第39話 白と黒の対決、再び
――新西暦五十六年 六月中旬
戦力で勝るアーストンに対し、バルアは徹底的な守備陣形を取る。
新兵器であるロンギヌスの放熱とエーテル充填を待ち、今度こそアーストン艦隊を撃ち貫く算段であった。
無論それはアーストン側も承知しており、戦いは開幕から苛烈さを増していく。
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「邪魔だ!」
ライフルから撃ち出される青いエーテル光が、バルアの主力MTである『ワスプ』を貫く。
晴天に火花を散らしながら爆散する機体の横を通り過ぎながら、ユーリはアイシャたちに通信を繋ぐ。
激しい乱戦の最中に三人を見失ってしまったのである。
「全員無事か?」
「こちらシュミット。現在カレリンと合流して敵砲塔に接近中」
「同じくミーヤ! もう少しで最終ラインに到着です!」
「こっちはとっくに前線よ! ただ敵部隊に囲まれて新兵器に近づくのは難しそう!」
「って事は俺が一番の出遅れか」
【仕方ありません。一番敵の防備が厚い所を突っ切っていますから】
「まあそりゃそうだ!」
アイギスに返事を返している間にも敵小隊が接近して来たが、ユーリは素早くライフルで二機射ち落す。
そしてエーテルサーベルとシラヌイを構えると、スラスターを吹かせて残りのMT小隊の横を通り過ぎていった。
瞬く間に切り裂かれて爆炎となるワスプを振り返る事無く、ユーリはそのままの勢いのまま前線へと向かう。
「このまま最短で前線に向かう! それまで全員やられるなよ!」
「「「了解!」」」
三人の返事を聞くと、ユーリは通信を切ってひたすら敵防衛線を突っ切っていく。
バルア側もどうにか突っ込んでくるユーリに、射撃で動きを止めようとする。
だがアイギスの情報処理とユーリの操縦テクニックが合わさったファフニールは、白い流星の如く動きを捕らえる事は出来なかった。
「アイギス! 敵兵器まであとどの位だ!」
【あと四分で最終防衛ラインに到着すると思われます。既に味方が攻略を開始していますが、苦戦中の模様です】
「そんじゃ速く行って手助けに……っ!」
【直撃コース!】
「分かってる!」
止まらずに突き進んできたユーリであったが、たった一条のエーテル光に回避運動を取らされた。
先ほどまでの動きを止める為の攻撃ではなく、破壊を狙った一撃にユーリは冷や汗が出そうになった。
【MTが急接近中。データに合致する機体あり】
「……こっちとしてはもう会いたくなかったんだけどな」
「つれないわね。私はこの日を待ちに待ったのに」
ワスプの大軍から割って出てきたのは、ユーリが一度見た事がある黒いMT。
どこか女性的な丸みを持つその機体を、操るその人物の名を彼はまだ覚えていた。
「カーミラ・ウォン」
「覚えてくれていたようで何よりよ。じゃあ早速殺し合いましょうか?」
そう宣言するとカーミラは、自身の得物でもある大剣のチェーンソー機構を起動させる。
爆音を鳴らしながらユーリに突きつける大剣は、さながら凶犬の牙を連想させた。
「……これは間に合いそうにないな」
【逃げ切るルートを算出します】
「逃がしてくれると思うか?」
【場を和ますジョークと捉えてくれれば】
「だったら帰艦したらジョークの情報も入れておけ」
【了解です。ユーリ】
ユーリはエーテルサーベルとシラヌイ、二刀を構えるとスラスターを全開にしてカーミラに突っ込んでいく。
「あは♪ 存分に斬り合いましょう!」
幾つもの爆炎が青空を焦がす中、黒と白の対決が再び始まるのであった。




