第44話 再会、モストーンにて
モストーンはアーストンとガスア、二大国家に挟まれた非常に貧しい国である。
どちらに付こうと戦闘の最前線になるのは目に見えているために、中立という立場しか選べなかった国でもある。
故にモストーンではならず者や犯罪者のたまり場となっており、市民の暮らしも困窮していた。
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モストーンの首都ダラク
貧困している国の中では栄えている方であるこの街の大通りでも、物乞いが多数見受けられた。
そんな中をマントを身に纏って歩くのは、ユーリとアイシャの二人であった。
「……」
「あまりキョロキョロするなよ。この国では人さらいなんて四六時中あるからな」
「り、了解」
頷くアイシャであったが、やはり周りが気になるようで視線が泳いでいた。
「……戦争中よりマシだろ。こういった光景は」
「……だとしても、いい気分はしません。逆に隊長は平気なんですか? こういったのは」
アイシャにそう問われたユーリは、曇り空を見上げながら息を深く吐く。
「思う事が無いと言えば嘘になる。だが残念な事に俺に他を気にするだけの余力はない。日々を生きるので精一杯だ」
「他に目的が見つからないだけでは?」
「そうとも言うかもな」
「悲しい人生ですね」
「……かもな」
上官に向けられたとは思えない言葉にも、ユーリはただ静かに答えた。
その答えにアイシャは、ため息を吐くと彼の肩を強く叩く。
「いっ!」
「しっかりして。少なくとも隊長としては悪くないんだから、少しは胸張ってくれないと」
「……手痛い激励な事で」
「ふん」
マントで隠れてはいたが、彼女の顔が少し照れたように赤くなっていた事をユーリは指摘しなかった。
「で? イレーナはこの街のどこかにいるのよね」
流石に王女と呼ぶ訳にもいかず、わざと呼び捨てにするアイシャ。
今回の作戦の事はデュラハン隊全員と、艦長らにしか詳細は知らない。
他のクルーには要人警護と伝わっているである。
そして亡国の王女であるイレーナを迎えに行くために、ユーリとアイシャが街を出歩いているのだ。
「そのはずだがな。さっさと見つけてエリンまで送り届けないと」
「頼みますから、本人を前にそんな言い方しないでくださいよ。隊長」
「努力する」
「はぁ」
幸先が不安になるアイシャを横目に、ユーリは王女がいないか周りに目を光らせる。
だがその途中、急にユーリの足が止まる。
「隊長?」
アイシャの問いかけにも返事はせず、ただ驚愕の顔を晒していた。
「隊長!」
「あ。……すまん」
「何かあったんですか? 珍しい顔をしてましたけど」
「……いや、多分気のせいだ。ここに居る訳がない。先を急ごう」
動揺を隠すように早口になるユーリが先に進もうとすると、その後ろから声が聞こえてきた。
「お前。まさかユーリか?」
その声に反応して二人は後ろを振り向く。
そこには長身の十八ぐらいの少年が、驚きの表情でこちらを見ていた。
アイシャは念のため銃に手をかけるが、ユーリも相手と同じぐらい驚いた表情で口を開く。
「……レイ」
「! やっぱりユーリか! 久しぶりだなオイ!」
「お前もな! 全然変わってないな!」
「お前が言うな、お前が!」
互いに旧交を深め合うように抱き合うユーリと少年。
ポカンとしているアイシャであったが、取り敢えず話を聞くことにする。
「あの。……お二人の関係は?」
「ああ、すまん。こいつはレイ・アカバ。元少年兵の生き残りの一人だ」




