第38話 戦乙女の本領
「すぐに二射目が来ます! 各艦は直ちにMT部隊を射出後、敵兵器の速やかな破壊を!」
カゲロウのブリッジにて艦隊に指示を飛ばすエリカ。
その姿は戦乙女の二つ名に相応しいと思える、凛々しい姿であった。
艦長であるローランドは前進の指示をクルーに飛ばすと、副長であるジェイドと語り始める。
「しかし疑って訳ではないが、本当に上手くいくとはな」
「ええ。最初に聞いた時はどうなるかと」
エリカが立案した作戦、それは各艦の上にダミーのバルーンを付け地面スレスレで要塞に向かうというものであった。
作戦を聞き難色を示した士官も多くいたが、エリカの熱意と弁説に押されて決定された。
「お二人とも。既に作戦空域です。私語は控えた方がよろしいかと」
「おっと、これは申し訳ない戦乙女殿」
エリカは注意され謝罪するローランドであったが、ジェイドは逆に質問を返す。
「ブレイン少佐は何故この作戦が上手く行くと思われたので? 今後の為にも聞いておきたいのですが」
「……本来ならこんな時に説明するのも違う気がしますが、いいですよ」
一度咳払いして喉を調子を整えてから、エリカはこの作戦について解説していく。
「敵の長距離エーテル砲は確かに今までにない程の射程を持っています。ですが撃つためには10キロにも渡る広範囲をしっかりと把握しなければならない」
「……その為の監視塔か」
「その通り。バルアが幾つも監視塔を設置したのは、まさにその為。逆に言えば全てフォローできる程のレーダーは持っておらず、監視塔の報告で補強する必要があるという事」
「なるほど。だから先に監視塔を破壊していった訳か」
二人が納得しているのを確認して、エリカは次の説明に入る。
「そして要塞のレーダー内に入る距離まで行けば向こうは思うでしょう。『何としても削らなければ』と。念のため目視されてもいいようにダミーを飛ばしましたが、判別できる位置まで距離を詰めれば敵兵器の利点は無いに等しい。どちらにせよ、敵が監視塔を守る事を疎かにし、兵器の内容をこちらが知った。その時点でこの作戦は成功していました」
「なるほど」
ローランドとジェイドが頷いていると、エリカは改めて前方に集中する。
「さぁ、お喋りはここまでです。我々の仕事をしましょう」
弛緩していた空気を引き締め、ブリッジが一気に慌ただしくなる。
(私に出来るのはここまで。……後は頼みましたよ、少尉)
エリカは心の中でユーリに託すと、僅かな変化も捕らえられるように報告を聞き続けた。
・・・・・・・・・・・
「デュラハン隊は発艦したら、敵兵器の破壊を目指してください。途中バルアのMTによる妨害があると思われますので、注意してくださいね」
「了解。三人とも聞いたな? 敵を掻い潜って破壊すればこっちのもんだ。今回も生きて帰るように」
「了解です!」
「勿論」
「……」
「? アイシャどうした? ぶつけた頭でも痛むか?」
頭を擦りながら答えようとしないアイシャを心配するユーリだが、返ってきた口調は怒ってるようであった。
「頭をぶつけたのは隊長のせいじゃないですか。あんなワイヤーで無理やり」
「そうでもしないと躱せなかっただろ? 感謝しろとは言わないけど、恨むのは筋違いだと思うが?」
「それは……あぁもう! こうなったこのイライラをバルアの奴らにぶつけてやる!」
「無茶はし過ぎるなよ。さて、そろそろ行くか。……アイギス」
【システムオールグリーン。何時でも行けます。ユーリ】
リニアカタパルトに向かいながら、ユーリは一人思う。
(あっちはやるべき事をやってのけた。なら後はこっちがやるだけだ)
【リニアカタパルト固定完了】
「……よし。ユーリ・アカバ! 出る!」
—―ドリトドン要塞をめぐるアーストンとバルアの戦いが、ついに始まろうとしていた




