら女を引き離そうとするアイシャ。

 周りは強引な客引きは珍しくないのか、気にした様子もない。


「まあまあ言わないで。……これを見たら気が変わるからさ」


 女は一度離れると、胸元から何かを取り出して二人に見せる。


「「!!」」


 それを見た瞬間、二人は互いを見て頷き合う。


「こっち来て。穴場を教えるから」


 と言って歩き始めた女に導かれるように、後をついて行くユーリとアイシャ。

 やがて人気のない裏路地まで来ると、女はフードを脱ぎ去り態度を急変させる。


「よく来てくださいました。感謝いたします」


 先ほどとは違いどこか威厳のある立ち振る舞いをする女に驚く事無く、二人は礼を取る。


「いえ、ご無事で何よりです。イレーナ王女」

「今はただのイレーナです。どうぞ名で呼んでください」


 ボロボロの服を身に纏いながらも、彼女は気品が溢れていた。


「エリンまで護衛、よろしくお願い致します。バンデルのためにも」

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