第28話 白と赤の交差
そこからのユーリは防戦に徹せざるをえなかった。
迫るランスロットⅢのランスを、ユーリは躱す。
だが避けきれなかった攻撃によって、段々とファフニールの白い装甲に損傷が増えていく。
「っ! アイギス!」
【損傷率20%に到達。駆動系各部に問題はありません】
「装甲追加しといて良かった、な!」
機関砲による追撃を避けつつ何とかシラヌイを回収しようとするユーリだが、バレットはそうはさせまいと牽制し続けている。
「このままだとジリ貧だな」
【その可能性は非常に高いかと】
弱気な言葉を漏らすユーリ。
だがその表情は、何かを確信しているかのようであった。
「……アイギス。悪いが賭けに出るぞ」
【お任せしますユーリ】
アイギスに確認を取ると、ユーリはエーテルサーベルを両手に展開。
二刀流となったファフニールに一瞬ランスロットⅢの動きに躊躇が見れたが、すぐさまランスを構え突撃体勢を取る。
だがバレットが突撃する前に、ユーリが距離を詰める。
先ほどまで防戦一方であったとは思えないほど、苛烈に攻めていく。
だがエーテルコーティングされたランスロットⅢの赤い装甲を切り裂くには至らず、幾らかの傷が付くのみであった。
「悪あがきを!」
バレットは一瞬の隙を突いてファフニールにタックルを喰らわす。
「っ!」
その衝撃にコックピット内が揺れ、ユーリは思わず顔を歪める。
すぐさまバレットは追撃を行い、巨大ランスをファフニールのコックピットに向けて突き出す。
躱しきれないと判断したユーリは、左腕で迫るランスを殴りつけた。
結果としてランスは軌道を逸れ宙を貫いたが、ファフニールの左マニピュレーターは見るも無残になってしまった。
ランスロットⅢは一度態勢を立て直すためか距離を取りつつ、ファフニールの様子を伺う。
武器を構えた状態での睨み合いとなり、そのまま時間が経過していく。
光輝く太陽が砂漠と赤と白、二機のMTを照らす。
だがその時間も長くは続かず、バレットは再びランスを構え突撃体勢を取る。
対するユーリも残る右腕でエーテルサーベルを構え、迎え撃とうとする。
決着は近い。
この戦いを見ていた誰もがそう感じていた。
そして何より、いま戦っている二人に至っては確信すらしていた。
動いたのはランスロットⅢ。
赤き弾丸のように飛び出したバレット
狙うはコックピット。
(この一撃で終わらせる!)
その気持ちと比例するようにスラスターを全力で吹かし、ランスを繰り出す。
最早ユーリに対抗すべき手段はない。
若い命を散らせる事に罪悪感を覚えなくはなかったが、ここで因縁を終わらせるbきだとバレットは確信する。
だがその眼前に、飛来するものがあった。
「何!?」
弾いてからそれがファフニールのエーテルサーベルだと理解したバレット。
唯一の武器を捨てたユーリにトドメを差すべく、再び突撃しようとする。
だがファフニールの右腕から鋭い爪が飛び出し、ランスロットⅢに向かってくる。
(まだ武装があったか!)
先ほどの投擲で動きを止めていたバレットであったが、迫り来る爪を装甲に掠りながらも回避する。
(勝った!)
回避に成功した事でそう確信するバレットは、突撃を再開。
勝利を収めんと渾身の突きを繰り出そうとする。
――その音を聞き取れたのは、単なる偶然であった。
物が巻き取られるような駆動音が、バレットの耳に飛び込んできたのである。
(何だ、この音は)
そう疑問をもった時、ファフニールの右腕から黒い線が飛び出しているのに気づく。
何かがおかしいと気づくのと、後ろからワイヤーによって巻き取られたシラヌイが横を通り過ぎるのは同時であった。
バレットが全てに気づく頃には、シラヌイはファフニールの右腕に収まっていた。
だが気づいたところで突撃は止まらない。
繰り出したランスの突きに合わせ、ユーリはシラヌイを振り降ろす。
((間に合え!!))
白と赤の交差は一瞬
互いに武器を繰り出した状態で停止する二機のMT。
攻防の決着は砂漠に突き立てられた赤い右腕とランスが物語っていた。




