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幕間 若い獅子と死神

「……」


 ユーリが赤獅子ことバレットとの一騎打ちに勝って。

 つまりペギンがアーストンに降伏してから五日後の事である。

 ある人物と会うためにユーリはリビィアンから少し離れたオアシス近くまで来ていた。

 砂塵が風に舞うのを見ながら、ユーリは指定された場所まで歩いていく。

 どこか緊張した面持ちで時計を何度も確認しながら、向かうその表情はまるで戦場の時のようであった。

 時間近くになってようやく到着すると、待っていた人物は気さくに声をかけてきた。


「やあ、初めましてだね。アカバ少尉」

「……ええ初めまして。ロラン・クルーガーさん」


 バレット・クルーガーの孫であるロラン。

 この地に呼び出した人物の予想以上にフランクさに面喰らうユーリではあったが、警戒した様子で本題に入る。


「わざわざ軍経由で連絡を取って呼び出すなんて、一体何の御用ですか?」

「それは口で言うより来てくれた方が伝わるさ。一緒に来てくれ。それとも罠が怖いかな?」

「……」


 少しふざけた様に言ったロランは、返事を聞かずに先導するように歩き始める。

 ユーリも黙ったままであったが、その後を追う。

 しばらくオアシスの周りを黙って歩く二人であったが、ロランが間を持たせるためかユーリに問いかける。


「しかしよく一人で来れたね。護衛が付く事は覚悟していたけど」

「まあ、説得するのには苦労したよ」


 実際、ユーリがこの場所に来るまでは相当の苦労があった。

 罠を疑い護衛を付けたがる艦長のローランドや副長のジェイドの説得は特にだ。

 だがユーリは一人で来る事を選んだ。

 罠ではないと妙な確信があったから。


「まあ実際こちらも似たようなものだけどね」

「と言うと?」

「危害を加えられるかも知れないと散々言われたよ。期待をかけられるっていうのも辛いもんだ」

「そうですね」


 会話を通じてロランの事が分かってきたような気がするユーリ。

 その後も二人は少し前まで敵同士だとは思えないほど会話が弾む。


「着いたよ。ここだ」


 ロランが立ち止まった先にあったのは、砂漠地帯には珍しい花々の数々。

 ――そして質素な一つの墓であった。

 ユーリの位置では墓に彫られている名前は見えなかったが、大体の察しはついた。


「もしかして此処は」

「そう。爺さんの墓だ」


 先ほどとは違い真面目な様子となったロランは、墓の前で手を合わせる。


「ここは爺さんのお気に入りの場所で、墓を建てるなら此処にしてくれって言われてたんだ」

「……何故俺をここに?」


 連れてこられた理由が分からず問いかける質問するユーリに、ロランは笑みを浮かべながら振り返る。


「もちろん。爺さんの敵討ちさ」

「!!」

「って話だったらどうする?」

「……脅かさないでくれるか」

「はは、済まない」


 ユーリは握り掛けた銃から手を放したのを見て、ロランは改めて理由を語り始める。


「簡単に言うと。爺さんの事をもっと知って欲しかったから、かな」

「……」

「爺さんが何で少尉に執着してたのか俺は知らない。けど、それだけの人間だったとは思われたくなかったんだ。ゴメン、上手くまとめられない」

「いや、伝わったよ。想いは」

「そっか」


 そう言うとロランはもう一度、バレットの墓に向かって手を合わせる。


「少尉。良ければ手を合わせてくれないか?」

「いいのか? 殺した相手だぞ」

「ああ。きっと爺さんも望んでる」


 それを聞いたユーリは、ロランに合わせて手を合わせる。

 すると小さな声でロランが墓に語り掛け始めた。


「爺さん。これからペギンは変わっていく。どう変わっていくかはこれから次第だけど、爺さんの死が無駄にならないよう皆が頑張ってる。だから、安心、して、くれ」


 途中から涙混じりになっても、ロランは終始笑顔を作っていた。


「……ふぅ。付き合ってもらって悪かったですね少尉」

「いや」

「こんな事を言われても戸惑うかも知れないけど、どうかこれからも生きてくれ」

「ああ。生きて憶えておくよ。バレット・クルーガーの事を」

「ありがとう」


 その後、二人は夜遅くまでバレットまで語り合った。

 アーストンとペギン。

 敵対していた国同士の若きエースたちの間に、友情が生まれた日となった。

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