第40話 タイムリミット
「退け!」
気迫の言葉と共に繰り出されたサーベルによる一閃は、並のパイロットならば防ぐ事が叶わないスピードで胴体を狙う。
「そう簡単に!」
だがカーミラは回転する刃が唸る大剣を扱い、ユーリの一撃を防いでみせる。
実体剣とエーテルで作られた刀身であるはずなのに、そのままガッチリと鍔迫り合いとなる
「ちっ! エーテルコーティングか!」
【はい。ですがコーティングは大剣のみのようです】
「まだ朗報だが、簡単には斬らせてもらえそうにないな!」
ユーリは体勢を立て直すために一度引くが、カーミラはその隙を狙って大型のライフルの照準を合わせる。
「っ!」
「油断大敵♪」
躊躇なく撃たれたライフルは、晴天を引き裂く閃光となってユーリに襲いかかる。
「っ! やらせるか!」
本来であれば被弾間違いなしのタイミング。
だがユーリはスラスターを全開で吹かしながら、ファフニール耐久度ギリギリの駆動で避けてみせる。
そしてそのままライフルで反撃の一矢を放つ。
「くっ!?」
残念ながらエーテル光はカーミラ機の肩装甲を掠った程度であったが、彼女の動きを止めるには十分であった。
その間にユーリは体勢を整え、改めてカーミラと対峙する。
「あはっ! やっぱりアナタ最高ね♪ ゾクゾクするわ」
「悪いがこっちは戦闘を楽しむ趣味はない。さっさと退いてくれると助かるんだが」
「無理ね。わざわざ大金払って追いかけて来たんだから、もっと楽しみましょう」
「……やってる事はストーカーだぞカーミラ・ウォン」
「そうさせたのはアナタよ。責任取ってね」
「はっ! 誰が!」
カーミラの言葉にあざ笑いで返すユーリであったが、内心ではそれほど余裕がある訳でなかった。
(間違いなくカーミラ・ウォンは手強い。次の発射までには間に合いそうにない)
冷静に現状を整理すると、ユーリは思考を切り替えてカーミラを倒す事に集中する。
(三人とも、後は任せた)
前線で命を張っている三人を思いながら、ユーリはライフルで威嚇しながら再びカーミラに接近していく。
対するカーミラも、大剣を唸らせながら迎え撃つのであった。
・・・・・・・・・・・
その頃前線では、要塞の最終防衛部隊とアーストンの精兵がロンギヌスを巡って争っていた。
「ああもう! 撃っても撃ってもキリがないよ!」
「カレリン! 無駄口叩かないで!」
他の部隊と共にロンギヌス攻略を目指すミーヤとエルザであるが、ガッチリと固められた防衛ラインに手こずっていた。
「そうは言って、も!」
後ろから迫って来たワスプ二機をライフル二丁で撃ちぬくミーヤであるが、焦りが顔に出ていた。
既に作戦開始からそれなりの時間が経っている。
敵兵器がどれほどチャージが掛かるかは不明だが、いつ発射されても可笑しくないタイミング。
不安になるなという方が無理であろう。
「だから! 目の前に! 集中しなさいって!」
一方でエルザも、銃剣式のハンドガンで敵を打ち倒しながらも焦りが出始めていた。
こういった状況で頼りになるユーリも、現在カーミラと交戦中なのはレコを通して伝わっていた。
(このまま押し切れるといいのだけど……)
だが状況的にはアーストン有利で事が進んでいる。
もう少しすれば後方の部隊も追いついてくるハズであるし、後はロンギヌスがいつ撃たれるかという問題だけであった。
だがエルザの期待を引き裂くように、コックピット内にアラートが鳴り響く。
「!!」
表示を見てみれば、大量のエーテルが集中し始めている事が示されていた。
砲塔の方を確認すると、今にも発射寸前といった様子であった。
「間に合わなかった!?」
「……っ!」
ミーヤの叫びに何も答えられず、撤退の文字が脳裏に浮かぶエルザ。
だがその空気を切り裂くような一喝が、通信越しに聞こえてきた。
「諦めてるんじゃないわよ!」
「ウェルズ」
「アイシャ!」
通信と共に二人と合流したのはアイシャであった。
装甲が傷だらけの愛機を気にした様子もなく、到着したアイシャは二人に喝を入れる。
「あれだけの質量のエーテル、発射するにも時間が掛かるはず! まだチャンスはある!」
「……一応聞きますけど、生き残る気はありますよね?」
「当然でしょ。むしろこのままアレを放置するよりよっぽど可能性は高いと思うけど?」
「はぁ。分かりました。付き合いますよ曹長」
「当然私もね! 三人ならやれるやれる!」
いつも通りに思えるミーヤの言葉に、思わず笑みがこぼれる二人。
だがすぐに表情を引き締めると、スラスター吹かせて砲塔に向かう。
—―デュラハン隊三人による、ロンギヌス発射阻止の決死行が始まった。




