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第25話 リビィアンの決闘

 ペギン側から提示された条件は、アーストンにとって不意を突くものであった。

 バレット・クルーガーとユーリ・アカバによる一騎打ち。

 ユーリが勝てばペギンは全面降伏、バレットが勝てばアーストンに自治区として存在し続ける事を承認せよとの条件。


 勝っても負けても降伏するという意味ではあるが、一騎打ちを受けるかどうかで上層部はかなり揉めた。

 降伏させるなら受けなくても良いという考えもあるだろうが、ここで拒否すればアーストンは臆病者と言われる事だろう。

 それは今後統治していく上でも、都合の悪い事であった。


 そもそもの条件で、ユーリを出す事を反対する者もいた。

 ペギンの赤獅子として名をはせたバレットに対し、白い死神として名を残しているとは言え十八の少年を出す事に抵抗感を覚えたのだ。


 だが長時間の話し合いの末、アーストン側はこの条件を了承。

 その裏には通信で割り込んできた一人の少将がいたともされるが、真偽は不明なままである。


・・・・・・・・・・・


「整備急げ! 半端な仕事をするんじゃねぇぞ!」


 カゲロウの格納庫内で、バーナードが他のメカニックたちに発破をかける。

 一騎打ちが決まる前から、彼らは何時でも出られるようにファフニールを特殊仕様にカスタマイズしていた。


「やってるな」

「おお小僧、こっちは間に合いそうだぜ」

「……無駄骨にならなくて良かったが、責任重大だな」

「ハッ! 似合わない事言ってないで調整を手伝いな」

「分かった。装甲かなり厚いな」


 追加装甲によって見た目がゴツくなったファフニールを見ながら、ユーリはコックピットに乗り込み問題がないか確かめる。

 その横でバーナードは今回の調整の内容を大雑把に説明する。


「接近戦に特化させて各部調整をしておいた。あと例の武装もギリギリ間に合った」

「見えてたよ。タイミングが良すぎて誰かさんの陰謀を感じるけど」

「アイツもそこまで性格悪くないだろう。多分な」


 どこかの少将の話をしながら、ユーリは新装備のデータを確認する。


「試作実体型エーテル加工刀『シラヌイ』」

「テストでは重装甲のMTも両断できるって話だ。さらに最新式のエーテル加工でエネルギー体も切り裂く事が出来るらしいな」

【試作型とは言え貴重な武装です。今回の一騎打ちでの切り札になりえるかも知れません】


 二人の話し合いにアイギスも加わり、調整は続けられていく。

 そして時刻ギリギリまで調整は続けられたのであった。


「メカニックが出来るのはここまでだ。後は自分でなんとかするんだな」

「言われなくてもそうするつもりだ。これからもな」

「ハッ! その減らず口がまた聞ける事を祈ってるぜ」


 そう言い残すとバーナードはコックピットから降りていく。

 コックピットを閉じ、一人きりとなった空間でユーリは深く深呼吸をする。


【緊張しますか? ユーリ】

「……問題ない。やる事はいつもと変わらない」

【少しは弱音を吐いても構わないかと思われますが】

「生憎と素直なんて奴は何処かに置き忘れてね」

【変わった人ですね】

「今更だろ」


 そのように話している内に、緊張が取れてきたのか少しばかりユーリにも笑みが浮かぶ。


「少尉。時間です」

「ああ、行ってくるよデコ」

「突っ込んで欲しかったら生きて帰ってくださいね」


 レコと軽いやり取りをすると、ユーリはファフニールを発進させる準備を進める。


「ユーリ・アカバ。ファフニール……出る」


 一騎打ち時刻の十分前、アーストンの白い死神はカゲロウから飛び立つのであった。

 ―後にリビィアンの決闘と呼ばれる歴史的な戦いが始まろうとしていた。

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